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第105話 「勝負の采配」2026年5月。
初夏。
夏の福岡大会まで二か月。
柳城高校は県内の強豪校との練習試合が続いていた。
福間監督は試合後、必ず同じことを言った。
「勝敗は気にしません。」
「内容を見ます。」
啓介部長も、その言葉の意味が少しずつ分かるようになっていた。
この日。
対戦相手は鹿児島の名門・南薩学院高校。
甲子園常連校。
試合は中盤まで柳城が3対2とリード。
七回。
一死一・二塁。
相手の四番打者。
ベンチの空気が張り詰める。
啓介は継投を考えた。
「監督、ブルペンを準備させますか。」
福間監督は首を横に振る。
「まだです。」
「ですが…。」
「山本を信じます。」
福間監督の表情は変わらなかった。
その時。
打球は高々と舞い上がる。
センターフライ。
二死。
続く打者は三振。
ピンチを切り抜けた。
ベンチへ戻った山本に。
福間監督は何も言わなかった。
ただ。
一度だけ頷いた。
試合は5対3で柳城が勝利した。
帰校後。
部室。
啓介はスコアブックを見つめていた。
「監督。」
「はい。」
「今日は交代させても、おかしくない場面でした。」
福間監督は静かにお茶を口にする。
「そうですね。」
「では、なぜ交代しなかったと思いますか。」
啓介は考える。
「……信頼ですか。」
福間監督は頷く。
「それもあります。」
「ですが、一番は夏を見据えているからです。」
啓介は顔を上げる。
「夏の甲子園を目指すなら。」
「苦しい場面を経験しなければ、本当のエースにはなれません。」
「練習試合だからこそ、経験させました。」
啓介はスコアブックを閉じる。
「勝つためだけではない…。」
福間監督は微笑んだ。
「育てるための采配です。」
その言葉に。
啓介は高校時代を思い出した。
自分も。
塁も。
史陽も。
数え切れないほど、苦しい場面を経験してきた。
あの経験があったからこそ。
強くなれた。
夕方。
グラウンド。
山本が一人で投球練習をしていた。
啓介は近づく。
「今日の七回。」
「怖かったです。」
山本は苦笑いする。
「でも。」
「監督が代えなかったので。」
「自分を信じて投げられました。」
啓介は笑顔で頷く。
「それでいい。」
「今日の経験は、夏で必ず生きる。」
夕日に照らされるマウンド。
福間監督は遠くからその姿を見つめていた。
何も言わない。
それが。
福間監督の”育てる野球”だった。
そして啓介は。
その背中からまた一つ、大切なことを学んだ。
第105話 終
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#前世
shima7a
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コメント
1件
もう第105話まで来たんですね。福間監督の「育てる采配」という言葉がすごく沁みました。勝つことだけじゃなく、選手を一人前にするためにあえて代えない——その判断の重みが、啓介が高校時代を思い返すシーンで一層深まった気がします。山本が「代えられなかったから信じられた」って言うところ、本当にぐっときました。夏が楽しみですね🌷