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帝国についた当日、公な訪問となれば大がかりな〝歓迎〟をされてしまうので、私は事情を知っている門番に挨拶をし、少数人の供を連れて宮殿に入った。
「フェリ、少しぶりだな」
笑顔で迎えてくれたアルフォンス様は二十七歳になり、ますます男ぶりに磨きをかけている。
彼の眩しい笑顔を見ていると、強い光に照らされて消滅してしまうのでは……と思うほどだ。
そんなアルフォンス様に特別扱いされているので、恐れ多さのあまり消え入りそうになるけれど、せっかくの機会を無駄にしてはいけない。
落ち込むだけなら、あとからどれだけでもできる。
私はニコッと笑い、彼の前で深くカーテシーしてみせた。
「お招きありがとうございます。とても光栄です」
薄紫色のドレスを纏った私にお辞儀をされ、アルフォンス様は困ったように笑う。
「君は誇り高きシャレット聖王国の姫君なんだから、そんなに深く礼をしなくていい」
「ですが大国の皇帝陛下には、礼を尽くさなければなりません」
そう言ったあと、私は心からの笑みを浮かべる。
「もうすっかり皇帝陛下が板につきましたね」
応接室のソファに座ったアルフォンス様は、私にも座るよう勧めたあと曖昧に笑った。
「まだまだ若輩者で、古くからの忠臣には頭が上がらない」
「まあ」
大げさに驚いてみせたあと、私たちは顔を見合わせて笑った。
「移動で疲れただろうから、明日まではゆっくりと休むといい。そのあと、魔術で姿を変えて帝都で遊ばないか?」
「いいのですか!?」
まさか皇帝陛下となった彼がそこまでしてくれると思わず、私は目を見開く。
「……ですが執務は……」
「この日のために前倒しで片づけた」
彼はすかさず言い、自慢げに顎をそびやかせる。
「臣下たちは良い顔をしないのでは?」
「すでに話をつけてある」
あまりにも用意周到で、私は言葉を失ってしまった。
「そんなに驚く事か? 以前から約束していたのだから、当たり前だろう」
「……そう、ですけど……」
成長するにつれて彼はどんどん立派になり、遠い人になった印象が強かった。
だから昔からの知り合いで、求婚された身とはいえ、ここまでしてくれると思わなかった。
「今はただのアルフォンスとフェリとして過ごそう」
少し困ったような表情で言われ、私はハッと気づく。
(ここまで用意を整える事は容易ではなかったはず。責任感の強い彼がすべき事を放棄すると思えないし、今の状況に感謝して楽しむのが一番彼のためになるんだわ)
自分に言い聞かせた私は、笑顔で頷いた。
「はい! 大人になった思い出をください」
そう言うと、アルフォンス様はサッと赤面した。
「え?」
(何かまずい事を言ってしまったかしら?)
ドキッとして彼の様子を伺うと、アルフォンス様は気まずそうに言う。
「……無自覚だと思うけど、あまり男を勘違いさせる言葉を言わないほうがいい」
「……………………あっ」
言われて初めて、私は聞きようによっては危うい言葉を口にしたのだと自覚し、真っ赤になる。
「……まぁ、フェリの事だから他意はないと分かっていたけど」
アルフォンス様はクスクス笑って言い、そのあと少しまじめな表情で付け加えた。
「もう成人したし、君は十分魅力的な女性になった。フェリに想いを寄せる男性がいてもおかしくない。無邪気な所は美点でもあるが、男を勘違いさせないよう気をつけてほしい」
「そんな。私は……」
――〝ハズレ姫〟に興味を持つ男性なんていない。
私はそう言おうとして、とっさに言葉を呑み込んだ。
けれど、彼はすべて見透かしたような顔で頷いた。
「君の自己評価は低くとも、周りはそう思っていない。ひいき目を抜きにしても、君はとても美しく育った。聖王家の特徴を表した銀髪に金色の目、肌は抜けるように白いし笑顔は愛らしい。ちょっとした仕草が可愛らしくて男心をくすぐるし、…………失礼かもしれないが、胸元も立派に育って思わず目がいってしまう」
最後にボソッと言われ、私は赤面する。
レティとは外見がそっくりのはずなのに、なぜか私のほうが胸元にボリュームがある。
(……というか、アルフォンス様が私の胸を見ていたなんて……)
今まで彼を〝尊敬するお兄様〟的に想っていたから、求婚されてもあまりピンとこなかった。
けれど今、アルフォンス様が私を女として見ていると知り、一気に彼を異性として意識してしまった。
「…………え、……えっち」
恥ずかしくなった私は、両手で胸元を隠して上目遣いに彼を見る。
「~~~~っ、だから君は……っ、そういう言動が男を惑わせると何回言えば……っ」
アルフォンス様も赤面し、動揺して立ちあがる。
けれど立った事で余計に谷間がくっきりと見えてしまったらしく、彼は「あぁ……」とうめいて再び座った。
私たちは視線を逸らしたまま、赤面して無言になる。
室内に立っている侍従長がなまぬるーい笑みを浮かべているのが、いっそういたたまれない。
アルフォンス様は咳払いすると、侍従長に視線をやって彼を下がらせた。
(え……)
ドキッとして彼を見ると、アルフォンス様はゆっくり立ちあがってテーブルを回り込み、私の隣に座る。
その瞬間、フワッと彼からいい匂いがして胸が高鳴った。
「……フェリ。俺は真剣に君を女性として見ているし、結婚したいと思っている。……君が俺を兄のように思っていたのは分かっている。俺も妹のようと感じていた。だが成長と共に人の心は変わるものだ。……君は俺に女として見られて、気持ち悪く思うか?」
真剣な眼差しで問われ、私は恥ずかしさのあまり視線を逸らしてからボソボソと答える。
「……私も、あなたが女性たちに囲まれているのを見て、嫉妬心に苛まれていました」
本心を打ち明けるのが、こんなにも怖い。
虐げられてきた私が人を好きになったと知れば、周りの人たちは「身の丈に合わない」と嘲笑うだろう。
でもアルフォンス様になら、勇気を出して本音を言えた。
彼は私を見て微笑んで言う。
「両想いだな」
柔らかく笑った彼は、私の頬を掌でスリスリと撫でてくる。
「嫉妬してくれてありがとう。……こうしたら少しは不安が和らぐか?」
そう言って、アルフォンス様は顔を傾けるとそっと口づけをしてきた。
唇にフワッと柔らかなものが重なり、チュッとリップ音を立ててついばむ。
生まれて初めてキスをされ、私は赤面して硬直してしまった。
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