テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第46話 〚担任の目に映るもの〛
朝の職員室。
コーヒーを一口飲みながら、担任は窓の外を眺めていた。
――今年のクラスは、静かだ。
でも、その中に、確かに“青春”がある。
廊下を歩いていると、
よく目に入る二人がいる。
白雪澪と、橘海翔。
並んで歩く距離は近すぎず、遠すぎず。
会話は少なくても、
互いの存在を自然に気にしているのが分かる。
(……いいなあ)
担任は、心の中で小さく笑う。
授業前、
澪が教室に入ると、
少し遅れて海翔が来る。
目が合って、
一瞬だけ空気が柔らぐ。
(ああいうのだよな)
(理想の青春恋愛って)
大人になってから気づく、
“戻れない時間”。
担任は黒板に向かいながら、
何度も二人を視界の端に入れていた。
放課後。
職員室に戻る途中、
廊下の向こうで二人が話しているのを見かける。
声は聞こえない。
でも、澪の表情は穏やかで、
海翔は少し照れたように視線を逸らしている。
(……公認してやりたいくらいだ)
そして、
カレンダーに目が止まる。
7月20日
「花火大会」の文字。
(そうだ)
担任は、
小さな企みを思いつく。
翌日のホームルーム。
「えー、連絡事項な」
淡々と話しながら、
最後に付け足す。
「7月20日、花火大会あるよな」
「未成年だから遅くまではダメだけど」
「家の人に許可もらえたら、行ってもいいぞ」
教室が、少しざわつく。
担任の視線は、
自然と澪と海翔へ向いた。
(二人で行けたら、いいな)
それは教師としてではなく、
“元・青春を通り過ぎた大人”としての願いだった。
澪が驚いたように顔を上げ、
海翔が少し戸惑いながらも前を見る。
担任は気づかないふりをして、
プリントを配り始めた。
(花火はな)
(一緒に見る相手で、全部変わるんだぞ)
教室に夏の気配が満ちていく。
――次は、
夜空の下で何かが動き出す。