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俺は、ゆっくりと家までの道を歩いていた。
頭の中では、さっきの出来事が何度も繰り返される。
――彼女は、嘘なんてついていなかった。
最初からずっと、本当のことを言っていたんだ。
綾咲を変えてしまったのは、周りの視線や価値観。
そして俺は、それを勝手に「嘘」だと決めつけていた。
……最低だな。
気づけば、家の前に立っていた。
(もうこんな時間か)
ゆっくり帰ってきたせいで、昨日と同じくらい遅くなっていた。
◇
リビングに入ると、妹がいた。
「遅い。何やってたの?」
いつものように、少し棘のある声。
「ちょっと寄り道してただけ」
適当に答える。
「そ、そうなんだ……」
――あれ?
どこか様子が違う。
妙に落ち着かないというか、歯切れが悪い。
「あっ……ぺ、ペンダント見つけてくれて、ありがとう」
その言葉で思い出した。
昨日の夜、あのあと一人で探し続けて、なんとか見つけたんだった。
直接渡すのは避けて、知り合い経由で返してもらったんだっけ。
「それ、大事にしてたんだろ」
「……うん」
「見つかってよかったな。落ち込んでたの、治ったみたいで安心した」
本当は、俺が見つけたってバレないはずだったんだけどな……。
まあ、いいか。
少しだけ肩の力が抜ける。
どっと疲れが押し寄せてきた。
「……はぁ」
そのまま自分の部屋へ向かおうとすると――
「大丈夫?」
背中に声がかかる。
「今日、なんか元気ないじゃん」
「……そうか?」
「相談、聞くよ」
思わず振り返る。
「ペンダントのお礼」
――どうなってるんだ。
あの、いつも冷たい妹が。
こんなふうに、優しい言葉をかけてくるなんて。
「いや、いいよ。お前に面倒かけたくないし」
そう言うと、妹は少しだけムッとした顔をした。
「いいから話してよ。私、妹でしょ」
その言い方に、少しだけ押される。
(……仕方ないか)
「わかった。ちょっと聞いてほしいことがある」
◇
なぜか、場所は妹の部屋だった。
「なんでお前の部屋なんだよ。俺の部屋でもよかっただろ」
「アンタの部屋、入りたくないし」
「……はいはい」
やっぱりこいつはこいつだ。
さっきの優しさはどこ行った。
◇
――事情説明。
◇
「……ってことがあったんだ。どうすればいいと思う?」
一通り話し終える。
すると妹は――
「アンタ、モテるんだ?」
「そこじゃねぇよ!」
思わずツッコむ。
「冗談だよ」
くすっと笑ってから、少し真面目な表情になる。
「今の話聞く限りだと、アンタはその綾咲さんに“利用されてた”ってことになるね」
「……まぁ、そうだな」
否定はできない。
「正直、ひどい話だと思うよ。友達作るために使われてたんでしょ?」
その通りだ。妹の言っていることは、正しい。
でも――
「……でも」
言葉が詰まる。
「でも、それって最初の理由でしょ?」
妹が続ける。
「今は違うんじゃない?」
「……」
「だって、その子、全部話してきたんでしょ?」
「それってさ、自分から関係壊しにいってるようなもんだよ」
たしかに、そうだ。
「友達いない子にとって、“関係を切る”ってめちゃくちゃ怖いことだと思うよ」
静かな声だった。
でも、その言葉は真っ直ぐ胸に刺さる。
「それでも、嘘つきたくなかったんじゃない?」
――ああ。
そうか。俺は、ようやく理解した。
「……そうだな」
自然と、言葉が出る。
「お前の言う通りだ」
あいつは、逃げたんじゃない。
正直でいようとして――結果的に、逃げるしかなくなっただけだ。
「相当な覚悟で話してたんだろうな……」
俺は、何を見ていたんだ。
何を聞いていたんだ。
気づくのが、遅すぎる。
でも――
(まだ、間に合うかもしれない)
ゆっくりと立ち上がる。
「悪い、つぐは」
「ん?」
「途中だけど、やらなきゃいけないこと思い出した」
妹は少しだけ驚いた顔をしたあと、すぐに小さく笑った。
「……うん。行ってきなよ」
「ありがとな」
本当に。
お前のおかげで、目が覚めた。
◇
部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。
背後で、何か声が聞こえた気がした。
「――がんばりな、おにいちゃん」
……たぶん、そんなことを言っていた。
◇
リビングに入り、すぐにスマホを取り出す。
まずは――
「もしもし、みや。今大丈夫か?」
あいつなら、頼れる。
「ちょっと聞いてほしいことがある」
事情を説明し、綾咲の連絡先を知っていそうな女子に繋いでもらうよう頼んだ。
みやは顔が広い。こういうとき、本当に助かる。
◇
それから、十分ほど。
スマホが震えた。
「お、出た」
どうやら、知っている子がいたらしい。
「ありがとな、みや。今度飯おごるわ」
『うん。約束だよ』
少し楽しそうな声が返ってくる。
通話を切る。
そして――
迷いはなかった。すぐに、その番号へ発信する。
それからの呼び出し音が、やけに長く感じた。