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十六番街メインストリート沿いにある『黄昏商会』支店。三階建ての店舗の一階は店となっており、多くの人々で賑わっていた。
三階は事務所や会議室などが集まっており、二階は倉庫として利用されていた。倉庫として利用されている区画の中に、まるで隠されているかのような部屋が存在していた。
その部屋には多数の棚が用意され、棚には無数の資料が所狭しと並べられていた。ここは『暁』情報部の対外活動拠点であり、外部で得られた情報は緊急性が高いものを除いてここに集められて整理される。
その後精査されて黄昏にある『暁』本部へ送られてシャーリィの手元へと届くのである。
その部屋には『血塗られた戦旗』との戦いに備えて陣頭指揮を執るべくラメルとマナミアが待機していた。しかし、二人の雰囲気は決して明るいものではなかった。
「どうなってやがる?襲撃から三日間で三人殺られたぞ」
椅子に座り報告書を読みながら頭を抱えるのは、ネズミ色の髪をした中年男性。『暁』情報部を率いるラメルである。
「それも、全員古参の手練れよね。接触も最小限にしてるのに、この被害はねぇ」
ため息混じりに語るのは天使族のマナミア。天使らしい露出の多い衣服を身に纏った美女である。
「『血塗られた戦旗』の防諜能力は脅威にならないって分析したばっかりなんだが、これじゃあなぁ」
「けれど、うちみたいな専門機関がないのよ?どうやって見付けたのかしら?」
「分からねぇ。だが難易度が跳ね上がったことだけは確かだな」
「誰かが動いているはずよ。もしかしたら、妹さんから警告されてる彼女かしら?」
「聖奈って小娘か。調べたが、経歴がまるで分からねぇ。いつの間にか『血塗られた戦旗』お抱えの殺し屋になってやがった。スネーク・アイの相棒みたいな立ち位置だが」
「問題は何処から情報を知られたか、ね」
実際には聖奈独特の嗅覚と言う第六感頼り。この三日間で全く無関係な人間八人が斬られた。
最も、これら八人も堅気ではなく『血塗られた戦旗』に無断で商売を行っていたので、不利益は被っていない。
「この件、主様に伝えるつもり?」
「ああ、ボスは自分の身内に手を出された方が燃える質だ。知らせた方が良いだろう」
「それと、潜入してる皆に警告しておくわ」
「こんな時アンタが居ると便利だな」
「ふふっ、誉めてもなにも出来ないわよ。それに、魔力を持たない人だと一方通行だもの。使い勝手は悪いわ」
マナミアは念話、テレパシーの類いを使えるが、魔力を持たない相手だと語り掛けることしかできない。更に、有効範囲も広いわけではなく、更に相手の負担になるので短時間のみしか使えないので、使い勝手としては今一ではある。
「ボスが関心を寄せてる電信って奴が出来ればなぁ」
「『ライデン社』に期待しましょう」
電信は近代化に欠かせないため『ライデン社』でも十年前より研究が進められ、ようやく実用化に目処が立っていた。
尚、この話を伝え聞いたシャーリィは大いに関心を寄せて多額の資金援助を行う代わりに最優先で黄昏に設置することを確約させている。
シャーリィがマナミアから念話での連絡を受けたのは、ちょうど遅めの昼食を終えて町を見て回っていた時であった。
「どうやら『血塗られた戦旗』には手練れが居るみたいですね。諜報員が何人か殺られてしまいました」
「彼らに優れた防諜能力があるとは思えませんが……いや、まさかあの娘が……?」
視察に同行していたレイミが反応する。
「以前レイミに手を出した少女でしたか?」
「はい、彼女には得体の知れないものを感じました。或いは、彼女の仕業かもしれません」
「いよいよ生かしておく理由がなくなりましたね。しかし、反撃した瞬間にこれでは……困りましたね」
新設されたばかりの情報部が早くも被害を出したのだ。それに、下手人と思われる人物は得体が知れない。シャーリィも困惑を隠せなかった。
「お姉さま、リースさんから手紙が届きました。今回の抗争では、お側に居ます。幾らでも使ってください」
「それは嬉しい知らせですが、良いのですか?『オータムリゾート』に迷惑を掛けてしまいますよ?」
「構いません。実は『オータムリゾート』も一枚岩ではなく、リースさんも身動きが取れない状態です。私を自由にするのは、せめてもの気持ちだと判断してください」
リースリットは組織内の引き締めと意思統一のために暗躍を始め、身動きが取れない代わりにレイミを派遣することでシャーリィへの義理を果たした。
「ふむ、『オータムリゾート』にも旧態依然とした人が居るのですね。では、『血塗られた戦旗』を討ち果たしてお義姉様の判断が間違いではないことを証明して見せましょう」
何となく察したシャーリィは、リースリットの心意気に感謝する。
ちなみに『暁』には今現在その様な人材は存在しない。
と言うよりシャーリィが積極的に新しい技術や概念を取り入れていくので、それに付いていけない人材は直ぐに組織を離れてしまう為である。
更に幹部連を纏めるカテリナは母親代わりでシャーリィの好きにさせているし、黄昏を取り仕切るセレスティンは元々シャーリィの執事。諫言をすることはあれど新しい試みに反対することはない。それは他の幹部も同じであり、意見の衝突は今現在発生する余地がないのである。
「聖奈については、私にお任せを。御許しを頂けるならば、十五番街へ乗り込みマナミアさん達と行動を共にしたく思います」
レイミの言葉にシャーリィは迷いを抱いた。妹の実力は承知しているが、危険な場所へ赴かせることに抵抗を覚え為である。
だが、それも一瞬の事であった。レイミでなければ対処が難しい。そう判断したのである。
「分かりました、許可します。ただし、一人では行かせませんよ」
シャーリィはレイミの側に手練れを付けることとする。
「エーリカ!」
「ここに、シャーリィお嬢様」
赤を貴重とした騎士服に身を包んだ幼馴染みが膝を付いて応える。
「現刻をもって全ての任務を放棄。抗争終了までレイミの側から離れないように」
「はい、身命を|賭《と》してレイミお嬢様を御守り致します」
「よろしく、エーリカ。私の代わりに死なれても私は喜ばないわよ?一緒に頑張ろう」
「はい!」
「それと、アスカ!」
「……ん」
近くの街灯の上に立つアスカ。
「レイミに付いていきなさい。基本的には好きにして良いけど、危なくなったら逃げるように」
「……ん、分かった」
「レイミ、エーリカとアスカを側に付けます。危険な真似だけはしないでくださいね」
「危なくなったら逃げてきますよ。もちろん、エーリカとアスカを連れてね」
シャーリィはレイミにエーリカ、アスカを付けて十五番街へ派遣する。