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「……そういうの困る」
凪は顔を伏せる。千紘の提案は凪のことが好きだからということはわかっている。だからといって、無職になった男を簡単に家に住まわせるなんておかしな話だ。
「凪は1人で頑張り過ぎなんだよ。家庭事情も聞いたから思うけどさ、子供の頃から親にも甘えられずにきたんでしょ?」
「甘えるとかよくわかんないし……」
「甘え方もわかんないんだよね? もうちょっと他人に人生預けてみない? 俺なら全部受け止めてあげるから」
千紘の穏やかな声が、しっとりと凪の耳に届いた。凪にはよくわからなかった。どうして千紘が好きという気持ちだけでここまで凪の全てを受け入れようとしているのか。
自分だったら面倒事は絶対に嫌で、他人の面倒など見たくはない。可愛い女性であっても、自分のことはなんでも自分でしてくれるような自立した人を選んでいた。
千紘はそんな自分とは違って反対に甘えられることが好きなのか。けれど、樹月ほど依存されるのは辛いようだし、考えれば考えるほどわからない。
「それだけ寛容なのに、元彼のことは無理だっただろ」
「ん? 樹月? あれは頼るとか甘えじゃないよ。感情のある人間をモノ扱いしてたし、自分さえよければ他人はどうなってもかまわないって考え方がそもそも嫌いだった」
「……でも、甘やかされ過ぎたらそうなんのかも」
「……じゃあ、俺が作り出したモンスターか」
千紘は珍しく眉間に皺を寄せて、複雑そうな顔をした。その例えがあながち間違っていないような気がして、凪は思わずふっと笑ってしまう。
「やっと笑った。久しぶりに見た、笑った顔」
「んー……最近そんな余裕もなかった」
「うん。おいで。いっぱい甘えさせてあげる」
千紘が凪の髪を撫で、後頭部に触れる。先程のように千紘の胸の中へ凪の頭を抱え込むようにして誘導した。
凪は不本意にも居心地の良さを感じ、黙って頭を撫でられながら、千紘の背中に両腕を回した。
凪はとりあえず何も考えずに千紘に全てを委ねることにした。一緒に買い物に行く相手が誰なのかを知ることもできたし、千紘がまだ凪を住まわせてやると言う程くらいには好きだと認識できたし、どうやらこうやって体を重ねているのも自分だけのようだと実感もした。
それらのことが凪の集中力を高め、凪の視線の先には千紘しかいなくなった。好きだとか付き合うだとかの意味はまだ凪にはわからなかった。
けれど、確かに今の凪にとって千紘は特別な存在だった。
千紘の指が凪の肌に触れる度、凪は息を荒くさせて甘い声を上げた。いい加減シャワーを浴びさせろという凪に観念した千紘が仕方なく浴室へと誘導した。
シャワーヘッドから流れる湯が、凪の太腿を刺激した。シャワーの下で、2人は唇を重ねながら抱き合った。
「また凪と一緒にシャワー浴びれて嬉しいなぁ」
「別々がよかったのにお前が言うこと聞かなかったんだろ」
「初めて会った日のこと思い出すね」
「思い出したくねぇ……」
「初めて抱いたのもこんなシチュエーションだった」
「お前が無理やり犯したんだろ」
「エロかったなぁ……」
千紘は恍惚の表情を浮かべながら、凪の首筋に舌を這わせた。反省していると見せかけて、やはり全く反省していない様子の千紘に、凪は大きく息をついた。
今更怒っても無駄なことはわかっている。そんな出会いがあったのにもかかわらず、自ら千紘の自宅にやってきて更に誘ったのだから凪が一方的に責めることもできなかった。
思えば、あの日以来一緒に浴室に入ったことはなかった。一緒に湯船につかることなんてもちろんないし、シャワーもなかった。
それを思えば、千紘が懐かしさを感じていることも全く理解できないわけでもない。
凪が初めて千紘と出会った時のことを思い出している間にも、千紘の指は凪の弱い部分を攻めていった。
「シャワー浴びながらするのいいよね。俺、好き」
凪の体中にキスをしながら千紘は言う。
「っ……ん、…は…。暑い……」
「暑い? お湯の温度下げたけどね」
「ん……」
「じゃあ、1回シてからベッド行こう。凪のここ、もうパンパンだし」
千紘は嬉しそうに、ギチギチと苦しそうに張り詰めた凪の竿を扱く。千紘にそこを触れらることも久しぶりで、凪の快感は怖いくらいにどんどんやってきた。
客に触らせまいと回避したって、全くさせないのは中々難しく、最近も何人かには触られた。
けれど、演技でも反応させるのがやっとでそれは集中してなんとか形だけ膨張させたに過ぎない。それを思えば、千紘の触り方も手の感触も比べものにならないほどの大きな快感だった。
凪の体はブルブルと小刻みに震え、足も膝下からカクカクと力なく揺れる。
「あっ……あぁっ……んっ、いっ……く……」
「もう、イきそう?」
千紘の声掛けに、凪は大きく何度か頷いた。今回はまだ後口にも触れられていない。それなのに、こんなにも早い射精感は1人で自慰行為をしたって得られないものだった。
それを思えば、相手が千紘だからだということは明らかだ。
「っ、イっイク……!」
凪が指先に力を入れると、触っていた千紘の肩に爪が食い込む。それは千紘にとって嬉しい痛みだった。最中に凪によって付けられる傷であればいくらでもつけてほしいとすら思った。
凪が千紘に抱きつくようにして体を密着させる。お湯が2人の体を覆う中、千紘の手中に凪は欲を放った。
お湯なのか精液なのか区別がつかないほどの温度が、千紘の指に絡みついた。それでも、竿を扱くのがより滑らかになったことで、それがどちらか判断するには十分だった。
「いっぱい出た?」
「わかんなっ……」
凪は乱れた息を正そうと、千紘の肩に顔を埋めて答えた。徐々に滴る湯が千紘の指を流れていく。指の間からこぼれていく精液がなくなる頃に、凪はようやく顔を上げた。