テラーノベル
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(やーん、恥ずかしいっ) きゅーっと身体を縮こまらせてソワソワと視線を転じた先。
すりガラスの向こう側からキッチンを使っていると思しき音が聞こえてきた。
(大葉……?)
羽理は半ば無意識に唇へそっと触れると、昨夜のあれこれを思い出して頬をポッと赤く染めた。
ふと見下ろせば、いつの間に付けられたんだろう?
胸のあちこちに、まるで所有痕ででもあるかのように沢山の鬱血痕が散らされていた。
(ひゃー、ひゃー、ひゃー!)
そう。昨夜のアレコレは夢なんかじゃない。
羽理は、大葉とエッチなことをしたのだ。
身体が訴えてくる不調や違和感は、全てそのせいで……。
(痛かったぁぁぁ……!)
初めてだったからだろうか。
大葉は、羽理が弱音を吐くくらい沢山ほぐしてくれたのに、彼を受け入れた瞬間の引き裂かれるような下腹部の痛みは、思わず泣いてしまうくらいに痛烈だった。
だけど――。
それを乗り越えた先。
愛しい人とひとつになれた喜びは、何ものにも代え難いものがあった。
大葉がくれる大人のキスは、身体の奥底がムズムズしてしまうくらい気持ちよかったし、胸に触れられるのも、信じられないくらいゾクゾクして心地よかった。
(大葉の大きな舌で、ベロとか口の中コショコショされるの……何かくすぐったくてムズムズした……)
触れられたのは口なのに、下腹部がキュンと疼くような何とも言えない不思議な感覚で、気が付けば羽理は足をもじもじと擦り合わせていた。
心臓バクバクジェットコースターも、キュンと甘く締め付けられるような下腹部の反応も、大葉と経験したんだと思ったら、何だか嬉しくて照れ臭い。
婚外子という自身の生い立ちから、婚前交渉なんて一生出来ないだろうなと思っていた羽理の心を、大葉は丁寧に解きほぐしてくれた。
避妊だって羽理が言わなくてもちゃんとしてくれたし、そもそも大葉は羽理と結婚したいと言ってくれたのだ。よもや子供が出来たとしてもきっと受け入れてくれるだろう。
〝恋人との初エッチ。〟
そんなパワーワードが脳内を駆け巡った結果――。
(私っ! ホントに大葉と、最後までしちゃったんだぁ~!)
なんてことを激しく実感してしまって。
(夏乃トマト! 作品の描写に深みが増しそうですっ!)
そう宣言して、布団を頭から被って心の中でキャーキャー悲鳴を上げながら悶えていたら、盛大にゴン!と壁に頭を打ち付けてしまった。
「はぅっ!」
予期せぬ痛みに、今度こそしっかり声を出してしまった羽理だったのだけれど。
「どうしたっ!?」
当然と言うべきか。
大葉がフライ返しを手にしたまま寝室へ飛び込んできた。
***
チキンライスの上に乗っけるフワとろ卵を焼いていたら、隣室からゴン!という音が響いてきた。
それと同時、「はぅ!」とうめき声が聞こえて来て、大葉は慌てて火を止めて仕切り戸を開けたのだけれど。
見れば、ベッドの上に布団をかぶったお化け――ではなく羽理がいて――。「どうしたっ!?」と声を掛けながらも心の中、『何をやってるんだ、こいつは! くっそ可愛いじゃねぇか!』と、他者からすればちょっぴりズレたことを思わずにはいられない。
バナナの皮をむくみたいに被った布団をめくって痛みに震える羽理の顔を中から取り出してみれば、額のところが赤くなってちょっぴり腫れている。
「頭、打ちましたぁぁぁ」
うるりと瞳に涙をにじませて、布団にくるまったまま自分を見上げてくる羽理に、大葉は心臓をズキュン!と撃ち抜かれて。
(俺の彼女、可愛すぎだろ!)
昨夜こんな可愛いのを〝頂いた〟んだと思うと、何となくイケナイことをしたような気持ちに苛まれて心臓がバクバクする。
「痛いの痛いの飛んでいけー!」
いつだったか、公園で羽理に股間を撫でさすられながらそんなことを言われたことがあったのを思い出しつつ羽理の頭をヨシヨシしたら「むぅー。私、子供じゃありませんよぅ!」とか。
「いや、お前もこれ、俺にやったことあるぞ?」
つい本音がポロリ。
「あ、アレは忘れてください! 忘れるべきですっ! 忘れてしまえー!」
結果、羽理と二人、あの時のことを思い出して妙に気恥ずかしくなってしまった。
「とっ、とにかくっ! 俺はお前のことを子供だなんてこれっぽっちも思ってねぇからな?」
そう思えないから大変なんじゃないか、と心の中。フライ返しを手にしたままの間抜けな姿で付け加えつつ。
今だって腕の中の羽理は、布団の中で素っ裸なのだと知っているから……布の隙間から見え隠れする胸の膨らみに、大葉は〝愚息〟をなだめるので一杯一杯なのだ。
「ん……。分かった」
羽理はそんな大葉の必死な訴えを恥ずかしそうに短い言葉で受けると、まるでその空気を一新したいみたいに言うのだ。
「――ね、ところで大葉、お料理中じゃなかったの?」
羽理のちょっぴり釣り気味で愛らしいアーモンドアイが、大葉が手にしたフライ返しを見詰めている。
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