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翌日は、日曜日だった。
「んー!」と沙織は、久しぶりに自分のベッドで目を覚ました。
『おはようございます。サオリ様』
「ごめんね、シュヴァリエ。ベッド狭かったでしょ?」
『……いえ、大丈夫です』
リュカの状態のシュヴァリエには、沙織のベッドで一緒に眠ってもらった。シュヴァリエは床で寝ると言い張っていたが――。沙織は譲らなかった。
(異世界から付き合ってくれた客人に、床でなんて寝させられないもの! 私だって、見知らぬ世界でみんなに良くしてもらったし)
沙織が着替えの為に部屋を出ると、残されたシュヴァリエは、複雑な面持ちでベッドにちょこんと座っていた。
どうも、リュカの姿だと沙織は全く警戒心が無くなる。このことは、ガブリエルとミシェルだけには、絶対に知られてはならない。……シュヴァリエはそう思った。
◇◇◇
身支度を済ませ、両親とシュヴァリエと一緒に食事をとった。
それから沙織は、自分の部屋の片付けを始めた。また暫く留守にするのだから、ある程度は綺麗にしておきたい。
すると、突然――。
ピンポーン!ピンポーン!
早朝から家のインターホンが鳴る。すぐに、バタバタと階段を駆け上がってくる音がした。
リュカ姿のシュヴァリエは、神経を張り巡らせる。
ノックもなく、バタンッとドアが開くと――。
「沙織ぃぃ〜! 心配したよおぉぉぉ……!!」
「え!? ちーちゃんっ!?」
昨夜のメッセージを読んで、飛んできてくれたのだ。千裕は沙織に抱きついて、ベソベソ泣いた。
「急に居なくなるんだもん! 心配したよぉ……」
「ごめんね……」
よしよしと友人を慰める。
「ねえっ、沙織! 本当にあの世界に行くの? そんな事が出来るの?」
「うん。どうも私にはその力があったみたい」
「いいなぁ……私も行ってみたかった!」
――と、その時!
天井の転移陣がピカッと光った。
「「えっ!?」」
『……!!』
ドサッ、ドサドサッと転移陣から人が降ってきた。
「う、うそっ?」
転移陣からやって来たのは、何と!
ガブリエル、カリーヌ、ミシェルの三人だった。
「サオリ様っ!! ご無事ですかっ!?」
「か、カリーヌ様? なっ、どうして?」
「サオリ姉様、一ヶ月も戻らないので心配していたのですよ」
「あ……こっちと時間の流れが違うから。こちらでは、まだ一日しか経ってないのです」
「そうだったのか……では、私はご両親に挨拶をさせてもらいたいのだが」
「あ、はいっ。お義父様」
それを見ていた千裕は、完全に我を失い……感動に酔い痴れた。
「や、ヤバい。ミシェル、ガブリエル、カリーヌまで居る。凄い! 超美人に超絶イケメン!! え、カワウソまで!?」
(……うん。ちーちゃんは落ち着くまで放置しよう)
狭い沙織の部屋は、完全なカオスだった。
取り敢えず、両親へ挨拶したいと言ったガブリエルを案内してリビングへ向かう。
父親同士は意気投合し、母親は……破壊力抜群の美貌の公爵に、やはり放心状態になった。
ピンポーン!と、またしても玄関のインターホンが鳴る。
(……今度は誰よぉ?)
玄関を開けると見覚えのある、だいぶ背の高くなった元カレBが友人Aと立っていた。
「へ? なんで、直樹君と……澪ちゃん?」
「久しぶり、沙織ちゃん。メッセージした通りなんだけど……また付き合ってほしいんだ」
「私も、沙織と仲直りしたくて。卒業したら、芸能界行っちゃうんでしょ?」
「はい? 意味が解らないんだけど?」
「だから、仲直りしましょうって言ってるの!」
怪訝そうにする沙織に、澪は苛立ったようだ。
(この表情……いつかのスフィアみたい)
どうやら沙織は、高校のアイドル投票で欠席したにも関わらず一位になっていたらしい。千裕がそっと教えてくれた。
下心満載の二人に、げんなりした。
馴れ馴れしく触れてこようとした二人を、スッと避ける。
「いや、芸能界入らないし。あなた達とは友達にもなれないわ」
「「なっ!!」」
澪がカッとして手を上げようとすると、瞬時にシュヴァリエが手を捻り上げ突き放した。
「サオリ様には、触れさせません」
そして、呆然として座り込んだ二人の目の前に、こちらの世界ではあり得ない美貌のカリーヌが、ミシェルを連れてやってきた。
(……え? カリーヌ様?)
カリーヌは一歩前に出ると、ミシェルを超える程の冷たい瞳で二人を睨みつけ、口角だけ上げて威圧的に微笑む。
震え上がる二人に、カリーヌはピシャリと言った。
「あなた達の様な最低な下民が、高貴なサオリ様に触れて良いとお思いなの? 身の程を弁え、さっさと此処から消え失せなさいっ!!」
その迫力に、二人は逃げるように走って行った。
「……カリーヌ様?」
沙織の呼びかけに、クルッとカリーヌは振り返り、いつもの優しい笑顔を見せた。
「ちーちゃん様、こんな感じでよろしかったですか?」
「カリーヌ様、最高です! 完璧な、悪役令嬢です!」
(ちーちゃん!? カリーヌ様になんて事させるんだ!)
「ふふ、サオリ様に意地悪する方は私が許しませんわ」
「カリーヌ様、大好きです!!」
優しく可愛らしいカリーヌに、思わず抱きついてしまった。
◇◇◇
その後――両親と千裕に、みんなでお別れの挨拶をした。
「ガブリエルさん、沙織をよろしくお願いします!」
「勿論です。大切に守っていきます」
ガシッと、父親同士は固い握手を交わす。
「沙織、元気でね。彼氏出来たらちゃんと紹介してね。パパには秘密にするから」
「ママったら……うん、もちろんよ」
「ねえ、沙織はあのゲームのタイトル知ってる?」と、ちーちゃんはコソッと訊いてきた。
「あ、知らないわ。うん、でも知らないままでいいや! だって、向こうの世界はちゃんと存在して、ゲームじゃないから」
「あはは、沙織らしい。あっちでも頑張ってね!」
「うん!」
そして、起動した転移陣で――みんな揃って、向こうの世界へと転移した。
◇◇◇
無事に研究室に帰ってくると、心配そうなステファンが疲れきった顔で待っていた。
「はぁぁ……やっと、帰って来ましたね」
どうやらアーレンハイム家の皆は、無理矢理ステファンに転移させもらったみたいだ。
(ごめんね、ステファン様……)
そして翌日には。
沙織は、カリーヌとミシェルと共に、学園へ戻る事になった。
「サオリ、学園の卒業式にはダンスパーティーがあるのだよ。その時までに、エスコートしてもらう相手を探しておきなさい」
「そんなイベントがあるのですか?」
「相手が居なければ、私がエスコートしよう」
「学園の生徒でなくても良いのですねっ。見つからなかったらお願いします!」
ガブリエルは笑って頷いた。
「父上、サオリ姉様には僕が居ますから大丈夫です」と、ミシェルはガブリエルに負けじと微笑む。
「サオリ様の卒業式……私も見に行かせてください」
「ええ、シュヴァリエぜひ!」
(シュヴァリエは、影だからちゃんと参加した事がないのかも……だったら一緒に楽しんでもらおう!)
沙織の考えを察知した、ミシェルとガブリエルは冷気を帯びた視線をシュヴァリエに送ったが――シュヴァリエは精神も逞しく、それをスルーした。
こうして、沙織の異世界での生活がまた始まった。
◇◇◇
今朝も沙織は、カリーヌとミシェル、イネスと一緒に学園へ向かう。
前を歩くカリーヌの後ろ姿を見て、幸せを感じていた。
優しく美しい公爵令嬢のカリーヌは、沙織の為なら悪役令嬢にもなってくれる、最高の良い人だった。
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