「あらあら~……、大変なことになってしまっていますね。ルティシア、獣人の子をすぐにベッドに!」
「はい、母さま!」
「心配には及びませんよ。シーニャはおれが回復させますんで」
シーニャをすっかりのぼせさせてしまった。原因が自分にある以上、ルティ親子に助けてもらうわけにはいかないだろう。
「……何か心境に変化でも?」
「責任を取るのもテイマーの役目というだけですよ。ルティとフィーサは外に出て支度を!」
「は、はいっっ! い、今すぐに~」
結局のところ甘えが生じていたことに気付いた。
予見出来るルシナさんのところにくれば何かを知り得られる。だがそれでは上手くいかなくなるし、問題が生じてしまうのは明白だ。ここは依存も甘えも捨てなければならない。
「ルシナさん、三度目の召喚ですみませんでした。今度からはきちんとテレポートしてお邪魔します。薬師のことも自分で何とかしますので!」
「……なるほど、姉から何か言われたのですね?」
言われたことは確かだがその資格は得られなかった――とはいえ、少なくともあの村に入れるようにならなければ駄目だろう。
「いいえ。村にも入れませんでしたから、言われるも何も無いです」
「私はあの子の為にもアックさんの為にも、しばらく見守りをするとしましょう」
「ありがとうございます。それでは」
「ええ、またいつでも歓迎しますね!」
色々なことに関わりすぎてしまった。それ自体が悪いわけじゃないがフィーサにしてもおれにしても、休むべき場所はここではないということだ。
「フニャゥ~……?」
決心したところでシーニャが目を覚ます。
のぼせていたことでまだぼんやりしているようにも見える。
「大丈夫か? シーニャ」
「ムニャ……アック、どこかに行くのだ?」
「今からラクルに帰るよ。そこでならシーニャもゆっくり休むことが出来るからね。それまで抱っこすることになるけどいいかい?」
「ウニャッ! アックがシーニャに頼んでは駄目なのだ! 行くなら早く行くのだ!」
湯でのぼせていたシーニャだったが、すぐに回復してくれた。そのすぐ後、おれたちはラクルに転送《テレポート》することが出来た。帰って来たのはどれくらいぶりだろうかと思うくらいに。
もっとも飛べた先はルティが借りた倉庫では無く、例によってひと気の無い端《はし》にある倉庫だった。つまり、おれの移動スキルは未だに低いということを意味する。
今後はスキルを上げて戻りたい倉庫を記憶させる必要がありそうだ。
倉庫に着いたおれは念のため、真っ先に倉庫周辺を歩き回っている。シーニャのこともあるし何が起こるか分からないからだ。とりあえずフィーサをルティに預け、シーニャだけを先に休ませることにした。
「えへへ~どうですかっ?」
「ふ、ふぅん~……小娘にしてはまぁまぁなの。ここがわらわたちのお家になるなの?」
「そうですよ~! ねぇ、アック様っ! あれぇ? アック様は?」
「何だかさっきからぐるぐる回っているなの」
おれの心配をよそに、お気楽なルティとフィーサが珍しく会話を楽しんでいる。
「むむむ!? さすがアック様!」
「はぁ……小娘はお気楽でうらやましいなの」
「そういうフィーサは、そのままの姿で居続けるつもりですか~?」
「わ、分かっているなの!」
「ほえ?」
倉庫の周りをぐるりと回りまくり、全体を把握することが出来た。危ない目に遭うわけでも無いが用心するに越したことは無い。ラクルが単なる倉庫の町であっても面倒な輩が訪れて来ないとも限らないからだ。
これをこうして――後はこんなもんでいいよな?
応急措置程度にはなるが外敵が来ないとも限らないので、密かな仕掛けを施す。これなら何かが起きても大丈夫のはずだ。
「ルティ、フィーサ。待たせた!」
「お帰りなさいですっ! アック様、お食事になさいますか? それとも、わたしのお部屋に~……」
ラクルに戻って来て正解だったようだ。ルティが嬉しそうにしているのが何よりだし、反応が分かりやすすぎる。
「わらわはここで休んでいるなの。何だか調子が悪いなの」
「……うん、それならフィーサも自分の部屋で休んでいるといい」
「小娘の用が済んだらわらわの部屋にも来て欲しいなの!」
「もちろん!」
どうやらあれ以来、人化出来なくなっていることに悩んでいるようだ。その原因はおそらく、ドワーフ小屋でのことが関係しているからだろう。
「……で、ルティ。そんなに息を切らせてどうした?」
「はっはひっ! ようやく、ようやく……アック様をお迎えできると思っていたら、居ても立っても居られなくてその辺を走ってきました!」
「そ、そうか」
「はいっっ!」
そういえばしばらくルティをかまってやれてないな。ルティの働きに頼っているし交渉事も任せきり。特に何かをするわけでも無いが、たまにはルティと一緒にいてやるか。
倉庫を半永久的に借りて帰れる場所を確保したのもルティの力が大きいしな。
「じゃあ案内してくれ」
「さささ、こちらですよ~!」
「こ、こら、そんなに慌てなくても……」
「えへへ~」
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