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三人は森の小道を進みながら、それぞれが刺客の残した言葉について考えていた。「火龍使い・咲莉那よ。我らが主の計画のため、死んでいただきます。」その言葉は頭から離れず、心に小さな影を落としていた。
火楽が先頭を歩きながら口を開く。「主様、あの言葉がただの脅しでないことは明らかです。やつらの言う『主』と計画とは、一体何を指しているのでしょうか。」
咲莉那は沈黙を守ったまま前を見据えていた。その表情には冷静さが宿っていたが、心の中では言葉を反芻し、疑問が渦巻いていた。(あの刺客たちの主人はいったい誰?なぜ私だと分かった…?)
瑛斗は後ろから二人を見つめ、そっと拳を握りしめた。(咲莉那さん…どうして彼らがあなたを狙うんだろう。『主の計画』って、あなたたちの過去に関係があるのか。それとも、俺が知らない何かが…。)彼の胸中に渦巻く感情は、不安と同時に咲莉那を守りたいという強い決意だった。
「でも…」瑛斗が口を開き、静かに言葉を紡いだ。「計画があるなら、それを止める方法もきっとあります。咲莉那さん、俺たちで一緒に答えを見つけていきましょう。」
咲莉那は一瞬だけ瑛斗に視線を向け、口元にわずかな笑みを浮かべた。「ありがとう、瑛斗。計画を止めるためにも、まずはもっと手がかりを見つけないとね。」
突然、瑛斗の耳に羽ばたきの音が聞こえた。振り向いた瞬間、一羽の白い鳩がふわりと降りてきて、彼の腕に止まる。
「この鳩確か…白華楼の伝書鳩?」咲莉那が首をかしげると、火楽が鼻をひくつかせて言った。「そのようです。主様、どうやら瑛斗に任務が届けられたようですね。」
瑛斗が鳩の足に巻きつけられた小さな筒を慎重に取り外し、中に入っている手紙を広げた。「…白華楼からの指令みたいです。近くの村で奇妙な事件が起きている。被害が広がる前に解決してほしい、と書いてあります。」
「奇妙な事件?」咲莉那が問いかけると、瑛斗は手紙を読み進めながら答えた。「村人たちが次々と殺されているようで、犯人を突き止め早急に解決してくれ。と」
火楽が腕を組みながら短く唸る。「村人たちが次々と…もしかしたら、これも刺客たちの計画に関係があるかもしれません。」
瑛斗は刀の柄を握り直し、咲莉那を見つめながら言った。「行きましょう。今はとにかくこの村を助けることが優先ですね。」
咲莉那は頷き、視線を前方に向けた。「もしかしたら、計画の手がかりが見つかるかもしれない。それに、誰かが苦しんでいるのを放っておけないから。」
伝書鳩が再び空高く飛び去るのを見送りながら、三人は村へと向かう足を速めた。その背中には新たな決意が宿っていた。
その後三人は村の入り口へとたどり着いた。
村の入口は木々の合間から現れ、どこか静まり返った雰囲気が漂っていた。家々の扉は閉じられ、道を歩く人影はほとんど見えない。咲莉那たちは慎重に村の中へ足を踏み入れた。
「なんて暗い雰囲気だ…」瑛斗が小さく呟くと、火楽が鼻をひくつかせた。「この静けさ、ただごとじゃないな。村全体が何かに怯えているような気がする。」
「行こう、まずは村長を探して話を聞くべきだね。」咲莉那が冷静に言い、先頭に立って歩き出した。
ほどなくして、三人は村の中心にある小さな集会所にたどり着いた。中に入ると、年老いた村長が何かに悩むように手を組んで座っていた。彼は三人を見ると、急に目を輝かせた。
「おお…!白華楼から助けが来てくれたのですね!」村長の声には安堵の色が滲んでいた。
瑛斗が軽く頷きながら口を開く。「はい、白華楼の指令でここに参りました。奇妙な事件が起きていると伺いましたが、詳しい状況を教えていただけますか?」
村長は深いため息をつきながら、困ったように話し始めた。「そうなんです。この数日間で、村人たちが次々と殺されているのです。ある者は家の中で、ある者は道端で…。みんな、残忍な手口で命を奪われています。」
「残忍な手口…?」瑛斗が驚いた表情を浮かべた。
「犯行の現場や目撃情報はありますか?」咲莉那が慎重に尋ねると、村長は首を横に振った。「犯人の姿を見た者はおりません。ただ、犠牲者の身体には奇妙な模様が刻まれていることが共通しています。」
「模様?」火楽が興味深そうに眉をひそめた。「その模様を見せてもらえますか?」
村長は頷き、三人を犠牲者が安置されている場所へと案内した。犠牲者の身体を確認すると奇妙な円形の模様が刻まれており、それは何かの呪術のようにも見え、不気味な雰囲気を漂わせていた。
咲莉那は模様をじっと見つめ、考え込むように呟いた。「これは…ただの落書きじゃない。術のあとだ。」
「術のあと?」瑛斗が問いかけると咲莉那は頷く。「術は、この紋様から見るに、おそらく…魂狩(たまが)りの紋(もん)だね。」
魂狩りの紋━━それは人を殺す術、殺人術の一つで殺人術の中でもっとも残虐性のある術とされおり、かけられた者は激しい苦痛により死ぬ恐ろしい術なのだ。
「この術…魂狩りの紋は犯人がかけた術と見て間違いないですか?」瑛斗が咲莉那に問いかけると咲莉那は頷きながら呟いた。「間違いなく犯人だろうね。」
瑛斗が模様をじっと見つめながら拳を握りしめた。「この術は殺人術の中で一番残虐な術…村人たちがどれほどの苦痛を味わったのか、考えるだけで胸が痛む。」
彼は静かに刀の柄に手を置き、視線を咲莉那に向けた。「だからこそ、この術を使う奴を絶対に許さない。この村でこれ以上犠牲者を出させるわけにはいかない。」
火楽が微笑むように鼻をひくつかせた。「いい覚悟だな、瑛斗。でもその怒りを無駄にしないよう、冷静に動こうな。」
咲莉那も瑛斗の決意を受け取り、静かに頷いた。「その意志を忘れずに、次の手がかりを掴もう。私たちは君を支えるよ。」
村長の話を聞いた三人は、村人たちに詳しい事情を尋ねるため、村の各所を訪ねることにした。薄暗い家々の間を通り抜けると、どの家も扉が閉ざされ、人々の気配が感じられない。不安と恐怖が村全体を包み込んでいるのが伝わってきた。
「誰も外に出ようとしない…これほどまでに怯えているなんて。」瑛斗が低く呟くと、火楽が冷静に分析するように言った。「まあ、命を狙われている状況じゃ無理もない。それでも、何人かは話してくれるはずだ。」
まず三人が向かったのは、最初の犠牲者の家だった。荒れ果てた庭には雑草が生い茂り、家の中からはすすり泣く声がかすかに聞こえてきた。瑛斗が優しく扉を叩くと、中から怯えた声が返ってきた。
「…誰ですか?」
「白華楼の者です。事件についてお話を伺いたいと思いまして。」瑛斗が落ち着いた声で答えると、中年の女性が恐る恐る扉を開けた。彼女の目には涙の跡がはっきりと残っていた。
「外から夫の叫び声がして、外に出たんです。そしたら夫が、倒れていて…駆け寄ったんですけど、もう息がなくて…」彼女が途切れ途切れに話すと、咲莉那が優しい表情で問いかけた。「旦那さんの身体に模様のようなものは、ありませんでしたか?」
女性は震える手で何かを示すように指を動かし、「ええ、ありました。…丸い形で、奇妙な記号が並んでいました。あと、烙印を押されたように赤く爛れていました。見ていると気味が悪くて…」と口にした。
火楽がその説明を受けて短く唸った。「やはり『魂狩りの紋』の特徴に一致しますね。他の情報も集めてみましょう。」
次に向かったのは村の外れにある小屋だった。そこで三人は、事件当日の夜に不審な人物を目撃したという老人と出会った。彼の証言から、犯人が森の方角へ向かう姿を見たことが明らかになる。
「森か…」瑛斗は考え込むように呟いた。「そこに何かがあるのかもしれないですね。」
「今のところ、行くべきはその森しかなさそうですね。」火楽が冷静に判断を下し、三人は視線を交わした。
「次の手がかりを探しに行こう。」咲莉那が軽く頷き、三人は森へ向かう決意を固めた。
森の中へと足を踏入れた三人は、慎重に周りを警戒しながら進んでいく。森の中は不気味で頬を撫でる風は異様に冷たい。今にもなにかが出そうな雰囲気である。
瑛斗が歩きながら話し始めた。「あのご老人の話によると、森の中にお偉いさんの屋敷があったそうで、昔は、村で一番の美人を屋敷に嫁がせていたようです。」
「嫁がせていてた?じゃあ今はないってこと?」咲莉那が問いかけると瑛斗は頷き答えた。「はい。そのようで、今は屋敷も廃墟になっているそうです。」
「瑛斗、それって何年前の話だ?」火楽が問いかけると瑛斗は答えた。「三年前だそうです。」
「三年前…けっこう最近だね。」
咲莉那は考え込みながら呟いた。
「廃墟になった原因は?」
咲莉那が尋ねると、瑛斗は少し考え込んでから答えた。「屋敷の当主が急死したことが原因のようです。その急死をきっかけに、使用人たちも屋敷を去り、誰も住む者がいなくなって廃墟になったそうです。」
「急死…死因はわかる?」咲莉那がさらに追及すると、瑛斗は首を振った。「詳しい死因は分かりません。ただ、村人たちは病が原因だと噂しているようですが、真相は不明です。」
その時、火楽が鼻をひくつかせながら、低い声で呟いた。「三年前か…妙に気になるな。魂狩りの紋と何か繋がりがありそうだ。」
咲莉那も考え込みながら口を開いた。「確かに…。屋敷の当主が急死し、屋敷が廃墟となる直前に何かがあった可能性もあるね。そして、その何かが今の事件と繋がっているとすれば…。」
火楽がふと森の奥を見つめ、少し笑みを浮かべる。「それと聞いた話じゃ、この森で夜になると、今でも誰かの声が聞こえることがあるようです。屋敷の当主の声だって噂もありますが。」
「まさか…」瑛斗が緊張した表情を浮かべた。「そんな話が本当だとしたら、廃墟には何かが残っているはずだ。」
咲莉那が決意を込めた声で言った。「次の手がかりはその屋敷だね。急ごう。」
三人は森を抜け、ついに屋敷の前へとたどり着いた。朽ち果てた屋敷は、かつての威厳を失い、崩れた壁と欠けた瓦が無残な姿をさらしている。入り口に続く石段は苔に覆われ、歩くたびに湿った感触が足元を伝わる。
「これが、村で最も尊ばれていた屋敷だなんて信じられませんね。」瑛斗が低く呟きながら目を見張った。
火楽が鼻をひくつかせながら周囲を探る。「荒れているからか、だいぶ不気味に感じますね。」
咲莉那がゆっくりと石段を登り、手をかざして屋敷を見上げた。「でもここには、何か重要な手がかりが隠されているはず。」
三人は慎重に屋敷の中へ足を踏み入れることを決意した。開かれたままの扉は、風が吹くたびに軋む音を立て、不気味な森の静寂に溶け込んでいた。