「翔太、こっち…」
阿部に連れて行かれた先は、小さなカフェの様な場所で
「ここで、手作りケーキ食べられるんだよ。飲み物も…翔太の好きなコーヒーは、コーヒー好きのマスターのこだわりの逸品」
普通の店で出されるモノとは違い…ここは趣味でコーヒーを極めた素人さんが入れてくれる
しかし、都会の様に…たくさん客が来る訳では無い為、少々原価割れでも気にしなくて良い
「今日のおすすめは、ショートケーキだって…」
メニューも沢山ある訳でなく、小さな黒板に書かれた数品のみ
だからこそ、材料にこだわりを持ち…地元の採れたてフルーツや、野菜を使ったメニューが並ぶ
「じゃあ、俺はショートケーキとホット一つ」
「俺も、同じモノをお願いします」
2人は注文を終え、一息付いた
「はぁ〜本当にここ、落ち着くね…」
別に実家もないし、思い出だってここには無い…
それでも、懐かしく感じるのは何故だろうか?
「お待たせしました」
2人の前に、ケーキとコーヒーが来て…2人は目を丸くする
「美味しそう」
大きなイチゴと真っ白な生クリーム…
一口食べると、ミルクの味が濃厚で
味も当然、美味かった
「それで…翔太は何を悩んでいるの?」
何の前振りもなく、阿部が突然聞いて来た
「それは…その…」
「俺には言えない話?」
「いや…そんな事は無いんだけど…」
「だったら話して。話すだけで楽になる事も、あるんだよ…」
心配そうに、そう言われ…
思わず渡辺は口を開いた
「あのね…。今撮ってるドラマの監督が…俺の芝居を毎回、ボロクソ言って来るんだ…。だから、俺…段々自信がなくなって…」
そう言った渡辺は、落ち込んだ様子で下を向いてしまう
「それってさ…まだ伸びると思うから、言うんじゃないの?」
「まだ伸びる?」
「翔太がもう何を言っても無駄な奴なら、言うだけ無駄だし…何も言わない。だけど…翔太には、伸び代があるから…監督も怒ってくれているんだと思うよ」
今、渡辺のドラマを撮ってくれている監督は
演者からも信頼厚く、悪い噂も聞いた事がない…
「俺に、芝居の伸び代が?」
「うん。きっとそうだと思う。ほら翔太…俺の苺あげるから、頑張って…」
そう言った阿部は、フォークで苺を刺して…渡辺の前に差し出した
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