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side:日比野カフカ
________数分後、泥に沈む小柄な体に誰よりも早くすがりついたのは、カフカだった。
「副隊長ッ!!」
土砂降りの雨の中を、走って、走ってようやく辿り着いた。
「保科副隊長!! おい、嘘だろ……しっかりしてください!!」
その体をそっと抱き起こした瞬間、血の気が引いた。
体が恐ろしいほどに脱力している。
命の熱が急速に奪われていくのがわかる。
防衛隊スーツの隙間という隙間から、どくどくと赤黒い血が溢れ出し、カフカの両手を濡らしていった。
「くそっ、出血が酷すぎる! 」
「……..スーツの圧迫止血機能を、全部、討伐のために使ったのかもしれないです。完全に、使えなくなってる、、、」
遅れて駆けつけた市川レノが、保科の首筋に指を当てる。
(脈が……信じられないくらい弱い。)
「…日比野先輩、今すぐ気道確保を! 医療班はまだなんですか!!」
『こちら医療班、現場到着しました! 』
『おい、ストレッチャーを下ろせ! ボスミン(強心剤)用意!!』
赤色灯の強烈な光が、雨の暗闇を切り裂く。
慌ただしく駆け寄ってきた救護隊員たちが、カフカの手から奪い取るように保科をストレッチャーへ乗せた。
「バイタル急低下! 血圧60切ってます!」
「右肋骨の多発骨折、それに伴う血気胸の疑い! 口腔内からの出血多数、内臓破裂も併発しています! 急いで!!」
怒号が飛び交う中、酸素マスクを当てられ、泥と血に塗れたまま運ばれていく背中を、カフカはただ呆然と見送ることしかできなかった。
自分の手のひらにべったりとこびりついた、生ぬるい赤色。
それが雨に洗い流されていくのを、震える瞳で見つめていた。
——数時間後。
関東最強の医療設備を誇る、防衛隊付属病院。
ツンとした、鼻の奥をつくような消毒液の匂い。
集中治療室の分厚いガラス越しに見えるのは、無数の管に繋がれ、人工呼吸器の音に合わせてわずかに胸を上下させる保科の姿だった。
「……緊急手術は、なんとか終わったそうです」
温かい缶コーヒーを二つ抱えたレノが、パイプ椅子に座り込んで頭を抱えるカフカの隣に腰を下ろした。
「脾臓の摘出と、折れた肋骨の接合……失血が酷く、ギリギリだったと」
「……あぁ」
カフカは、顔を上げないまま短く答えた。
…….湿った空気とは裏腹に、早速、華々しい功績を讃える声がテレビからは聞こえてくる。
報じられているのは、『異形の大怪獣を防衛隊が退けた』という奇跡のニュース。
(____合ってはいるけど、でも違う。)
これは防衛隊第3部隊の力じゃない。
_______全部、保科副隊長だ。
あの絶望的な状況で、誰一人として死者が出なかった奇跡。
その代償を、あの小さな背中が、たった一人で全て背負い込んでしまったという圧倒的な事実が、重くのしかかっていた。
「………先輩?」
なあ、レノ、俺代われることなら代わりたいよ。
_______だってさ、
(だって、あの人は…俺より若いんだぞ、)
助かって欲しい。助かるべきだ。
助かってもらわなくちゃいけない。
心電図の音は、空気を読まず、
ただ静かな廊下に、規則的に響き続けていた。
つづく
作者です。
かなり不穏で終わっちゃったけれど、
流石に最後にはハッピーエンドにするので(多分)、安心してください!
それと、私は医療従事者でも何でもなくて(それどころか義務教育すら終えてない)、途中の医療用語に関して間違ってたら教えてください。。。!
見てくれてありがとう!