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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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FORSAKENの最深部。
スペクターの私室。
夜は深く。
窓の外では月だけが静かに世界を照らしていた。
部屋の中に響くのは、本のページをめくる微かな音だけ。
スペクターは椅子に腰掛け、静かに読書をしている。
その傍ら。
ノスフェラトゥは跪いていた。
一言も発さない。
ただ静かに。
ただひたすらに。
主の許しを待っていた。
数日間のおあずけ。
その時間は、ノスフェラトゥにとって想像以上に長かった。
飢え。
渇望。
焦燥。
それら全てを押し殺しながら、彼は命じられた通り従い続けた。
逃げなかった。
逆らわなかった。
文句も言わなかった。
ただ待った。
それだけだった。
やがて。
スペクターが本を閉じる。
静かな音が部屋に響く。
「良い子にしていたね」
穏やかな声。
ノスフェラトゥの肩がぴくりと震える。
「……おいで」
その一言。
それだけで十分だった。
長い夜が終わる。
許された。
認められた。
その事実だけで胸がいっぱいになる。
ノスフェラトゥはゆっくり顔を上げた。
赤い瞳が揺れる。
喜び。
安堵。
幸福。
様々な感情が混ざり合っていた。
そして。
立ち上がろうとして――
止まった。
「…………」
固まる。
完全に固まる。
スペクターが首を傾げた。
「どうしたんだい?」
返事がない。
ノスフェラトゥは何かを考え込んでいた。
深刻そうな顔。
とても深刻そうな顔。
世界の命運でも背負っているのかと思うほど深刻だった。
そして。
数秒後。
彼は顔色を変えた。
「……いけない」
ぽつり。
「何がだい?」
ノスフェラトゥが震える。
「私は今……」
さらに震える。
「大変な不敬を働くところでした」
「うん?」
「歯を磨いておりません」
沈黙。
部屋も沈黙。
月も沈黙。
世界も沈黙。
スペクターだけが瞬きをした。
「……は?」
素だった。
完全に素だった。
だがノスフェラトゥは真剣だった。
ものすごく真剣だった。
「これは重大な問題です」
「そうかい」
「重大です」
「そうなんだね」
「万全の状態でなければなりません」
スペクターは嫌な予感がした。
非常に嫌な予感だった。
次の瞬間。
ドンッ!!
空気が爆発した。
ノスフェラトゥ消失。
神速発動。
洗面所へ直行。
「待ちなさい」
間に合わない。
もういない。
残されたのは静寂だけだった。
スペクターはゆっくり本を閉じる。
そして天井を見た。
「……何をしているんだい、あの子は」
一方その頃。
洗面所。
戦場だった。
「落ち着け私」
鏡の前のノスフェラトゥ。
落ち着いていない。
全然落ち着いていない。
「最高級の歯磨き粉はどこだ」
引き出しを開ける。
閉める。
また開ける。
三本出てくる。
「どれだ」
選ぶ。
悩む。
また選ぶ。
「いや待て」
さらに悩む。
世界を滅ぼすより真剣だった。
数秒後。
決断。
「これだ」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!!
凄まじい勢い。
もはや歯磨きではない。
訓練である。
修行である。
奥歯。
前歯。
隅々まで。
一切の妥協なし。
「完璧を目指せ……!」
誰に向けた言葉なのか分からない。
うがい。
確認。
鏡を見る。
ニッ。
「よし」
キラーン。
謎の効果音が聞こえた気がした。
神速発動。
再び廊下を爆走。
二十秒後。
バァン!!
勢いよく扉が開く。
「お待たせいたしました!!」
帰ってきた。
やたら爽やかな顔で帰ってきた。
スペクターはまだ椅子に座っていた。
驚くほど動いていない。
ノスフェラトゥは勢いよく跪く。
「準備は万全です!」
「そうかい」
「完璧です!」
「そうかい」
「確認も済ませました!」
「そうかい」
「いつでも大丈夫です!」
「そうかい」
スペクターは額を押さえた。
長いため息。
とても長いため息。
「君ねぇ……」
「はい!」
「せっかく雰囲気があったんだよ」
「はい!」
「全部壊れたよ」
「申し訳ありません!」
謝る声だけは元気だった。
スペクターはしばらく黙った。
そして。
とうとう吹き出した。
「ふふっ」
肩が震える。
「本当に変わっているね、君は」
ノスフェラトゥは誇らしげだった。
なぜか誇らしげだった。
褒められたと思っている。
たぶん違う。
絶対違う。
だが本人は幸せそうだった。
翌日。
アズールがノスフェラトゥの部屋を訪れる。
扉を開ける。
固まる。
「……何これ」
壁際。
棚。
机。
引き出し。
全部。
歯ブラシ。
歯ブラシ。
歯ブラシ。
歯ブラシ。
「何を目指してるの」
ホスフォラスも覗く。
そして言った。
「魔界歯科医?」
「違う」
ノスフェラトゥは真顔だった。
「忠誠だ」
「意味が分からない」
「全然分からない」
二人の声が完璧に重なった。
ノスフェラトゥだけが満足そうだった。
コメント
2件

いやー面白すぎません?こちらと毎回ツボる場所有るんですけど あの二人のツッコミ面白いし栄養いつもありがとうございます!