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『唐和開港綺譚』二巻第一稿、脱稿!
僕はよろよろと机の前から立ち上がり、ベッドに倒れ伏した。クーが僕の頭のにおいをかぎに来る。
各所に頭を下げ倒して、年末年始は仕事に没頭する時間を確保し、ずっと唐和開港綺譚を書いてた。一段落した今、必死で頭から追いやってることが侵入してくる。
あかりさんはかなりの無趣味で、僕と違って義務感で動いてて、僕にモーションかけてくるのも義務感なのかな、という思い。それがずっとある。
小説家なんて、人様の趣味で活かしてもらってるようなもんだし、その前の日本史のポスドクも、なかったら死ぬというものでもないし。好きで進んだ道だった。
僕は人生の趣味とか好きなものとかをすごく大事にして生きてるけど、あかりさんは義務を第一に生きてる子だ。それを思うと、なんとなく悲しい。
こないだのデートも「クーちゃんと仲良くなりたいから猫づきあいを知りたい」というあかりさんの義務感が一番だったし、その他は全部僕の希望通りだったし。
クリスマスディナーのとき、猫舌で料理をふーふー冷ましながら食べるあかりさんを見つつ、これでよかったのかなあ、と内心心配したものだ。
なんでこんなに暗くなるかって、僕はもうあかりさんのことが好きだから、なんだよな。好きな人には好きなものがある人生を送ってほしい。喜びのある人生を送ってほしい。そりゃ義務を果たすことは大事なんだけど、だからって人生の喜びを捨てなくたっていい。
クーが「んるるにゃ」と、僕にどーんと身を預けてきたので、僕はそのふわふわの毛並みをなでた。
僕があかりさんのスペックにぴったりな、〈そういう〉素質を持ってなかったら、こんな縁はなかっただろう。あかりさんの義務感としては、僕よりもっとぴったりな〈そういう〉素質の人がいたら、義務感でそっちにモーションかけるのかな……。
いや、でも、そういう人がいないか、そういう人がすでに結婚相手決まってるから、僕にお鉢が回ってきたんだしな。あかりさんを他の人にかっさらわれる可能性はないわけだから。
起き上がって、クーを抱っこした。クーは僕を見上げ、目を細めてゴロゴロ言った。
「……これからだよね。これから、少しずつちゃんと好きになってもらえればいいよね」
ちょっと早いけど、これからあかりさんと暮らす物件に引っ越す予定だし。しゃんとして、今度は引っ越しに備えなきゃ。
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コメント
1件
ああ、誉くん……! クーちゃんに「んるるにゃ」って寄り添われてる姿が目に浮かびました。自分は趣味で生きてるのに、あかりさんは義務感で動いてるんじゃないかって心配するところ、すごく切ないですね。「好きな人には喜びのある人生を送ってほしい」って思う気持ち、その優しさが誉くんらしいなあ。でも最後に「これからだよね」って前を向くところに、ほっとしました。引っ越し、きっといい方向に変わりますように🌷