テラーノベル
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俺のマンションに着くまで、エミリは酷く震えて何も話さなかった。
家は玄関から入って右手が五十畳近くのリビングダイニングにキッチン、そして広いバルコニーがあり、左手に居住スペースがある。
俺はまずエミリに洗面所や風呂場を案内し、今晩彼女に使ってもらう客間を教えた。
九月に入ったがまだ暑いので、お互い風呂に入ってスッキリしたあとに話し合う事にする。
いつエミリが来てもいいように着替えを買っておいたのが役立ったが、もしも彼女にいつもの元気があったなら、一言チクリと言われていたかもしれない。
俺はマスターベッドルームの近くにあるバスルームで汗を流し、ラフな格好に着替えて、キッチンで飲み物を用意した。
やがてエミリはサラッとしたグレーのスウェット地の、半袖、短パン姿で現れた。
『……なんで女性物の基礎化粧品まで揃ってるの……』
『いつ泊まってくれてもいいように』
ニコッと笑うと、彼女は溜め息をついてソファに腰かけた。
『はい、モクテル』
俺はバルコニーのプランターで育てているミントと、自家製レモネードとで作ったモヒート風レモネードを出す。
『……なんでこんなに無駄にお洒落なの……』
文句を言える程度には元気になったようで、何よりだ。
『話を聞いてもいい?』
尋ねると、エミリはモクテルを飲んでから溜め息をつき、ポツポツと自分の生い立ちを語り始めた。
すべて聞き終えた俺は、エミリの手を握る。
『……俺は君の何を見てきたんだろうな。勝手にエミリは自立した強い女性なんだと思っていた。〝事情〟があると分かっていたのに、表面的な強さを見て〝大丈夫〟だと思っていた。ごめん。……でも今は全部教えてもらえて、覚悟が決まった』
そう言うと、エミリは涙の溜まった目で俺を見つめ、尋ねてきた。
『何を聞いてたの? こんな私を受け入れる? さっきだって面倒臭い母親がいるのを見たでしょう? あんなの、受け入れられる訳がないじゃない! ~~~~っ、あぁ、また引っ越さないと……っ!』
エミリは俺の手を振り払い、両手でギュッと自分を抱き締める。
そんな彼女を見て、『守らないと』と強く思った。
『ねぇ、エミリ。一緒に住まないか?』
問いかけると、途方に暮れた表情の彼女は、涙を流しながら俺を見る。
『同棲して囲い込んでしまおうとかじゃないんだ。今はまず、君の身の安全を確保したい。見ての通り、君が生活するスペースは十分にあるし、バス、トイレ、洗面も完全に分けられる。エミリも言っていたように、引っ越すとなれば、まとまった金額がいる。今後も見つかるたびに物件を探して引っ越して……って繰り返していたら、思うように貯金できないと思うんだ。好きな事に金を使うならともかく、こういう事で金が飛ぶのは本意ではないだろう』
彼女は小さく頷いた。
『同棲……って言ったら恋愛ありきになってしまうから、同居と表現するけど、同居するにあたって、エミリが俺の事を彼氏としてみなさない限り、家で君を性的に見ないと誓う。決まり事は守るし、予定が合えば今まで通りデートに誘いたいけど、家ではオンオフをしっかり守る。エミリには〝家〟でちゃんと寛いでほしいし、話しかけてほしくない時は言ってくれればそうする』
涙を拭った彼女は、少し表情を緩めて笑う。
『ここは風磨さんの家なのに、なんであなたがそこまで譲歩するの』
『だって守りたいだろ』
まっすぐ彼女を見つめて言うと、エミリはみるみる真っ赤になってそっぽを向いた。
『~~~~っ、ふ、風磨さんにメリットがないでしょ! いつ面倒な人が押しかけるか分からないし、一人の自由もなくなるし……っ』
『え? 毎日好きな子の顔が見られるだけで、ご褒美じゃないか。エミリがご両親と会いたくないと言うなら、君と結婚したいと思う男として守りたい。ご両親に何を言われても俺は大丈夫だよ。罵声なら聞き慣れているし、俺だって好きな子と結婚したいと決めた以上、自分たちの生活を守る覚悟はできている』
『…………そんなの…………』
エミリは毒気を抜かれたような表情で呟き、『ん?』と声を漏らす。
『罵声なら聞き慣れてるって……、風磨さんもご両親に……?』
気を遣うように尋ねられ、俺は自分の抱えているものも打ち明けるタイミングだと悟った。
『俺自身の事じゃないんだけど……』
そう前置きして、俺は三歳年下の異母弟の話をした。
最初は憎んでいたけれど、毎日母が尊をいびり、誰も彼を守らないのを見るうちに、尊が俺をそう思っていなくても、兄として守りたいという感情が芽生えた。
今はお互い一人暮らしをして実家を出たけれど、尊は母が作った檻から出られず、篠宮ホールディングスで働かされているのに、速水の姓を名乗らされている事も教えた。
『……商品開発部の速水部長……。部長職に就くには若すぎると思っていたけど……』
エミリは呟き、納得したように頷く。
臣桜
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畝澄ヒナ
119
#短編
五來 小真
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コメント
1件
え〜っ、もうこの回めっちゃ良かった😭💕 風磨の「だって守りたいだろ」に完全に心持ってかれた…! エミリの震えながらも強がる姿と、風磨の優しいけどブレない覚悟が伝わってきて、泣きそうになったよ。お互い家庭の事情抱えてるのに、ちゃんと向き合おうとしてるのが尊すぎる、、、続きが気になりすぎるから早く読みたい!!👏💖