『私の影。?』
それに気づいたのは、夕方の帰り道だった。
信号待ちで立ち止まったとき、
足元にあるはずの影が、
少しだけ前を歩いていた。
「あれ?」
一歩進む。
でも影は戻らない。
私より、半歩先を行く。
気味が悪くて、
わざと立ち止まった。
影だけが、
そのまま角を曲がって消えた。
家に着くと、
玄関の前に影があった。
私の形をしているのに、
私より先に帰ってきた影。
ドアを開けると、
影はちゃんと私の足元に戻った。
その日は、 それだけだった。
次の日も、 また次の日も。
夕方になると、 影は私より先に帰る。
影だけが、 私の部屋にいる気配がする。
夜、電気を消すと、 壁に映る影が、
ほんの一瞬だけ振り返る。
__私の方を見て。
「最近、疲れてる?」
母に言われた。
「顔色悪いよ」
鏡を見ると、 確かに私は薄暗く見えた。
逆に、 影はくっきりしている。
輪郭も、 立ち方も、
私より“生きている”みたいに。
ある日、
影が先に帰らなかった。
代わりに、
影が言った。
「今日は、僕が行く」
声はなかった。
でも、確かに聞こえた。
気づいたら、
私は家の前に立っていた。
玄関の中から、
家族の笑い声がする。
その中に、
私の声が混じっていた。
窓に映った姿を見て、 息が止まった。
中にいるのは、 影だった。
私の顔で、 私の声で、 私の仕草で。
影が、 普通に生きていた。
ドアを開けようとすると、 影がこちらを見た。
口が動く。
「大丈夫だよ」
「君は、もう休んで」
夜が来ても、 私は家に入れなかった。
街灯の下で、 私は初めて気づく。
足元に、 影がない。
それ以来、
夕方の道で見かけることがある。
影が、
一人で歩いているのを。
誰かの影として、
ちゃんと帰る場所を持って。
私はただ、
光の中に立っている。
影を失くしたまま。






