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篝火

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#婚約破棄
霞花怜
911
昼休み。
悠真はいつものように、湊の席へ向かおうとしていた。
「湊、お昼――」
そこまで言って、悠真の足が止まる。
湊の隣には、クラスの女子がいた。
「湊、この問題分かる?」
「ここはこうじゃない?」
「ほんとだ!ありがとう!」
二人が笑っている。
ただ、それだけ。
なのに――
「……」
悠真は、なぜかその場から動けなくなった。
「悠真?」
湊が気づいて顔を上げる。
「一緒に食べる?」
「……いい」
「え?」
「友達と食べるから」
悠真はそう言って、別の友達のところへ行ってしまった。
「……?」
湊は不思議そうに悠真の背中を見つめた。
*
放課後。
「悠真、帰ろ」
湊が声をかける。
「……うん」
いつもなら隣にぴったり並ぶのに、今日は少し離れて歩いている。
「今日、どうした?」
「別に」
「昼も変だった」
「……何でもないって」
湊は少し考えてから、悠真の前に回り込んだ。
「俺、何かした?」
「……してない」
「じゃあ、なんで怒ってるの?」
「怒ってない」
「じゃあこっち見て」
「……」
悠真はなかなか顔を上げない。
「悠真」
「……だって」
小さな声が漏れる。
「ん?」
「……湊が、あの子と楽しそうにしてたから」
湊が少し驚く。
「それで?」
悠真は恥ずかしそうに俯いた。
「……嫌だった」
「もしかして……」
「言わないで」
「嫉妬した?」
「……」
悠真の耳が赤くなる。
「……ちょっとだけ」
「ちょっと?」
「……結構」
湊は思わず笑ってしまう。
「笑うなよ!」
「ごめん。でも……嬉しい」
「なんで!?」
「だって、俺のこと好きってことだろ」
「……恋人なんだから当たり前じゃん」
「それもそうか」
湊は少し照れながら笑った。
「でも、あの子はただ勉強聞かれただけだよ」
「……ほんと?」
「ほんと」
「じゃあ……よかった」
悠真がほっとしたように笑う。
湊はその顔を見て、
「これからは、ちゃんと言って」
「何を?」
「嫉妬したなら、嫉妬したって」
「無理。恥ずかしい」
「じゃあ俺が当てる」
「もっと恥ずかしい!」
二人で笑う。
そして帰り道。
今度は悠真のほうから湊の隣に戻った。
「……湊」
「ん?」
「今日は、俺の隣いてよ」
「いつもいるだろ」
「今日は特に」
湊は少し笑った。
「分かった」
二人は並んで歩き出す。
悠真はまだ少し照れていた。
でも――
さっきまで胸の中にあったモヤモヤは、もう消えていた。
好きだから、嫉妬する。
そしてそれを知った二人の距離は、昨日より少しだけ近くなった。
コメント
1件
ああ、もう、悠真の「結構」ってところで胸がきゅっとなりました。普段はクールな感じなのに、湊にだけは素直になれないというか、照れ隠ししながらも本音がちょっとずつ漏れていく感じがすごく可愛い。湊が「嬉しい」って笑うのも、ちゃんと受け止めてるんだなって伝わってきて温かくなりました。「今日は特に俺の隣にいて」って言えるようになった距離感、良いですよね。沙良さん、この二人の空気感、めちゃくちゃ丁寧に書けてます。