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第三章 希望。
私が産まれて間もない頃、
私の故郷で火事がありました。
私の故郷はかなり広い村だったのですが
その村を包み込むくらいの大火事でした。
村は木造建築がほとんどだったので全焼しました。
父と母と私はとても仲が良く、
逃げる際もなんだか穏やかな会話でした。
「のあは大丈夫か?」
「えぇ!少し擦り傷はついちゃったけど……」
「良かった……」
「家も建て直しねぇ……」
「だが、命の方が大事だ!家族全員生きてるだけで充分!」
「そうね!」
__状況に反する、のんびりとした会話をする2人の夫婦に突如襲い掛かる恐怖。
先に気付いたのは夫。
「母さん! のあ! 危ない!」
「えっ!?」
夫は咄嗟に娘と母を庇う。
しかし、夫は_____
「のあっ! 大丈夫!?」
「あうぅ!」
産まれてまもない子。
母が自身より優先するのは当然だろう。
「あなた、は……」
夫の安否のため横を見た。
それは間違いだったのだろうか。
「あなた!!」
夫は瓦礫に上半身を潰されていた。
「いや”ぁ”ぁ”ぁ”!!!」
母親も下半身を潰されている。
声を出すのも苦しいだろうに。
母親は、延々と続く炎の中叫び続けた。
「お母さん。なにか食べたいものとかある?」
「うどんを……うどんを食べたいわ……」
「分かった。今から作るから待っててね」
「……ごめんね……こんなことになっちゃって……」
「お母さんは謝んなくていいよ!」
「悪いのは全部放火魔だよ……!」
「のあは優しいねぇ……」
「放火魔……捕まるといいねぇ……」
母は両足を失った。
だから歩けない。
家のことは全部私がやっている。
「……のあ、最近魔王のやつの動きが派手なんだと」
「そうなの?気をつけないとだね」
「のあは、僧侶の力があるでしょう?」
「え? うん」
「その力を使って、魔王を倒してみるのはどう?」
「えっ!?でも、お母さんが……」
「いいんだよ。私はもう長くない命なんだから」
「……どこか悪いの?」
「癌だよ」
「!」
サラリと口に出された言葉。
その衝撃は、今もずっと忘れられませんでした。
「だから、いいんだよ」
「お母さん……」
「さあ行きなさい」
「……せめて、お母さんが死んじゃうまで……」
ここにいたい……
「うぅ……お母さん……」
冷たくなった母の手。
私をたくさん撫でてくれた母の手。
「大好きだよ……お母さん……」
すっかり冷たくなってしまった、
母の、優しい手。
「ねぇ、あんた僧侶?」
「えっと……吸血鬼の、方、ですか?」
「そうだけど、安心してよ。俺は人間を食わないから」
「そっ、そうですか、なら良かった、です」
「ところで、あんた僧侶だよね?」
「は、ははい!」
「俺らの仲間になってくれない?」
「へ?」
「魔王討伐の旅。どう?」
「!い、いきます!」
「よし。ありがとう 」
「ちなみに、他に人は?」
「もう1人いるよ。うるせぇ奴だけど悪い奴って訳じゃないから、安心して」
「……はい!」
この人、吸血鬼さんだけどすごーく優しい!
お母さん、夢、叶えられそうだよ!
もう1つの希望だ!!
(……楽しそう……元気な子だな……俺の事、怖くないのか?)