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こんな親はいやだ……
面白い!めっちゃ読みやすい!ノベルハマったかも。
「なんか臭くなーい?」
麗奈はそう言うと、私に向かって──。
『シューっ!』とスプレーを吹きかけた。
「ごほっ…ごほっ!」
「やだ、貧乏がうつるじゃない!」
『ドンっ!』と私を突き飛ばす麗奈は、カーストトップのセレブ。
一方、私はというと…。
「てかさ、あんた髪とか洗ってんの?」
『シューっ!』
「マジで臭いんですけどー!」
『シューっ!』
「や、やめてっ…」
「はぁー!?あんたなに口答えしてんの?」
「ご、ごめん…」
「じゃ、これ舐めたら許してあげる」
麗奈が腕組みしながら、足を突き出した。
「おい、早く舐めろよ!」
そんな怒鳴り声に、体がビクッと震える。
『3年1組』の教室が静まり返り、クラスメイトが皆んな私を見ていた。
でも、誰も助けてはくれない…。
私は中1からずっと、麗奈にいじめられている。
もうずっと──。
「早くしてくんない?」
「で、でも…」
「舐めたらもういじめないから」
「ほ、本当!?」
私はゆっくりと、麗奈の上靴に舌先を這わせ──。
「うわぁ、マジで汚いんですけど!」
『ゴン!』と麗奈が私の頭を踏みつけた。
ぎりぎりと、足でねじられる。
「も、もういじめないって?」
「仕方ないじゃん、典子は貧乏なんだからさ」
そう、私は貧乏だった。
カーストの底辺を這いつくばるほどの、貧乏だったんだ…。
*****
築50年のボロアパート。
そこは『地獄』だった。
ドアを開けると、ちょうど母親が蹴り倒されるところで──。
「お、お母さん!?」
駆け寄ろうとした私は、すぐに酒くさい父親に捕まる。
「どこに行ってた?」
父親は働いておらず、毎日ギャンブル三昧だった。
そして酒を飲んでは、母親と私を殴りつけるんだ。
「ど、どこってバイトしかないでしょ?」
そのバイト代も、父親にいつも奪い取られる。
「生意気な口ききやがって!」
壁に思い切り突き飛ばされた。
まだ、パチンコに負けてタバコの火をおしつけられないだけマシか…。
「お前の教育がなってねーからだよ!」
鬼の形相で、何度も母親を蹴り上げる。
ようやく蹴ることに飽きたのか、父親が部屋から出て行った。
「ゔゔっ…」とうずくまっている母。
「お、お母さん…?」
震えている肩に手を乗せると『パシン!』とはたき落とされた。
「お前のせいだよ!」
いつものことなのに、私は絶句してしまう。
「お前を産んだから、あんな男に殴られるんだ!」
母親が、つばを撒き散らして怒鳴る。
「お前なんか産まなきゃ良かったよ!」
いつものように、私のことを全否定する。
私だってこんな家に、生まれたくなかった──。
*****
「裸になって」
麗奈に体育館の倉庫に呼び出されると、そこにはクラスの男子たちが待っていた。
「ストリップやんなよ」
「い、いやっ…」
「貧乏な典子に決定権はないの!」
麗奈が合図をすると、男子たちが私を押さえつける。
「動画にしたら高く売れるかなー?」
「や、やめてっ!」
抵抗も虚しく、制服をはぎ取られる。
「だっさい下着!てか、やっぱり臭くない?」
「臭い臭い」と周りがはやし立てる。
「綺麗にしてあげる」
ホースを手にした麗奈が、私めがけて放水した。
「やっ…ぐ、苦しい…!」
水責めされて床に倒れ込む私の耳元で、麗奈が囁く。
「そんなに貧乏なら、死んだほうがマシじゃない?」
*****
家に帰ると、父親が待ち構えていた。
「お前にお客さんだ」
「お客さん?」
中に入ると、母親は私と目を合わせない。
「ちょっとギャンブルで負けてな」
父親に奥に押し込まれると、知らない男がにやついている。
「──えっ?」
「あんたは売られたんだよ」
ボソリと母親が吐き捨てる。
「可哀想に、親に売られるとなはぁ」
脂ぎった男が迫ってくる。
「い、いやっ…」
逃げ出そうとしたけど、父親に突き飛ばされた。
「俺が可愛がってやるから」と男に抱き寄せられる。
「嫌っ、離して!お母さん!?」
伸ばせば手が届く距離なのに、母親は見て見ぬ振りをしている。
この瞬間、私は完全に両親に見捨てられた。
絶望に襲われて、体から力が抜ける。
「女にしてやるよ」
けれど男の手が下着の中に入ってきた時、私は悲鳴を上げて体をよじった。
男の手が緩む。
その隙をついて、部屋から飛び出す。
「この親不孝もの!」
母親が私をなじるのも構わず、裸足で走った。
「ぶっ殺してやるからな!」
父親が恫喝する声に追いかけられながら──。
*****
涙でぼやける。
行く当ても、帰るところもない。
帰ったら、本当に殺されてしまうだろう。
『お前なんか産まなきゃ良かった!』という声が耳に蘇る。
麗奈は生まれながらのセレブだ。
もし私がお金持ちの家に生まれていたら…。
あんな親じゃなければ、私はいじめらることもなかったのに──。
涙を拭うと、夜道の先に光が漏れているのが見えた。
あれは何だろう?もしかして、スマホ?
輝きを放つ光を掴むと、やはりそれはスマートフォンだ。
落とし物だろうか?
画面を確認した私は、そこに映し出された言葉に吸い込まれそうになる。
「──なにこれ?」
『あなたの親、変えませんか?』
【親ガチャ】とあり、私は吸い寄せられるようにそこを押す。
すると、画面に『ガチャガチャ』が現れた。
ここからカプセルが出るの?
それで、親を変えられる?
そんなのあり得ない。
でも、もし本当なら──私は貧乏から抜け出せるかもしれない。
良い親を引き当てることができるなら…。
私は静かに【親ガチャ】を引いた。