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月咲やまな
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#恋愛
十色
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「·····なるほどね」
確かにそうかもしれない。
彼女の断言に、僕は悔しくも納得しかけてしまった。
僕だって、近い将来彼女が死ぬみたいに、いつか絶対死ぬ。
それはいつくるか分からないけど、確実な未来。
もしかしたら彼女が死ぬ前に僕が死ぬことだってあるかもしれない。
流石、死を自覚している人間の言うことにはそれなりの深みがある。
隣を歩く彼女の評価が僕の中で少し上がった。
もちろん彼女にとって僕の評価なんてどうでもいいことだ。
彼女には、彼女を好きな人間がとても多いから僕なんかに構っている暇はない。
その証拠に、校門の方からサッカー部のユニフォームを着て走ってくる男子が、歩く彼女の姿を見つけて表情を明るく咲かせた。
駆け寄ってくる彼に彼女も気づいたようで、軽く手を上げる。
「頑張ってー」
「おつかれ、桜良ー」
すれ違うサッカー少年は爽やかな笑顔で颯爽と走り去っていった。
確か彼は僕のクラスメイトでもあったはずだが、僕には目もくれなかった。
「あいつー、【秘密を知ってるクラスメイト】くんを無視しやがってー。明日注意しとくね!」
「いいよ、いやむしろやめて。気にしてないから」
本当に気にしてない。
僕と彼女は、まるで正反対の種類の人間で、結果クラスメイトからの扱いが僕と彼女でまるで違うとしても、仕方のないことだ。
「もー、そんなんだから友達ができないんだよー」
「事実だけど、余計なお世話だよ」
「もーそんなんだからー」
言っている間に、僕らは校門についた。
僕の家と彼女の家は学校を挟んで反対側にあるので、彼女とはここでお別れだ。
本当に残念ながら。
「じゃあ」
「さっきの話だけどさー」
躊躇なく背を向けようとした僕を、 彼女の言葉が止めた。
彼女は、何かいたずらを思いついたような嬉しそうな顔をしていた。
僕は決して嬉しそうな顔をしていなかったと思う。
「どうしてもっていうなら【秘密を知ってるクラスメイト】くんに残り少ない私の人生の手助けさせてあげてもいいよ」
「どういう意味?」
「日曜日、空いてる?」
「あー、ごめん、可愛い彼女とデートの約束があるんだ。あの子、ほっとくとすぐヒステリックになるから大変で」
「嘘だよね?」
「嘘だったら?」
「じゃあ日曜日のお昼十一時に駅前集合ね!「共病文庫」にもちゃんとつけてくから!」
そう言いきって、僕の了承なんて最初から必要ないという調子で、彼女は手を振りながら僕の帰路とは反対側に歩いていった。
彼女の姿の向こう、夏の空はまだオレンジとピンクとほんの少しの群青の間で僕らを見下ろしている。
手は振り返さず、僕も今度こそ彼女に背を向けて家に帰る。
騒がしい笑い声がしなくなって、空の群青が占める割合が少しずつ増えてきて、僕はいつもの道を歩く。きっと、僕が見ているいつもの帰り道と彼女が見るいつもの帰り道では、その一歩一歩の見え方がまるで違うのだろうなと思う。
僕はきっとこの道を卒業するまで歩き続けるだろう。
彼女は、あと何度同じ道を歩けるのだろうか。
でもそうだ、彼女の言った通り、僕だってあと何度この道を歩けるのかは分からない。
彼女の見る道の色と、僕の見る道の色は本当なら違ってはいけないんだ。
儚い命を無理矢理揺さぶっている感覚がして、気分が悪くなった。
夕風が吹き、生きている僕の気分を紛らわしてくれる。
少しだけ、日曜日に出かけるかどうかを、前向きに考える気になった。
コメント
1件
うわ、この話…じわじわ来るね😢 「僕の見る道の色と、彼女の見る道の色は本当なら違ってはいけない」ってくだり、すごく響いた。 死を自覚してる彼女の軽さと、それに振り回される主人公の重さの対比が切なすぎる…。 日曜日、どうなるんだろ。二人で過ごす時間が、彼女の“残り”にどんな色を足すのか気になるよ。