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「……首尾よくお願いしますわ」
「御意」
馬上にまたがる多勢の騎士が各々が手にする鉄の剣を刃向かう者に仕向けている。剣を手にする者は称号を持つ騎士、あるいは兵士に限られていた。剣同士のつばぜり合いなど、アックや小娘と行動していた時には見ることも無かったのに。
彼女はそう思いながら、第二王女に扮し眼前に見える光景に息を呑む。シーフェル王女と化した元スキュラは、貴族騎士アルビンの手引きにより王国内に侵入していた。王子であるリエンスは、身の安全性が確保されるまでリカンシュ村の教会に身をひそめている。騎士の格好だけを真似ていた王子では戦えないと判断したからだ。
――とある城で。
「彼は捕らえた?」
「いえ、どこにも姿がありません。どこかに潜んでいるか、それともすでに……」
「すでに何だというの?」
「いずれにしましても、エドラ様がお戻りになられているのは違いありません」
「どうでもいいことだわ。勇者にそそのかされ、国を捨てたあの女のことなど……捕らえ次第、牢に閉じ込めておくことね!」
「……は」
「エドラ……今さら戻って来ても、王国はあなたにとっての墓場になるだけ。リエンスを取り戻したら全て滅ぼしてあげる」
第二王女エドラに扮しているスキュラは、力のほとんどを聖女エドラにわざと奪わせ石化させた。それにより以前に使えていた水属性魔法は弱体化している。
「……弱いというのはとても不便なことですわね」
「そうなのか? アグエスタで出会った時は脅威を感じていたが、どのくらい弱まったんだ?」
「魔法を放てば人並に疲労を覚える程度……といったとこかしらね」
「ふ、十分すぎるだろ」
「あの方がいれば全てを解決してくれますのに……歯がゆいものですわ」
「それを言われると返答出来ぬが、騎士であるからには守ってやるぞ」
「頼りにしていますわ、騎士アルビン」
騎士アルビンの剣の腕は確かなものだ。敵手の剣勢にひるまず、押されることもない。馬上にありながら態勢が崩れず、全力で応戦することが出来ている。王国内の騎士は街のあちこちで内紛する戦いで手一杯。だがアルビンの腰に掴まっている王女らしき女を見つけては、剣を向けてくる者ばかり。
シーフェル王国は内紛により因果の国となりつつあった。
国内は既に疲弊し、抗う者は全て始末されている。そんな中、ただ一騎の者が攻撃を防ぎ続けているのは誰の目にも脅威と映っていた。
「……さて、王子の手土産として第一王女を拉致していこうと思うが、お前の意見は?」
「あなたの腕で可能でしたら構いませんわ」
「言ってくれるものだな。勇者となった弟よりも強いとは思うんだがな」
「フフフ……因果応報を受ける王女。くだらない争いは終わりにして差し上げるわ」
「そうしよう、シーフェル王女」
「そうでなければ、会いにも行けませんもの」
「……そうだな」
第一王女と王子、そして王国。
くだらない争いよりもアック・イスティに会いに行く。それこそがアルビンとシーフェル王女の望み。真の目的のために、彼らは王国の深部に突入していくのだった。
◇◇
「アック様、気持ちいいですか? わたしの動きは気になりますか~?」
「悪くはないな。しかし……ルティ」
「はい、何でしょう?」
「どれくらいのスキルを覚えているんだ? それにその指圧も一体どこで……」
ハーフドワーフである彼女にはまだ謎なところが多い。その中でもはっきりしているのは、覚えているスキルの豊富さだ。魔法こそ使えなかったが、実は万能なのではないだろうか。
「えへへ~、手もみは父さまから教わったんですよ! ドワーフたるもの、体のツボの位置は把握しろ! って教わりまして~」
「ドワーフか。なるほど」
「はいっ! ではでは、お次はギュッとしちゃいますよぉ~」
「あぁ、頼んだ」
ルティの部屋に案内されたおれは強引に説得され、ベッドに横になり――全身至る所のマッサージを施されることになった。ルティは魔法は使えないが、回復に関することだけは”本物”のようだ。
ルティに癒された後、おれはフィーサの様子を見に行くことにした。