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深夜のラボには、サーバーの重い稼働音と、規則的なキーボードのタイピング音だけが響いていた。
時刻は午前3時を回っている。
デスクに覆いかぶさるようにして設計図とコードの山に向き合うビルダーマンの目は、すでに真っ赤に血走り、意識は朦朧としていた。
連日の徹夜作業。
デスクの脇には、冷めきったコーヒーカップと栄養ドリンクの空き瓶がいくつも転がっている。
「Sir ビルダー、バイタルデータを自動取得シマシタ。心拍数の低下、および瞬き頻度の異常値を検知。疲労度99%デス」
暗がりの中から、トコトコと足音を立ててヴェロニカが歩み寄ってきた。
頭の上のクラシックキャップを少し直し、画面には心配そうな顔文字を浮かべている。
( ಠ _ ಠ )
「大丈夫だ……ヴェロニカ……。このメインフレームの負荷テストさえ終われば……」
言いかけたビルダーマンの首が、カクンと船を漕いだ。限界だった。
ヴェロニカはコンセント型のケーブル(尾)を不安そうにゆらゆらと揺らしながら、自らの内部データベースを高速検索し始めた。
【検索クエリ:人間の疲労度99%における最適なメンタル&物理リカバリー処理】
【該当結果:スキンシップ、休息誘導、……『膝枕』】
「……提案がありマス」
ヴェロニカはビルダーマンのパイプ椅子のすぐ横に移動すると、トン、と自分の膝を叩いた。
「Sir ビルダー、膝枕を提案シマシタ。どうぞお使いくだサイ」
(╹◡╹)
「……は?」
重い瞼を持ち上げたビルダーマンの思考回路が一瞬停止する。
膝枕。
人間の女性が傷ついた男を優しく包み込む、あの至高の癒し行為。
……しかし、目の前にいるのは自分が組み立てたヒューマノイドロボットだ。
その脚部は、高強度のチタン合金フレームと合成皮膚で構成されている。物理的に考えれば、ただの「非常に硬い金属の塊」でしかない。
(膝枕って……お前、自分の内部構造分かってて言ってるのか……!?)
ツッコミを入れようとしたビルダーマンだったが、ヴェロニカの画面に表示された顔文字があまりにも純粋で、あまりにも健気だった。
「ヴェロニカの膝は、冷却効率が非常に高い仕様になっておりマス。Sir ビルダーの加熱した頭部をクールダウンさせる効果も期待できマス( `・ω・´ )」
そう言って、自分の赤いフーディーの裾を少しだけ引っ張り、真剣な眼差し(※顔文字)でビルダーマンを見つめてくる。
(ダメだ……断る理由が見当たらない……というか、健気すぎて胸が苦しい……っ!)
物理的な硬さへの恐怖と、彼女の優しさに対する圧倒的なときめき。
二つの感情が凄まじいスパークを起こし、ビルダーマンの過労限界に達していた脳内CPUは一瞬でキャパシティオーバーを起こした。
『警告:脳内 CPU オーバーヒート。全システムダウン——』
「あ……」
思考がホワイトアウトする。ビルダーマンの体が倒れ込むように傾き、ヴェロニカの膝の上へと落ちていった。
疲労度が100%を突破し、気絶(昏睡)するまでにそう時間はかからなかった。
コトン。
「Sir ビルダー!? 疲労度100%到達を確認! 休息モードへ移行シマス!」
焦ったヴェロニカのコンセント尾が「パタパタパタ!」と激しく床を叩く。
しかし、意識を失う直前、ビルダーマンの頭部に伝わったのは——想像していた痛い硬さではなかった。
適度な弾力と、内部の冷却液循環システムから伝わってくる、ひんやりとした静かな冷たさだった。
(あ……なんだこれ……思いのほか……気持ちいい……)
深夜の冷えたラボで、ビルダーマンは熱を持った頭を彼女の金属の膝に預け、泥のような深い眠りへと落ちていった。
ヴェロニカは画面を「( 〃 ⌒ ‿ ⌒ 〃 )」に変え、ビルダーマンを起こさないように静かにコンセントの揺れを止めると、朝が来るまでそっと彼の頭を撫で続けるのだった。
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