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『気づいて』

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『気づいて』

5 - Episode 4

♥

35

2025年03月12日

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「 渉、最近どう?」

何度か会っているうちに、刹那は僕の事を渉と呼ぶようになった。刹那の言葉には、どこか親しみが感じられるけれど、それと同時に刹那は、どうしてこんなに僕の事を知っているのだろうと不思議に思う。


「何か悩んでるの?」


その言葉には、強い関心と少しの優しさが込められている。驚くほどに、心が引っかかる。どうしてそんなふうに、あっさりと見抜かれてしまうんだろう。






















気がつけば、今日もあのカフェへと足を運んでいた。

目的があったわけじゃない。ただ、なんとなく。

それに——心の奥底でどこか期待していたのかもしれない。今日もまた、あの人に会えるんじゃないか、と。


店の扉を開けると、奥の席に見覚えのある姿があった。

刹那は窓際の席に座り、何かをぼんやりと眺めている。俺の視線に気づくと、にこりと微笑んだ。


「渉、おはよう」


「……偶然だな」


本当に偶然なのかはわからない。

けれど、そんなことを考えても仕方がない。僕は自然に足を向け、刹那の向かいに座った。


それからしばらく、たわいもない話をした。

カフェの店員が新しくなっていたこと、最近の天気のこと、そして——僕が何気なくこぼした仕事の愚痴。


「渉ってさ、今の仕事どう思ってるの?」


「……まあ、嫌いじゃないけど、特別好きなわけでもない」


「そっか。でもさ、本当はやりたいこととかあるんじゃない?」


不意に、そんなことを聞かれて、言葉に詰まる。

やりたいこと。そんなもの、考えたことがあっただろうか。


「別に、特にないよ」


「ふーん、そうなんだ」


刹那はそれ以上は何も聞かなかった。ただ、何かを悟ったような目をして、カップのコーヒーを口に運ぶ。


やがて、外が少しずつ暗くなり始めた頃、僕たちは席を立った。


「じゃあ、またな」


そう言って別れようとした瞬間——



「ねえ、渉ってさ、本当の世界がどこにあるか、考えたことある?」


唐突な問いかけに、足が止まる。


「は?」


何を言っているのかわからなかった。


刹那は僕の反応を楽しむように微笑むと、軽く肩をすくめた。


「なんでもないよ」

「じゃあねー!」


そう言って、手を振りながら歩き去っていく。


本当の世界?

なんだ、それ。


胸の奥に、言葉にできない違和感が残る。

俺はそれを振り払うように、カフェとは逆方向へと歩き出した。

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