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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

130 - 第130話 エピローグ③ 最後に遺したもの

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2025年07月28日

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「姉様!」

「アミ!」



不意に取っ手が開き、その声でアミの手が止まる。



「ど、どうしたの……二人共?」



反射的に短刀を隠したアミは、しどろもどろになりながらも振り返り、部屋に入ってきたミオとユーリに声を掛けた。



“ーーっ!”



二人にはアミが何をしようとしていたのかを、痛い程に理解出来た。それ程までに思い詰めていた事に。



このまま後を追うなら、それも仕方がないかもしれない。だがその前に、どうしても伝えなくてはならない事がある。



「……姉様にどうしても渡すものがーー見て欲しいものがあるの」



そうミオはアミの下へ。手にした“もの”を渡す為に。



「こっ……これって?」



アミは怪訝そうにする。それもそのはず、ミオから手渡されたのは何の変哲もない“手鏡”だったのだから。



「それは姉様が絶対に受け取らなきゃいけない、ユキが姉様の為に遺したものだよ……」



「えっ!?」



その言葉と手鏡の意味を、アミは不思議そうに。



そもそも何故、此処でユキの名が出てくるのか。この手鏡は彼の遺品だとでもいうのだろうか。



否、ユキが居なくなったのは、最後の闘い後。遺品を残す暇等、無いはず。それに何故、手鏡なのか。



様々な想いが交錯し、手鏡を手にアミは困惑するしかない。



「……コリン、お願い」



戸惑うアミへ応えるよう、ミオは自身の傍らに漂う精霊へと声を掛けた。



「……コクリ」



氷の精霊ーーコリンは、ミオの頼みを遂行する前に思い返す。かつて彼、ユキに託された事をーー。



**********



ーー皆が寝静まった深夜、集落の外れを歩くユキと、その後ろを着いて来る様に漂うコリンの二人。



『無理を言ってすみません。アナタにしか頼めない事ですから……』



外れの森の中まで来たユキ。そしてコリンへの頼み事。それはかつて、エルドアーク宮殿へ向かう前、それよりもっと前のーーシグレと闘う前の事。



『これから狂座との闘いは、熾烈を極める事でしょう……。勿論、負けるつもりはありませんが、もし万が一、私に何かあった時、これの“第二封印”をアナタが解いて、アミへ渡して欲しいのです』



そうユキは手にした手鏡を、コリンへと頼んだ。



『第一封印の鍵は……私の命。私に何もなければ、この封印は解けません。その時は此処にそのまま封印しておきましょう。見ないに越した事はありませんからね』



ユキは手鏡を手に、複雑な心境で微笑する。



『でも万が一の時の為に、どうしても必要になります。アミはとても優しいから……私が居なくなったら、きっと一人では立ち直れない』



コリンも複雑だった。これではまるで遺品ーー遺言だと。一体どれ程の覚悟と心境か。常人ではどれ程に年齢を重ねても、悟れないかもしれない死生観に。



自分の主人であるミオと、同じ位の時しか生きて来なかっただろうこの少年を想うと、コリンはやるせなくなる。



“特異点というのみじゃない。どんな生き方をして来たら、これ程にーー”



『心配しなくても、私は死ぬつもりはありませんよ。だが、死を想定して挑む必要が有る。そして狂座との闘いがどのような情勢を辿ろうとも、私が必ず終わらせる。アミに危険が及ぶ事が、これからも無いように』



コリンの気持ちを察したユキ。それは決意だった。志半ばに死んだら全てが終わる。だからこそ、彼女の為にも“負けてーー殺されて死ぬ”事は絶対に許されない。



例え死んで灰になっても、絶対に曲げてはいけないものがあるーー



“うん、分かったよ……ユキ。だから絶対に負けちゃ駄目だよ”



ユキの強い想いを汲み、コリンは了承する。



『ありがとう』



コリンへ礼を述べ、ユキは手にした手鏡へ封印を施す。特異能ーー“無氷”に於ける、その特殊な力で。



“私の想いの記録をーーミラージュ・メモリアル・ゼロ”






***



“ミラージュ・メモリアル・ゼローー第二封印解除”



コリンが輝いた瞬間、呼応するかの様にアミの持つ手鏡が反応する。



アミは思わず目を見張った。先程まで自身を写し出していた手鏡に変化が。



「ゆっーーユキ!?」



其処に写し出されていたのはーー“生きている”ユキの顔だったから。



『……これを見ているのがアミ、貴女であると願って、此処に遺します』



そして手鏡に写るユキが語り掛けるかのように。それを見たアミは感極まって涙が零れそうになるが、出尽くした涙はーーもう出ない。



全てを知っているミオとユーリの二人は、そっとアミを見守っている。



『これを見ているという事は、私は既にこの世に存在していないという事になります。願わくば、貴女がこれを見る日が来ない事をーー』



アミは困惑していた。再びユキの顔を見れたという想いと、何故これをという気持ちが交錯する。



『でも……どうしても遺す必要があった。アミ……貴女はとても優しいから。きっと立ち直れないと思うからーー』



その言葉にーー想いにアミは痛い程、心に突き刺さった。事実その通りだった。ユキを想う余り、彼の後を追おうとしていたから。



ユキは自分以上に私の事を理解していたーーと、アミは今更ながらに痛感していた。



彼の想いの強さと、自分の弱さをーー




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