テラーノベル
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『急に俺の事まで話してごめんね。今つらいのはエミリなのに』
『……ううん。話してくれてありがとう』
彼女は静かに溜め息をつき、モクテルを飲む。
カランと氷の涼やかな音が鳴った時、俺はどうしても伝えたい事を口にした。
『エミリの身に何があっても、俺は君をまっすぐで綺麗な人だと思うし、君みたいに明るくて正直な人に心底憧れている』
『そんな……。私は……』
俺は首を横に振るエミリの手を、ギュッと握って言う。
『俺は尊の味方になってやれなかった事で、深い罪悪感を抱いている。……これは俺が抱いている心の闇で、エミリにもそういうものがある。人それぞれ、違った地獄を抱えているんだ。みんな、墓場まで持って行きたい秘密があるだろうけど、それだけでその人を汚れているなんて言いたくない。俺はこの世界に過ちを犯した事のない人なんていないと思ってる。肝心なのは自分の闇を認めた上で、どう生きていくかだ』
エミリの頬に、また新たな涙が伝っていく。
『……エミリは〝自分に欠点があると分かっているから、相手にも完璧なんて求めない〟って言ったよね? 俺も同じだ。エミリにどんな過去があっても嫌いになんてならない。絶対になるもんか。それだったら弟がいびられているのを、見て見ぬ振りした俺だって、一生幸せになる権利なんてない』
『そんな事ない!』
とっさに声を上げたエミリに、俺は笑いかける。
『……だろ? こんな俺でも幸せになりたいんだ。……それでいいんだよ。エミリにどんな過去があっても、俺が君を好きになった事実は変わらないし、君への想いも変わらない。君がどれだけ自分を嫌っても、俺はその百倍エミリを愛するよ』
『~~~~っ、馬鹿……っ!』
彼女は拳を握り、トンッと俺の胸板を力なく叩く。
『ずっと……っ、~~~~っ、ずっと一人で生きていくって、覚悟を決めていたのに……っ! 強くなきゃ生きていけないから、誰も好きにならず、弱みも作らないって決めたのに……っ! あなたの事なんて、好きになる予定じゃなかったの……っ!』
エミリはボロボロと涙を流し、俺の胸板を叩き続ける。
『俺は初めて見た時から、エミリの事を〝可愛いな〟って思ってたよ』
『馬鹿……っ!』
彼女は絞り出すような声で言ったあと、両手で顔を覆い、背中を丸めて嗚咽した。
エミリの涙が収まったあと、俺は氷の溶けたモクテルを飲んでから言う。
『俺たちが〝加害者〟と思っている人にも〝事情〟はある。それは目を逸らしてはいけない事実だ。完全な善人がいないように、完全な悪人もいない。……でも、自分の幸せを求める過程で、加害者の事情を汲む必要はない。俺は全力でエミリの味方になるし、君が抱えている闇を晴らすためなら何だってする。……願わくばみんなに祝福されて結婚したいけど、百パーセントそうなれるとは限らないからね。説得は試みるけど、どう頑張っても分かってもらえないなら、今後お会いしない形ででも結婚してみせる。……うちの母も何て言うか分からないけど、負けないよ』
『……おっとりとしたお坊ちゃんだと思っていたのに、意外と頑固なのね』
『よく言われる』
俺はクスッと笑う。
『ずっと俯いて、耳を塞いで歩いてきた。……でもそんな生き方を続ければ、どれだけ社会的地位があっても、金があっても、自分が自分を誇れないと思ったんだ。情けない事にまだ母に反抗できていないけど、〝その時〟が来たらキッパリと言うよ。いざとなったら俺は母より尊の味方をするし、周りすべてよりエミリを択る。それだけは譲らないでおこうと思ってる。……あとは割と、どうでもいいかな。今就いている副社長の座も、もっと能力のある人がいたら譲ってもいいと思ってるんだ』
『……怜香さんは、風磨さんの事を可愛がっていたんじゃないの?』
エミリは気遣うように言う。
『愛情はあると信じたいけど、小さい頃を抜かして、ずっと〝尊より風磨のほうが優秀〟っていう褒められ方しかされてないんだ。全然嬉しくない。もっと俺をちゃんと見て愛してくれたなら、違う感情を抱いていたと思うけど、憎しみの塊になった母を見ていると、俺に愛情を注ぐより尊を憎むほうが大事なんだと感じた。尊を貶めるために褒められるぐらいなら、そんな言葉ないほうがマシだよ。……それを見て見ぬ振りをしている父も、まともに俺を褒めた事はないしね。……父は家庭からずっと目を逸らしていて、〝仕事が忙しい〟ですべて片づけようとしている』
そこまで言ったあと、俺は提案する。
『それはそうと、すぐにでも引っ越しの手配をしたいんだけど大丈夫?』
『あ……、あぁ、はい』
エミリは虚を突かれたように頷き、『そんなにすぐできるの?』と不安げに尋ねる。
『こういう時こそ、金にものを言わせないと』
ニッコリ笑うと、彼女は『あはは……』と乾いた笑みを漏らした。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第930話、読了しました…! 「君がどれだけ自分を嫌っても、俺はその百倍エミリを愛するよ」って台詞、胸がぎゅっとなった。風磨くんが自分の罪悪感も認めながら、それでもエミリをまっすぐ見てる感じがすごく伝わってきた。 エミリが「ずっと一人で生きていくって覚悟を決めてたのに」って涙するシーン、すごく切なくて…でもそこで風磨くんが「初めて見た時から可愛いと思ってた」って言うのがもう、優しすぎるよ😭 自分の闇を認めて、それでも相手を愛するって決める強さ。この二人、ちゃんと向き合えてるのが尊いです。続きもゆっくり読みますね🌙
臣桜
50,509
畝澄ヒナ
119
#短編
五來 小真
29