小刻みに揺れる目覚まし音に
体が震える。
カーテンの隙間から光は無く、
初日の出前の早朝。
あと五時間は寝ていたい時間帯である。
枕元のスマートフォンを持ち上げ
画面を指でなぞり
モチベーションを探す。
そして辿り着いたメール画面。
『先輩
あけましておめでとうございます』
『ああ。 』
年が明けた一分後、
俺が送った新年の挨拶。
すると一秒後、
返ってきた質素な返事。
先輩への愛おしさを
モチベに、
俺は布団を持ち上げた。
〃
洗面台の鏡では
微かに黒の混ざる薄い茶髪が揺れる。
(もうそろそろ染めに行かないとなー)
黒髪にはあまり反応を示さなかった先輩を思い出し、
そう予定を立てる。
水で顔を洗い、
トレッシングペーパーで丁寧に拭く。
化粧水、乳液、美容液で
順番に肌を覆う。
少し傷んだ髪の毛を持ち上げ、
アイロンで伸ばす。
ワックスを手に取り、
綺麗に固める。
毎日の、この作業。
いくら朝が早い会社とはいえ
これをしなければもっと
沢山寝ることが出来るだろう。
洗面台の壁には、ある
アイドルモデルの顔写真。
ファンなんてものでは無い。
むしろ、初めは妬んだ顔だ。
今でも鮮明に思い出す。
先輩が男優誌を手にレジに
恥ずかしそうに並んでいたところ。
俺は足早に同じ雑誌を買い、
それを捲っていった。
初めは表紙の人と同じ、
無造作のパーマをあてた。
次に二ページ目、
金髪に染めピアスも開けた。
次はオレンジ。
次はストレーパーマの長髪。
次は赤の短髪。
やっと、先輩から好ましい反応が表れた。
それが今のクズ系茶髪。
散々パーマをあて、ブリーチをして、
傷んだ髪。
だがそれも今はクズを引き出す布石
だったのではと思えるほど、
先輩に興味を持って貰えたことが
嬉しい。
『今年は飛躍の年にしたいですね』
『そうだな』
寝ていたのだろう。
六時間前のメールへの
返事が今頃だ。
先輩のことだ。
出世のことかなんかだと
思っているだろう。
(かわいいなあ)
思わず、鏡の前で練習した
クズらしい 笑顔ではなく、
素の笑みが漏れる。
先輩は知らないだろう。
俺が先輩を主任でもさん付け でも
なく「先輩」と呼ぶ理由。
ずっとずっと前から、
好き。
それはもう、
努力嫌いの俺が
こんなにも努力できるほど。
それはもう、
愛してる以上の言葉が
欲しくなるくらいに。
なんて、
(重いですか…?先輩?)
おまけ↳
『今年は飛躍の年にしたいですね』
部下から送られた、
こんなメッセージ。
新年の挨拶に早々に返事して
しまったこともあってか、
この一文の意味を深く
読み取ってしまった。
(飛躍…。
俺らほぼディープキスまでやったから…
あとは……)
そんな考えに陥り、顔が熱い。
(いや違う。
こんなの仕事場での決まり文句だし…)
そうやって首を振るも
熱は冷めないし
考えも消えない。
〃
「今日はいつにも増して眠そうですね、
先輩」
翌朝、いつも通りに
話しかけてくる部下。
「ん、ああ、
ちょっとな…」
(結局一晩中考えてしまった…)
「飛躍の年にしたい」 それが
どんな意味にせよ、
俺の中では肯定の言葉しか
浮かばなかったわけだが。
↲
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コメント
7件
最初から最後まで口角が上がりまくりです!!どうしたらいいでしょう!!!
えぐ好き、え好かれようとして髪型変えてるのはまじ可愛い何事? モデルに妬いてるのも可愛いんだけどえ待ってめっちゃ好き 飛躍の意味を考えるのも可愛すぎるんですが!?
努 力 す る 男 の 子 っ て ど う し て こ ん な に も 可 愛 い の で し ょ う( 尊 す ぎ る 。 め っ ち ゃ 好 き