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#そのじん
笑う門には福来る
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ゆき.
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……暗闇から意識が浮上する。
なんかすごく嫌なことがあった気がする…。ふわふわした意識のまま、目を開けると勇斗が心配そうにこちらを覗いている。
「はやと…?」
「仁人、起きた?」
あれ、俺…なんで寝てたんだっけ……。
もやがかかった思考が段々とクリアになっていく。
…あっ…そうだ…俺…俺は…、
自身に起きた出来事を想いだし、勝手に身体がカタカタと震え出す。
「あ…あ…っ」
「っ!じんと、大丈夫、もう大丈夫だから。息、吸って、吐いて…そう、大丈夫、大丈夫だよ。」
荒くなりかけた呼吸を勇斗が落ち着かせてくれる。背中をさすってもらい、やっと震えが止まった頃、勇斗が状況を説明してくれた。
どうやら俺は2時間近く気絶していたらしい。
俺を襲ったあいつは傷害で警察に突き出されたとのこと、もちろん仕事はクビになる。きっと一生会うことはないはずだ。
「落ち着いた?」
「…ん、もう大丈夫…。」
「マネージャーが家まで送ってくれるって言ってたけど、帰れそう?」
「………、帰る。」
正直1人でいるのが怖い。でも、勇斗にこれ以上迷惑かけるのもなと思い頷く。
勇斗がマネージャーを呼んでくれて、俺は帰路に着いた。ことがことなので一旦明日の仕事は休みになるよう調整してくれたらしい。その先のことは明日以降に調整しようとのことだった。
仕事に穴を空けるのは避けたいし、今日の出来事は悪夢だと思って寝て忘れてしまおう。そう思い、熱いシャワーを浴びて身体を清めていく。
身体を洗っていると、あの男に触られたところが気持ち悪くて仕方がない。何度も何度も洗ってしまう。キスされた唇もゴシゴシと擦る。ああ、やだな。気持ち悪い。
とりあえず納得いくまで洗ったあと、早々にベッドに入ることにした。
……
………
「ぅ…あ…やめ、…っ…たすけ…!!!」
魘されて目が醒める。時計の針は真夜中を指している。
「…ハッ…ハァ…ぁ…」
怖い、ここには誰もいないのに。
また身体がカタカタと震えだし、止まらない……。
「ハァ、…ハァ…ハァ…」
勝手に涙が流れてくる、怖い、助けて、視界が狭くなっていく。
気付いたらスマホを手に持って、勇斗に電話をかけてた。こんな夜中に出るわけない…そう思うのに、震える手でスマホを操作する。
プルル、プルルと2コールなったところで電話が繋がる
「…じんと?」
寝てたんだろう、ちょっと掠れた声で俺の名前を呼ぶ勇斗。その声に、ほっとした心地になる
「…っふ…ッ…はやと…グスッ…」
「っ!?……っちょっと待ってて、すぐ行く!!」
なにがあったかを聞くでもなく、そう言う勇斗。電話の向こうでバタバタと音がしている。来なくていいなんて言えなくて、その音を聞きながらグスグス泣くことしかできない。
涙腺が壊れてしまったみたいだ。
それから、30分もしないうちにインターホンが鳴る。のろのろと身体を動かし、オートロックを解除すると、カチャリと静かに開いた玄関から勇斗が入ってくる。
「仁人…?」
「…っ…グスッ…ごめん……、…」
「…謝らないでいいよ。」
「…ごめん、…ッふ…ぅ…」
謝りながら泣くことしかできない俺の手を静かにとってリビングに連れき、ただ横に座って静かに俺の背を優しくさすりながら、俺が落ち着くのを待ってくれる。
しばらくしてやっと落ち着き、涙も止まった。泣きすぎて目がしぱしぱする…。
「こんな夜中にごめん…」
「大丈夫だよ、謝らなくていい」
「…っ…、ひとりが、こわくて」
「そっか…うぅん……どうしようか、…俺の家でしばらく暮らすでもいいんだけど、…でも…」
「…?」
「俺、…アイツと同じじゃない?怖くない?」
自分のことを好きなやつの家は怖いんじゃ無いか、そんな心配をする勇斗。
「!?ちがう!」
あんなやつと一緒の訳がない。
それに、俺に起きたことを知るのは勇斗とマネージャーと局の数人の偉い人たちだけだ。できれば他の人に知られたくないし、なにより俺は勇斗と一緒がいい。そう思った。
「…仁人が大丈夫なら、しばらく俺と一緒に暮らす…?」
「ん。いい…?…迷惑じゃない…?」
「迷惑じゃないよ、じゃあ、今日はここに泊まるから明日荷物まとめて俺ん家行こ。車で来たから、運べるし。」
「……ほんと、ごめん。勇斗、明日の仕事は…?」
「仁人はなにも悪くないんだから、謝らないでいい。明日の仕事はリスケできるやつだから大丈夫」
「……ごめん…、…ありがとう。」
本当はリスケさせるなんて絶対しない方がいいのに、勇斗の優しさに甘えてしまう。
翌日、俺は荷物をまとめて勇斗の家にお邪魔することになった。
勇斗は俺の状況をマネージャーに伝え俺の予定を1週間オフにしてくれたらしい。自身のスケジュールも調整して3日休みをとってくれたみたい。ほんとは1週間いっしょに休もうとしてくれたみたいだけど、流石に無理だったって謝られた。勇斗は俺より忙しい身なのに本当に申し訳ない。
忙しいタイミングでいろんな人に迷惑かけることになってしまったし、休みが開けたら謝り倒そう。
ちなみに休みの理由は通り魔に襲われ軽い怪我をしたってことになったらしい。…拘束された時に擦れた手首には痕がついてるし、殴られた腹は痣になってるから、あながち間違いではないな…。襲われた本当の意味が伏せられてるだけで。
メンバー達からは心配のメッセージがたくさん届いた。
『大丈夫だから心配しないで、大した怪我はしてないし念のため大事を取っただけだ』と説明してなんとか納得はしてくれたけど、大騒ぎだったみたい。
それから俺は勇斗と2人きりで3日間すごした。この3日、勇斗は俺に腫れ物に触るようにではなく普通に接してくれた。
くだらない話して、映画みたり、バラエティ見たり、買い物行って、騒ぎながら料理してみたり、いつもと同じように、いつも以上に充実した時間を過ごした。
ずっと笑っていて、忌々しい記憶を思い出すこともなかった。
もう大丈夫、そう思った4日目。
「じゃあ、俺もう仕事に行くけど…」
勇斗が心配そうにこちらを伺う。
昨日までは一緒にいたから普通に過ごしてたけど、離れるのは心配らしい。
「ありがと、もう大丈夫(笑)」
「何かあったらすぐ連絡して。」
「わかった。」
「19時には帰ってこれるから。」
「はいはい、そろそろ遅れるよ?もう、行きな。ありがとね。」
「…じゃあ、行ってきます。」
「はい、いってらっしゃい。」
俺は勇斗を見送り、家のなかに戻る。
お世話になってるし、今日は家の掃除でもして、夕飯はハンバーグでも作ってやろう。
そう思い家事に取りかかるのだった。
掃除して洗濯して、昼ご飯食べながらテレビを見てゆっくりする。夕方に買い物行って、夕飯の下ごしらえを済ます。まるで専業主婦みたいな1日だ。
一通りの家事を終えて、ソファにもたれ掛かる。
…しんと静まりかえった部屋。
先ほどまでは全く気にならなかった静寂がやけに気になり、じわじわと不安が滲み出してくる。
ちらりと時計を見ると、針は17時半を指している。…勇斗が帰ってくるまで、あと1時間半くらいか……。一旦シャワーを浴びて気を紛らわせよう。そう思い、浴室に向かう。
シャワーを浴びながら、目を瞑る。
気を紛らわせようと思ったのに、思い出したくないあの日の光景が浮かんできてしまう。勇斗、早く帰ってきて…。
震えそうになる身体を抑えながらゴシゴシと、何度も何度も洗う。汚れが落ちてない気がして、汚れてしまっている気がして。あぁ、やだな。
どれくらいそうしてただろうか、カタンッともの音がして勇斗が帰ってきたのだと気付く。…もうそんな時間か。浴室に置いてある防水時計をみると18時40分を指している。入りすぎたな…。
浴室を出て、ざっと水分を拭いて服を着る。ドライヤーで髪を乾かすこともせず、そのまま勇斗のもとへ向かった。ただ、勇斗の顔がみたい。その思いだけで。
仕事から帰ってきたばかりの勇斗はこちらを見て少し驚いたような顔をする。俺の様子がおかしいことに気付いたのか、俺の名前を優しく呼ぶ。
「じんと」
「…うん」
「髪乾かさないと、風邪引いちゃうよ?」
「…うん」
「仕方ないなぁ、じんちゃんに代わって俺がドライヤーしてあげよう」
「…うん」
「手洗いうがいしてドライヤー持ってくるから座って待ってな」
「…やだ」
待ってろって言われたけど、俺は勇斗の後ろをぺたぺたと着いて歩く。そんな俺を見て少し困ったように笑う勇斗。
「ペンギンみたいで、可愛いね」
「…俺、人間。」
「ふっ、わかってるよw」
ドライヤーをもって2人でリビングに戻る。ここに座ってという勇斗の言葉に従い、ぺたりと座ると、勇斗はゆっくりと俺の髪を乾かし始めた。
温風と髪をすく勇斗の手がとても心地よい。
「熱くない?」
「ん、だいじょーぶ」
髪の毛はあっという間に乾いて、それを確かめるように、2、3度俺の頭を撫でる勇斗。
……勇斗の手、好きだな…。
すごく大きくて暖かい手。
手だけじゃない、
優しい眼差しも、俺を呼ぶ声も、ふざけて笑う姿も、ちょっと過保護なとこも、優しくて安心できるから好き。
あの気持ち悪い感覚も、勇斗なら上書きしてくれるんじゃないか…上書きしてほしい…そんな風に考えてしまう。
俺は勇斗のほうを向いて顔を見つめる。
「…どしたの?」
不思議そうに、それでいて優しい目で俺を見てる勇斗。
……うん、勇斗なら大丈夫。
…いや違うな、勇斗がいいな。
「………キスしてくれない?」
勇斗に向かってポツリと溢す。
「…………え?」
「…俺とは、キス、したくない…?」
「…めちゃくちゃしたい…です……けど、とりあえず、話を、しよう」
俺から言われた言葉にフリーズしたと思ったら、ぎこちなくそんなことを言ってくる。
好きな人にキスしてって言われたんだから我慢せずキスしちゃえばいいのに、なんで俺がそんな発言をしたのかを知ろうとしてくれる。
本当に優しいな…甘いとも言うか。
好きって言葉に答えも出さずに、迷惑かけてるだけの俺に。
…胸がきゅってなる。
俺は勇斗の横に移動してピタッとくっつき、勇斗の肩に頭をコテンと乗せる。
「じ、じんとさん…?」
3日間一緒に過ごしてはいたけど、こんな距離にいることはなかったから勇斗は俺の行動に動揺してる。
ちらっと見上げると、耳が少し赤くなってて、ちょっと可愛いななんて思う。
コメント
2件
🩷さんの💛への愛情や優しさが伝わってきてほんとに胸がギュッとなります😭
もう…仁人の心の傷が痛いほど伝わってきて、胸が締め付けられました。特に、夜中にひとりで震えながら勇斗に電話するシーンと、髪を乾かしてもらうあの優しい時間の対比がすごくて。勇斗が「めちゃくちゃしたいです」って本音を漏らしながらも、ちゃんと話そうとしてくれるところ、本当に誠実な人だなって思いました。あの「胸がきゅってなる」って仁人の感覚、すごくわかります。