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レイミが十五番街へ出撃したその日の夜、黄昏の工房エリアが『血塗られた戦旗』構成員による襲撃を受けた。破壊ではなく『暁』の武器を奪うことを念頭に構成員達は銃火器を装備して傭兵らしく訓練された動きで工房へと侵入した。
だが、それをドルマン率いるドワーフ達は待ち構えていた。
「狙ってくるだろうと思っていたよ!待ちわびたぞ!」
ドルマン達も銃や刀剣を片手に応戦。ただでさえ物が溢れている工房内部は遮蔽物が多く、銃撃戦には不向きな場所であり、土地勘のあるドワーフ達は掩護射撃を受けながら遮蔽物を利用して接近。
「ふんっ!」
「どらっ!」
「こっちじゃあっ!」
侵入した構成員達に四方八方から奇襲を仕掛ける。これには経験豊富な傭兵達も動揺。
身軽になるために銃以外の武器を置いてきたこともあり、接近戦に持ち込まれると途端に不利となった。
中には銃を鈍器代わりにして応戦する猛者も居たが。
「甘いわぃ!」
「そんなへっぴり腰でワシらに敵う筈がなかろうが!」
種族的に小柄な身体からは想像も出来ない怪力を目の当たりにして銃諸とも叩き潰され。
「喧嘩を売る相手を間違えたのぉ!次からは気を付けるんじゃぞ!」
「ぐぉおおおっっ!!」
最後の一人は足場から飛び降りたドルマンが振り下ろした斧で文字通り頭を真っ二つにされて倒れる。
僅か十分足らずの戦いで侵入した構成員達は全滅。ドワーフにも数人の負傷者が出たものの、快勝と言える戦果であった。だが。
「ぬぁああああっ!?」
「どうしたんじゃ!?」
一人のドワーフが頭を抱えて叫び、皆が視線を向ける。
「何があった!?」
「ドルマン!ワシらの命が!命がぁあっ!」
「なにを……ぬぁああああっ!?」
視線を辿り、そしてドルマンもまた絶叫する。
「なんじゃなんじゃ!?ぬぁああああっ!?」
「そんなぁあああっ!!」
ドワーフ達の悲鳴は連鎖し、騒ぎを聞き駆け付けたリナ達を驚かせたが、直ぐに原因が判明。
「ああ、そう言うことね……」
駆け付けたリナ達エルフは苦笑いを禁じ得なかった。何故ならば、銃撃戦による流れ弾で割れてしまった酒のボトルを見つけてしまったからである。
「嬢ちゃんから貰った熟成果実酒がぁああっ!」
「なんと言うことじゃ!ワシらの楽しみが奪われたぞ!」
「許すまじ『血塗られた戦旗』!酒の恨みを思い知らせてやるわ!」
「おうよ!ワシらの楽しみを奪った報いを受けさせてやるわ!」
嘆き、そして怒りに燃えるドワーフ達。その騒ぎは翌朝まで続き、ドワーフ達は黄昏中心にある広場で武器を片手に気炎を上げていた。まるで今すぐにでも戦場へ赴かんとする気迫を見せ、誰もがそれを遠巻きに見ていたが。
「交通の邪魔になりますので、工房へ戻ってください。新しいお酒を運ぶように手配しておきましたから」
「「「はーい」」」
騒ぎを聞きつけてやってきたシャーリィの言葉で、あっさりと上機嫌になり解散してしまい周りの皆を苦笑いさせる結果となった。
「酒を壊されたって話だったな」
「むしろ怪我をした人が居るんですから、先に手当てをして欲しかったですね。全く」
尚、怪我をしたドワーフ数人についてはロメオが直接出向いて応急処置を施した。
「まあドルマンの旦那達が無事で良かったな?お嬢」
「独自に備えていたと聞きました。危機感を持ってくれるのは有り難いことですが、機材を破壊されるよりお酒を失うことを嘆くのは何とも……ドワーフ的ですね」
「そればっかりはなぁ。旦那達は金より酒をやった方が喜ぶんだから仕方ないさ」
ジト目のシャーリィを見てベルモンドも肩を竦める。
ドルマン達ドワーフチームは金銭による給与を控え目にして酒が報酬として支払われ、農園にはドワーフ達の好む果実酒専用の果樹園まで存在するほどである。
「それで、人的被害は分かりました。物的被害は?」
シャーリィは隣に居るリナへ視線を移す。
「工房内部での戦闘でしたので、流れ弾などにより機材に多少の損害が出ています。鋳造器具にも被害が出たようですが、生産体制に問題は無いとの事です」
「それを聞けて安心しました。生産力を直接狙ってくるとは……防備を固めなければいけませんね。工房の外壁は石材にしましょう。放火を防ぐことが出来ますから」
「では、建設計画を立てておきますね」
「お願いします。ベル、いきますよ」
「おう」
騒ぎを解決したシャーリィは、そのままベルモンドを伴い町を散策して領主の館へと戻る。
だが、攻撃はこれで終わらなかった。その日の内に黄昏にある『暁』関係施設が攻撃を受けた。
だが工房攻撃により警戒を強めていた『暁』警備隊と『血塗られた戦旗』の傭兵が真正面から激突。撃退に成功したものの、『暁』側にも損害が出た。
「重傷者を優先しろ!大丈夫だ!医薬品は山ほどある!」
黄昏病院には負傷者が次々と運び込まれたが、スタンピードの対応の経験を活かして人員の拡充と事前に重軽傷者を分けるトリアージの概念を取り入れることで対応能力を上げていたため迅速に対応を行うことが出来た。
尚、トリアージとは事前に患者を診察して程度に振り分けることで治療の優先順位を明確化するための概念であり、レイミによってもたらされた。
「破壊工作を仕掛けてくるとは思いませんでした。それに、施設ではなく此方の人員を狙っているように思えます」
シャーリィは礼拝堂でカテリナと会い、状況を整理していた。
カテリナはいつものように祭壇に腰かけてシャーリィの言葉に応える。
「『血塗られた戦旗』は傭兵集団。下手な破壊工作よりも真正面からの戦いに長けています。個々の練度も高い」
「その通りです。これまでの相手とはまた違ったタイプですね。それに、此方の諜報を潰すような人も居る」
「話は聞いています。シャーリィ、ここが貴女の試練となるでしょう。『血塗られた戦旗』は十五番街を支配していますが、それでもシェルドハーフェンでは中堅組織。これを打ち破れれば、貴女と『暁』の名はより高まるでしょう」
「勝てなければそれまで、ですか」
「その通りです。その時は貴女だけでも逃げられるようにしています」
「その用意は不要です、シスター。私は立ち止まるつもりはありませんから」
「親心を少しは理解しなさい」
あっさりと返したシャーリィにカテリナは呆れた視線を向ける。
「ともあれ、総力戦を覚悟しなければいけません。此方の人員が不足している以上、幹部の皆さんに頑張って貰うつもりです。もちろん、シスターにも頑張って貰いますよ?」
質には質で対抗すると考えているシャーリィ。それに対してカテリナは、無駄だとは思いつつも条件を付ける。
「貴女が黄昏の町に留まるなら考えてあげましょう」
「善処します」
「その言葉は聞き飽きましたよ」
無駄に終わるのだろうと思いながらも、それならば愛娘シャーリィの出番を少しでも減らすべく頑張れば良いと考え直すカテリナであった。