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#前世
shima7a
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第104話 「見えない仕事」2026年4月。
新学期。
柳城高校野球部にも、新一年生が入部してきた。
今年も二十名を超える新入部員。
グラウンドは活気にあふれていた。
その一方で。
啓介部長の仕事は昨年より増えていた。
部員名簿の作成。
部費の管理。
練習試合の日程調整。
バス会社との連絡。
宿泊先との打ち合わせ。
保護者会との連携。
大会への登録書類。
職員会議。
授業。
放課後になる頃には、机の上は書類でいっぱいだった。
夕方。
ようやくグラウンドへ出る。
部員たちはすでに練習を始めていた。
啓介は少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
その様子を見た福間監督が声を掛けた。
「気になりますか。」
「はい。」
「もっとグラウンドにいたいです。」
福間監督は静かに笑った。
「部長の仕事も野球です。」
啓介は少し驚く。
「選手はグラウンドだけ見ています。」
「監督はチーム全体を見ます。」
「部長は、そのチームが安心して野球に集中できる環境をつくるのです。」
啓介は黙って頷いた。
翌週。
練習試合。
対戦相手は長崎の強豪・海星学院高校。
試合前。
相手校の監督が福間監督へ挨拶に来る。
「今年もよろしくお願いします。」
その後ろで。
啓介は相手校の部長と宿泊や昼食、試合時間の最終確認をしていた。
試合は5対4で柳城高校が勝利。
部員たちは勝利を喜ぶ。
しかし。
試合終了後も啓介は忙しかった。
忘れ物の確認。
バスへの積み込み。
審判へのお礼。
グラウンド整備のお礼。
すべてが終わった頃には、部員たちはもうバスへ乗り込んでいた。
帰り道。
福間監督がぽつりと話す。
「目立ちませんね。」
啓介は苦笑いする。
「そうですね。」
「でも、それでいいのです。」
「部長の仕事は、目立たないことです。」
「選手が何も心配せず野球ができる。」
「それが一番です。」
啓介は窓の外を見る。
春の景色が流れていく。
高校時代。
大学時代。
選手だった頃は気づかなかった。
試合ができることは当たり前ではなかった。
その裏には。
支えてくれる多くの人がいた。
そして今。
自分もその一人になっている。
学校へ戻ると。
一年生たちがグラウンド整備をしていた。
啓介はスコップを持ち、一緒に土をならす。
「部長、ありがとうございます。」
一年生の声に。
啓介は笑顔で答えた。
「こちらこそ。」
「また明日も頑張ろう。」
夕日に照らされた柳城高校のグラウンド。
福間監督は遠くからその光景を見つめ、小さく頷いた。
啓介は少しずつ。
“野球部部長”という役割を、自分のものにし始めていた。
第104話 終
コメント
1件
天海カオルさん、第104話じっくり読ませていただきました。 「部長の仕事も野球です」という福間監督の言葉、すごく響きました。グラウンドに立てないもどかしさを抱えながらも、選手たちが安心してプレーできる環境を整える——啓介くんの孤独で誠実な役割が、夕日のグラウンドのシーンでじんわりと報われた気がしました。あの一年生の「ありがとうございます」が、何よりのご褒美ですよね。目立たない仕事を「自分のものにし始めている」という一文に、彼の静かな成長を感じて胸が熱くなりました。