生ぬるい風が私の頬を撫でる。
心の奥がむずむずするような気持ち悪い雰囲気。
空は灰色で覆いかぶさっている。
今にも雨が降りそう。
朝6時に家を出て駅へと向かう。
けじめをつけなければならない。
いつも降りる駅までは行かずに隣の駅で降りた。
改札を通りベンチに腰掛ける。
鼓動が高鳴る。
落ち着かずにそわそわしてしまう。
スマホを開いてもなんだか見る気になれなくてすぐさま閉じる。
ふと目線を前へ送ると彼がこちらを向いている。
「陽菜、?」
そういって私の元へと歩いてくる。
目の前で立ち止まり瞬きを2回した。
「どうしたの?」
彼は黒い瞳で私をじっと見て問いかける。
私は深呼吸をひとつしてゆっくりと立ち上がった。
「話が、あるの」
そう言って駅を出た。
彼は私の後ろを静かに着いてくる。
駅の近くの公園のベンチに腰を下ろす。
そして彼の方へ向き視線を落とす。
そこには両手が握りこぶしになっている彼の手がある。
緊張しているのだろう。
私は視線を上げ彼の目を見つめる。
「あのさ、」
「奏汰って私の事、好き、だよね、?」
奏汰が私のことを好きなのは知っているがいざ口に出してみると小っ恥ずかしくなる。
「え、あ、なんで、?なんで知ってんの?」
動揺して彼が立ち上がった。
「だから、私も、その好き!」
「私と付き合ってくれませんか、?」
これでいい。
どれだけ彼に忘れられたってまた私が告白すればいい。
大丈夫。
ふと視線を下げると私の手が震えていることに気付く。
彼は何回もこんな思いをして私に告白してくれいたのだと痛感する。
それなのに私は、いつも逃げて。
自分のことしか考えてなかった。
彼の方へと視線を戻すと目を大きく見開いてこっちをじっと見ていた。
「本当に、?」
「ほんとだよ」
「えっと、俺も好きです。よろしくお願いします。」
彼は優しく私を見つめてそう、返事をした。
8月上旬。
彼氏が出来た。
「あっつー」
太陽がジリジリと照りつける。
私の額から一滴の汗が頬をつたう。
そして顎までくると雫となり地面へと落ちた。
雫の後は太陽に照らされて蒸発し跡形もないように消えていった。
堤防から立ち上がると私の白のワンピースが揺れる。
少し先からは奏汰が歩いてくる。
私に大きく手を振り小走りで走ってくる。
「ごめん!お待たせ!」
そう言って眩しいくらいの笑顔で私を見る。
「んーん、大丈夫。行こっか。」
そう言うと彼は私の手に自分の手を絡める。
ゆっくりと、私の歩幅に合わせて左側を彼が歩いている。
私とは違う手の大きさ。
細くて大きくて安心感に包まれる。
8月中旬。
今日は夏祭りがある。
地元の神社へと足を運ぶ。
私は暑いのが嫌いで毎日憂鬱な気分になるはずなのに、今日はなぜだか足取りが軽い。
ふわふわして天に召されてしまいそうな程だった。
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