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#高校生
第71話 「終わった夏」
試合終了から一時間後。
雨はまだ降っていた。
柳城高校の選手たちは宿舎へ戻っていた。
誰も話さない。
誰も顔を上げない。
重い空気だけが流れていた。
甲子園。
二回戦敗退。
しかも。
あと一球。
あと一つのアウト。
そこまで勝利に近づいていた。
だからこそ苦しかった。
夕食の時間。
ほとんどの選手が箸を進められなかった。
史陽も黙っている。
佐伯も下を向いている。
誰も言葉が出ない。
やがて。
福間監督が立ち上がった。
選手たちが顔を上げる。
監督はしばらく何も言わなかった。
そして静かに口を開く。
「よく戦いました」
誰も予想していなかった言葉だった。
監督は続ける。
「私は誇りに思います」
選手たちが驚く。
福間監督がそんな言葉を口にすることは滅多にない。
「勝負です」
監督は前を見る。
「勝つこともある」
「負けることもある」
静かな声だった。
「でも今日の負けは」
少し間が空く。
「胸を張っていい負けです」
誰も声を出せない。
捕手が下を向く。
肩が震えている。
福間監督はその姿を見る。
「誰も責任を背負う必要はありません」
部屋が静まる。
「一人で負けた試合ではない」
「一人で勝ってきた試合でもない」
捕手の目から涙がこぼれた。
「だから誰も自分を責めるな」
その言葉に。
張りつめていたものが切れた。
あちこちからすすり泣く声が聞こえる。
佐伯も泣いていた。
史陽も顔を伏せる。
夏が終わった。
その現実だけが重かった。
夜。
宿舎。
消灯時間を過ぎていた。
部屋の窓が少しだけ開いている。
塁は一人で外を見ていた。
雨は止んでいた。
雲の切れ間から星が見える。
静かな夜だった。
甲子園。
センバツ優勝。
春夏連覇への挑戦。
そして敗戦。
様々な出来事が頭をよぎる。
あと一球。
あと一つのアウト。
何度考えても結果は変わらない。
それでも考えてしまう。
もしあの球が。
もしあの一球が。
塁は小さく首を振った。
終わったことだ。
分かっている。
それでも簡単には整理できない。
夜空を見上げる。
遠くに一つだけ星が見えた。
塁は黙って見つめ続ける。
その胸の中には。
悔しさ。
後悔。
そして。
まだ言葉にならない何かがあった。
夏は終わった。
だが。
塁の中ではまだ終わっていなかった。
夜空を見上げたまま。
塁は静かに考え続けていた。
第72話 終
コメント
1件
天海カオルさん、第71話読み終えました。敗戦後の静かな重みと、福間監督の「よく戦いました」「胸を張っていい負けです」という言葉にじんときました。あの一球の重さを背負いながら、それでも前を向こうとする選手たちの姿が切なかったです。塁が夜空を見上げて「まだ終わっていなかった」と思うラスト、すごく好きです。夏の終わりと、まだ終われない心の描写が美しかった。素敵な物語をありがとうございます。