テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
150
第二十三章
獄焔喰災
敵の正体が分からないまま、私たちは周囲を探索することにしました。
しかし、見た目には何も変わったところがありません。
そこに広がっているのは、いつもの見慣れた廃退した街と砂漠化した大地。
異変らしい異変も感じられません。
「何もないわね……切ってみようかしら……」
そこで御厨くんが背負っていた大剣を使い、空間そのものを斬ってみることになりました。
すると――
確かに空間に傷が生まれました。
「!!空間が裂けた?」
ですが、生まれた傷はすぐに塞がってしまいます。
「……植物系かも、しれない……か、なり……絞れる、よ」
皇刃くんが、これまでの状況からいくつかの敵の候補を挙げてくれます。
確かに……植物系だと思います。
空間が裂けた『だけ』でしたから。
動物系なら、斬れば流血するはずです。
その中から可能性のあるものを試すため、毒薬を作って地面へ撒いてみることになりました。
すると――
ボコボコ……。
地面が音を立てながら、溶け始めました。
その反応を見た皇刃くんは、敵の正体を割り出します。
「火だ……大量の火で燃やせば、助かるよ……」
さらに、その特徴から弱点も見つけ出してくれました。
――大量の火。
「ほな、持ってきた薪を燃やすのは?」
「だ、めだ……火力が足りない……」
目を伏せ、皇刃くんは小さく首を振ります。
どうしたら良いのでしょう……。
「皇刃くん。周りにある木は使えないかしら?」
皇刃くんが答える前に、御厨くんが答えました。
「ダメね……湿ってるわ」
「湿ってる?」
「さっきから濡れてる嫌な水音がしてたの。だから気になって触ってみたら……」
私たちは八方塞がりとなってしまいました。
いつの間にか死んでいた、なんてことになったら嫌すぎます。
その時。
ずっと眠っていた神剣くんが、目を覚ましました。
「……空気が臭い」
神剣くんは、いつもに増して不機嫌な顔をしています。
ですが、神剣くんの言葉に私たちは首を傾げます。
寝ていた神剣くんが不快になって起きるほどの匂いを、誰も何も感じていないからです。
そんな中、皇刃くんはすぐに一つの可能性へとたどり着きました。
「すでに敵の胃の中だから……胃液の匂いなのかも」
神剣くんは、周囲を見回します。
どうしたのでしょうか?
そして――
次の瞬間。
ノーモーション・無詠唱で攻撃を放ちました。
そこは木っ端微塵になりました。
しかし――
神剣くんの攻撃でも、そこはすぐに塞がってしまいました。
神剣くんは少し考え、そして私に視線を向けます。
「早乙女……俺以外を結界で包め。防御壁は役に立たない」
何故でしょう。
私の防御壁は、それなりに耐久性があります。
「なんでなん? 綺の防御壁は、なかなか強いで?」
ありがとう、椥辻さん!
私の疑問を口にしてくれて。
私は不思議に思いながらも、神剣くんの言葉に従います。
すると神剣くんは、盛大なため息をつきました。
「その耐久性は、今の魔法や武器……化学においてだろ」
めんどくさそうに答えた神剣くん。
今の……?
……!!
まさか。
今から神剣くんがすることは――
みんなが心配そうに見つめる中、神剣くんは静かに祝詞を唱え始めました。
「緋き怨火よ、眠れる災を喰らいて満ちよ。骨を灼き、魂を焦がす獄炎となれ……獄焔喰災」
やっぱり古術!!
それも今度は火!!
次の瞬間。
放たれた焔が、まるで意思を持ったかのように周囲を燃やし尽くしていきます。
その炎に包まれ――
どこからか、化物の叫び声が響き渡りました。
「……綺麗な焔……」
そんなことをぼんやり考えていましたら、いつの間にか私たちの意識は遠のいていました。
目を覚ますと、私たちは學園を出てすぐの街の近くにいました。
朝に出発したはずなのに、空はすでに夕暮れへと変わっています。
半日も化物に囚われていたなんて……。
全く気づきませんでした……反省です。
今日はここでキャンプをすることになりました。
みんなが自分たちの不甲斐なさに落ち込んでいた時です。
皮を剥いだ百化狸を椥辻さんが掴み上げ、とてもいい笑顔で言いました。
「夕飯や♥️」
コメント
1件
読み終わりました。植物系かもって推理から毒薬で地面を溶かして正体を炙り出すあたり、敵の捉え方がしっかりしてて好きです。神剣くんの「俺以外を結界で包め」と無詠唱・古術で火を放つ流れはかっこよかったです。最後の意識が遠のく不思議な感覚も、読み手に残る余韻があって良かった。百化狸を「夕飯や♥️」で締める椥辻さん、頼もしいですね。