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一雫

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一雫

1 - つづき

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15

2023年06月22日

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ガシャン、という大きな音で目が覚める。食器棚が倒れた音だろうか、はたまた窓ガラスが割れた音だろうか。どちらにせよ何か面倒臭いことが起きているのには変わらない。

まだ回りきっていない頭と布団から離れようとしない体を無理やり起こし、寝癖を大量につけたまま大広間へ向かう。

「や〜い羊!こっこまでおいで〜♪」

「く、くろんさ、にげ、にげるのは、はや…」

「え〜?羊が遅いだけじゃん。悔しかったらオレを捕まえてから文句言いなよ♪」

「なっ、なんだとぉ!?」

階段の上からそんな会話を聞く。2人はすぐに追いかけっこを再開し広い屋敷内にまた騒音を響かせる。

そろそろ来るな…。

「おい。」

氷点下以上に低い声がドタドタとうるさいはずの屋敷内を一喝した。2人は丁度背中を向けていたため姿は見えなかったが、見ずとももうお察しだろう。走るポーズをとったままその2人だけ時間が止まったようにピタリと動かなくなる。ゆっくり後ろを振り向くと、腕組みをし仁王立ちする暁さんの姿があった。

「…今、双刃さんとけむりさんが寝てるんだけど。病人が静かに休んでるの、わからない?」

シャンデリアも付いていて、外は快晴で太陽の光が入っているはずの屋敷内で暁さんだけが膨大な負のオーラで自分だけ光を遮断しておりその目や表情に一切の輝きはなかった。

いや、これは、と相棒が話そうとすると、あ?とずっしりと重い声で2人を圧迫する。

時刻は午前9時、まだ眠たい目をゴシゴシ擦りながらトムとジェリーのような3人の絵面を眺めていると後ろから肩を叩かれた。振り返ると少し機嫌の良さそうな黒さんがおはようと挨拶をしてきた。

「黒さんおはよ。珍しいね朝から機嫌がよさそうで、あの3人に混ざらないなんて。」

朝の黒さんは大体無言で話しかけても悪い時は無視される程なのだが、今日は少し調子が良さそうで安心した。

「まぁね。ココ最近面白いことばっかりだし、見てて楽しくてさぁ。」

まぁ確かに大変なことは多くあったが、黒さんからしたら愉快なものだったろう。変に機嫌が悪くなるよりマシだ。

そんなことを考えていると2人を捕まえたのか暁さんが正座をさせて説教をしていた。大広間のど真ん中で。

「あっはは!また怒られてる〜!」

死ぬほど楽しそうな黒さんと死ぬほどキレてる暁さんと死ぬほどしょんぼりしてる相棒とくろんさんを私はどういう気持ちで見ればいいのだろう。

「…いつも通りだなぁ。」

しばらくそうこうしていると、玄関扉がコンコンとノックされた。しかし聞こえたのはなぜか自分だけで、1番近くにいるはずの3人は気づいていない。またもう一度コンコンと鳴る、次は少し強めのノックだ。暁さんがようやく気づいたように怪訝そうな顔で振り返ると、私から見て右側の扉がギィっと酷く軋む音を立てながら開いた。太陽の光が大広間へ射し込み、逆光で誰が入ってきたのか分からなかった。買い物帰りのみおか、またどこかふらついてるかすみさんか。

「…あっ、お前!」

相棒が驚いたように立ち上がり玄関へ駆けつける。

「羊久しぶり〜。あれ、今大丈夫だったかな?なんか騒がしかったけど…」

少し高い声でそう発する人物は相棒と話しながら中へ入っていく。バタンと鈍い音を立てて扉が閉まるとその姿がはっきり見えた。

「さ、鮫さん!」

ここ数ヶ月見なかったせいですっかり存在を忘れていたが、扉の前に立っている人は確実に鮫さんだった。

久しぶりのメンバーに先程まで激おこだった暁さんもこれはこれは、と笑顔を見せ負のオーラはなくなっていた。

くろんさんは、怒りが納まってくれて助かったというような表情を見せながら胸をなでおろし暁さんと共に鮫さんに駆け寄る。

「いやぁ、丁度暇だったもんで遊びに来ちゃったよ。」

頭を掻きながら言う鮫さんに汚い家だけど上がってと相棒が言う。まぁ文字通り争いまくったせいで所々ボロボロなため汚くないとはお世辞にもいえなかった。

黒さんは二度寝するからと部屋にもどり私も鮫さんに駆け寄った。お邪魔しますと刀に手をかけながら入り4人で広いキッチンへ移動すると、みおが朝ごはんのハムエッグサンドを作っていた。

「ん、あっえぇ!鮫さん!?久しぶりいらっしゃ〜い。汚ねぇ家だけどゆっくりしてって!待ってね朝ごはん作るから!」

きったねぇは余計だぞと言う相棒を無視し、鮫さんも話す。

「みおさん久しぶりぃ。変わらず忙しそうだね、頑張れ〜」

「あーもうそんな事言ってくれるの鮫さんだけだよぉ…ほらそこの4人も座れ!私はあの人たちの看病してくるからね。」

忙しなく言うみおに少々圧倒されながらも、既に出来ていたハムエッグサンドを頬張りながら鮫さんを含むみんなで雑談をしていた。今までどこにいたか、何をしていたか、技の熟練度は上がったか、なぜまた戻ってきたのか。

しばらくすると相棒は大変久々に会った鮫さんと盛り上がり完全に2人の世界に入っていた。暁さんが食べ終わったお皿を片付け、温かいお茶を出してくれたので少しずつ啜りながらまた談笑をしていると、環境音でしか無かった壁に貼り付けられた大きなテレビの番組がニュースに変わり、映像を映し出した。なんだなんだと寄ってみると半径1キロから1キロ半ほどのぽっかりと穴が空いたように建物が破壊されており、家は燃え、人々は逃げ回りその名の通り地獄絵図だった。

「あ、え、これ、やばいってやつ…?」

とくろんさん。

「おぉ…これはちょっと、いやめっちゃやばいよ」

と朱華。

「やべぇよどうすんだよ暁さん!」

「知らねぇよなんで俺に聞くんだよ!」

全員が困惑し険悪なムードになり開いた口が塞がらず見ていると、先程のほんわかとした雰囲気とは逆にスッとした水のような冷ややかさをもった鮫さんが、行こう、と言い出した。その顔と一言で4人は1度落ち着き、なんとか落ち着き話し合い始めた。

場所はそれなりに近く、車で飛ばして15分少し程だったのですぐ相棒に出してもらうことになった。

「ちょちょちょ、おい、おい!」

早足で玄関から出ようとすると別室からみおが焦りながら飛び出してきた。

「あんた達、まさか戦いに行くんじゃないでしょうね!?」

「そりゃあ、そうだけど…」

さも当然かのように暁さんがいうと、切羽詰まったようにみおが声を荒らげる。

「じ、じゃあ双刃さんは、けむりさんはどうするの!逃げるにしてもけむりさんは起き上がるのがやっとだし双刃さんに至っては指すら動かせない状態だよ?そんな中怪物討伐なんてそんな……」

「みおさーん、双刃さん達の避難手伝ってやろーか?」

2階の広場が見渡せるほど高く奥が見えないほど続いた廊下から黒さんが手すりに頬づえを付き笑いながら言った。

「黒さん…!」

みおは助かったと言わんばかりの声で何度もお願いと頼む。

「そーんなお願いされなくても手伝ってるよ〜。ほらほら、そこのやつらは行っておいで、こっちの心配は大丈夫だよ〜。」

屋敷の方も何とかなりそうだと安堵していると、薄ら地響きがここまで伝わってきた。

「…やばそうだね。羊、車出して。みんなも乗り込んで行くよ!」

鮫さんがそう指揮を執ると5人で玄関を飛び出し玄関扉近くの駐車場にある数台のうちひとつの黒い車に乗り込み、シートベルトをする間もなく勢いよくアクセルが踏まれ飛び出した。

「おい鮫!詳しい場所はどこだよ?」

「んーとね…B市の中央あたりだね、ここからいつも通り入口から入って……」

鮫さんの案内で相棒がぐんぐんと車を進めていく。

しかし、町中の人が我先にと逃げ出そうと車が渋滞し所々事故が起きているところもあり、全く入口に入れず周りがクラクション音と『そこをどけ!』『邪魔だ通せ!』などと仲間割れの種がまかれていた。

…当たり前だ。だってもう、その怪物は自分たちの目と鼻の先にいるのだから。

一斉に車の外へ飛び出すと、4mほどの犬のような骨格をもったその怪物は二本足で立ち、青黒い色をし、目は光を吸い込むほど真っ暗で口からは大量の触手のようなものが生え、腕の先は鋭い鎌のような刃が突き刺さっている悪魔のような、何故かどこか見たことのある気がする見た目をしていた。

目の前にあった数台の車が宙を舞う。息をつく間もなくその突然の光景がスローモーションのように流れる。先程まで鼓膜がなくなりそうな程の勢いで騒がしかった辺り一帯が一瞬の静けさ包まる。瞬間、ガシャンと大きな音を立て車が勢いよく地面に叩きつけられペシャンコになってしまった車だったものからは大量の血が流れていた。コロコロと暁さんの足元になにかが転がってくる。よく見るとそれは目玉だった。乗ってきた車のスレスレで潰れたものから出てきたのだろうか、しかしこの目の人はもう助からないであろう事がよくみてとれた。目玉が暁さんの足元へ転がる。ひっと思わず声を出しながら1歩後退りし、もう一度怪物の方へ向き直すと一瞬気を取られている間に左手の大きな鎌を朱華の方へ振り下げていた。辺り一帯の人が頭が痛くなるほど騒ぎ立てる。

「あぁ……」

もう助からないと確信し思わず抜けた声をあげる。

なんで、何をした。自分が何をしたか今考える暇があるなら逃げられたのではないか。なんで自分は、あいつらからの呪い……。

「無辺の海…。」

鮫さんが呟くと、祭りのように騒がしかった人の声や音が一瞬にしてなくなる。いや、まるで吸い取られるように静かに消え去り落ち着きを取り戻す。

その瞬間、抜いていた刀を怪物の左腕へ向かって切る仕草をすると、透明なブーメランのような刃がどこからとも無く現れいつの間にか怪物の腕は無くなっていた。言葉に表せない声で怪物が大きく唸る。

「相棒!」

それと同時に左へ強く押し倒される。左腕に痛みを抱えながら見ると心配そうな顔をした相棒が覆いかぶさっていた。

「大丈夫か!?思わず強く押してしまって怪我させてないか…」

「いや、あーまぁ、それより離れてくれると嬉しい、かなぁ…?」

「…あっ」

ばっと勢いよくそこまで?というほど後ろに下がる。あらあらとくろんさんが笑う声が聞こえ、余計に恥ずかしくなってしまった。

「う、うるせぇ!おらお前ら早くこのでっけぇやつ倒すぞ!!」

何とか誤魔化そうと焦りながらも怪物に走り向かっていく。帽子を外しジャンプすると怪物の目の前まで飛び思いっきり拳を振り上げ、顔面に一撃入れようとする瞬間まるで残像だったかのように怪物が消え背後に回る。先程とは逆と立場になりほんの0.0なん秒の間、どうすれば助けれるか考える。しかし、今の自分では打開策が浮かばなかった。

「仕方ないなぁ羊は…」

鮫さんがそう呟くと、怪物の頭上から何かが降ってくる。その何かが着弾するとまるで銃で撃たれたように怪物の体に穴があき血が吹き出る。右肩をシュッと真上から何かがかすめる。

「いった!?」

思わず声を上げ肩を抑える。手を見ると血が左手にベッタリとついていたがその他に違和感のある液体が手にあった。よくよく地面を見ると弾丸かと思っていた物の着弾点には水が染みていた。

「なにこれ、水…?」

「朱華さんすみません!当たっちゃいましたか?お怪我は…」

急いで駆け寄り土下座しそうなほどの勢いで謝る鮫さんを見ると、水浴びをしたように汗ではなく水で服が濡れていることがわかった。

なるほど、鮫さんは水を操って攻撃できるのか…それなら…。

「くろんさん、酸性雨を!」

ん?あぁ…とぼーっとしていたらしくはっとすると空へ向かって手を挙げる。一瞬で辺りが真っ暗になり台風のような勢いで雨を降らせる。すかさず隠し持っていたペンと小さいノートを取り出し『シールド』と書き込む。途端、自分含め周りの人や仲間にくろんさんと似たバリアを貼ることが出来た。

「は、朱華さん…」

「鮫さん、あんた水の形を変えて攻撃できるんでしょ?くろんさんがこっちでほぼ無限に雨降らしてるから使って。酸性雨だから威力は高まるかも。」

「あっ、ありがとうございます!」

「はーちゃーん!とりあえずぶっ壊れた車と、そこらじゅうの瓦礫で屋根と壁作って一般人避難させといたよ。後やることは?」

鮫さんと話し、次の指示を考えていると暁さんが既にやることを終わらせていてくれた。言わずとも仕事をこなしてくれる姿勢はとても見習いたい。

「お、お前らー!遊んでねぇで早く手ぇ貸せよ!」

相棒が逃げ惑いながらこちらに大声で呼びかけると鮫さんが1歩前に出て応答する。

「羊!そのまま引きつけといて、できるだけ長く!」

えーっと怠そうな悲鳴をあげつつ風船のように軽い動きで敵を翻弄する。半覚醒した相棒に鬼ごっこで何か特殊な能力を使わず勝てるものはいないといってもいいだろう。見れば切り落としたはずの怪物の右腕が元に戻っていた。それをぶんぶんと振り回しそこら中にある車や瓦礫を破壊しながら追いかけ回している。

若干疲れてきたのか相棒も動きが鈍くなってきている様子が見える。

「羊〜、もうちょっと近くに寄せれない?」

「馬鹿言え!これでも引き付けてるほうなんだからやるなら早くしろ!」

鮫さんと相棒の距離はだいたい50mほど、何か技をだすならば全然届く距離だと思うがこれ以上に近づく必要はあるのだろうか。そう考えていると怪物の足元がぐんっと盛りあがりバランスを崩した。見ると暁さんが腕を指揮をとるように動かしていた。それに従うように地面のコンクリートがガラガラと動く。先程言っていた瓦礫と車の破片で避難させた時に触ったコンクリートのおかげだろう。相棒が暁さんの方を向き笑いながらグッと親指を立てると暁さんもそれに返す。地面がドンドン崩れ上っていくのにつられ怪物もこちらに近づいてくる。

「これぐらいあれば十分かな。朱華さん、くろんさん、カバーは任せたよ?きっと2人なら分かってくれるはずだから。」

「ほへぇ〜」

「が、頑張ります…」

何が何だかわからないまま承諾してしまい作戦を聞かなかった事に若干の後悔を感じながらくろんさんと顔を合わせ、やるぞとお互いに頷く。震える手で必死に文字を描き具現化しながら味方のカバーをしていく。チラリと後ろを振り返ると、どこか思いにふけったくろんさんがこちらに手を向けていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「カスミさんさぁ、ほんっとに馬鹿だよねぇ。いつもいがみ合っている俺にホイホイついてくるなんて。」

「……黙れ」

「なに?今更、仲直りしたいよぉ〜とか言い出すの?それはちょっと無理かなぁ。」

「黙れと言っているだろ」

「それとも、俺が双刃さんを操って殺しかけたこと怒って……」

「それ以上喋ったらお前もこの絵の中に放り込むぞ!」

「おぉ!怖い怖い!そんなカッカしないでよ〜。そんなに怒っても、今目の前で起きてる仲間割れの事実は変わらないよ?」

「おま…ヴァールさんは何がしたい?双刃さんやけむりさんを殺しかけて、みんなを争わせて。なにか俺は悪い事をしたか?」

「ん〜?別になんもしてねぇよ。ただ俺が楽しいからやってるだけ。人と人が争って、大事な人が傷ついてそれにショック受けて、どうしようもなく絶望して泣くことも怒ることも出来ない。ただ悔しい顔をしてへたり込む人の哀れな姿をみたいだけさ!」

「お前…お前だけは絶対に許さな………ッ!?」

「あっぶねぇな〜。危うく絵の中に放り込まれるところだった。咄嗟に気絶させれて良かったわ〜。さ、この素晴らしい光景を一緒に楽しもうね?カスミさん。」

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