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18歳選挙権を待たずに政権与党保守党に心酔する高校生がいた。その名は秋津悠斗。
スマートな体つきにやや青みがかった雅な髪の彼は麗しい琥珀色の瞳を持っていた。その瞳は政権の功罪にフィルターをかけていた。少年ゆえの純粋無垢な権威主義で内閣総理大臣だの日本国政府だのという壮大な響きに心を酔わせ、与党保守党が主催する幾多もの演説会、行事に足を運ばせていた。
右翼かぶれの小僧、と高校の担任は煩わしく思う。
彼が憧れてやまない政治家は、その年も紅白幕を背景に一合桝を高らかに掲げる。
「桜を見る会の成功を祈り、乾杯!」
清酒をぐいと飲み干すのは物部泰三内閣総理大臣だ。
「乾杯!」
悠斗は無邪気に顔を輝かせ炭酸水のグラスを高校の先輩らと交わしていく。
この首相主催の桜を見る会に参加している一万数千人もの大多数は政府高官、総理のお膝元山口県連の党員や、クールジャパン機構で蜜月関係にある芸能人で占められる。彼らに加えその身内にまで際限なく参加者を募ったものだから野党の追及の対象となりかけている。保守党衆議院議員、秋津文彦を継父に持つとは言え高校生に過ぎない悠斗が入場できたのだから参加者は特にVIPには限定されていない。先輩の東城洋介、西村美咲もだ。
「税金の無駄遣いね」
房総高校の先輩にあたる洋介と美咲は政府関係者の身内であった。特に美咲はアイドルでもあるから芸能人枠とも言える。
「そう言うな。親父さんの立場もあるぞ」
美咲をたしなめる彼氏の東城洋介は幹部自衛官の息子で、自身も防衛大学校志望だ。
「だって地域振興の予算がその地域の会社をバイパスしてアイドルの全国ツアーに投資されているんでしょ? 上の人たちがそんなことやってるくせにさあ、私たちは動員かけられて桜を見る会の賑やかしにされてるんだよ」
実際、物部首相がUEN48グループと決めポーズを取ってお楽しみ中だ。
美咲はプロデューサー春本健一の顔を思い出しながら甘いはずのジュースを苦そうに口に含む。未だ高校生でしかない彼女の青春がむさ苦しい男たちの欲によってアイドルとして搾取されるに至っているのは、ひとえに、首相官邸と春本事務所の癒着が大きい。
物部首相が創設したクールジャパン機構は春本事務所など芸能事務所に税金を投入する引き換えにプロモーションを委嘱し、春本事務所はアイドルから労働力を搾取する。その接待役として白羽の矢が立てられたのが西村篤志内閣官副長官の娘、美咲であった。
このトライアングルを良しとしない政治団体が後に現れる。率いるは武家の末裔。その名は玉川芳彦、またの名を斯波高義というが、彼の義挙は当分未来の話。
来たるべき政権は秋津悠斗総理大臣と斯波高義副総理兼財務大臣を縦糸横糸として紡がれるのだ。あるいは政権の秘話は物部政権の光を追った秋津と影を追った斯波との二重螺旋とも言えるだろう。
だが、今物部と握手し興奮しっぱなしの悠斗はまだ自身の激動の道を知らない。
総理大臣から握手をしてもらえた!
乏しいと言うよりは幼い人生経験しか持たない秋津悠斗には今はそれしか考えられなかった。