「うー…ん」
流星さんの声が聞こえた。
「おはよう。もう十二時すぎてるから、そろそろ起こそうと思ってた。シャワー浴びてきて。良かったら、お昼ご飯作るから一緒に食べよう」
「おはよう、葵。うん。食べる……。てか、葵は二日酔い大丈夫なの?」
彼がゆっくりと起き、ベッドの端に座った。
「なんか意外と大丈夫だった!」
朝起きた時は頭痛がしたけれど、今は平気だ。
流星さんをバスルームへ案内し、タオルを渡す。
「ありがとう」
夜の彼とは違って、とても眠そうだ。
流星さんがシャワーを浴びている間に簡単な昼食を作った。
「うわっ、こういうご飯、久しぶりかも」
テーブルに並べられた昼食を見て、驚いている。
「普段あんまりちゃんとしたもの食べてなさそうだから、和食にしてみたんだけど、嫌いだった?なんか、実家のご飯みたいになっちゃった。本当、メニューのセレクト、おばさんだよね」
ご飯、お味噌汁、ほうれん草のお浸し、肉じゃが、焼き鮭。
我ながら色気も何もない昼食だな。
「いや、嬉しい。お世辞じゃなくてさ。魚とか普段食べないから」
元彼以外の男性にご飯を作るのは、初めてかも。
「うまっ!これ、葵が作ったの?」
「うん。今日はね、出汁から作ったんだ」
「すげー。てか、肉じゃがとか感動するわ。外食しても、頼まないし。しかも美味い!」
おいしいと言って食べてくれる彼は、嘘はついていないと思う。
ちゃんと「おいしい」と伝えてくれるだけで、報われる。
「ご飯まだあるから、良かったらおかわりしてね」
「うん。ありがとう」
なんか、楽しい。
こんな会話、何年ぶりだろう。尊と付き合った当初みたい。
どうして思い出すんだろう。あんな人のこと。
そういえば、ここ一年くらい作ったご飯もおいしいって言ってくれなくなっていた。今から考えれば、あの頃から私に冷めていたのかな。
「葵?どうした?」
私がぼーっとしていると、心配そうな顔で流星さんは気にかけてくれた。
「ううん、何でもない」
彼はご飯もおかずも残さず、完食してくれた。
「嫌いな物なかった?」
「ないよ。本当に美味かった!ありがとう」
シャワーを浴びた後だから、彼の髪の毛はヘアメイクされていない。
昨日とはちょっと違う雰囲気だが、やっぱり容姿は整っている。カッコいい。
「片付けてくるね」
私が食器を運ぼうとすると
「手伝うよ」
流星さんが一緒にキッチンまで運んでくれた。
少しの気遣いが嬉しい。
「まだ時間大丈夫なの?」
食器を洗いながら、リビングにいる彼に話しかける。
「んー。あと一時間くらい大丈夫」
そっか、この関係もあと一時間か。
なんか、そう考えると寂しいな。
ダメダメ!相手はホストさんだし。
流星さんのすべてを信じちゃいけない。
自分に言い聞かす。
「葵、話があるんだけど?」
洗い物が終わった私を呼び、隣に座ってほしいと言われた。
「なに?」
流星さんのとなりに言われた通り座る。
改まってなんだろう。
「あのさ、信じてもらえないかもしれないけど。俺、葵のことはお客さんとは思ってないから。職業柄、信じられないかもしれないけど、俺、枕とかお客さんと絶対しないから」
んっ?枕?
「枕ってなに?」
「ああ、身体の関係を持つことだよ」
「あっ、そうなん…」
言いかけて、昨夜の自分を思い出す。かなり恥ずかしい。
「店に来いとか言わないから、連絡先交換しよう」
どうしよう。連絡先か。ふとスマホを見ると
「えっ、こんなに来てる……」
通知が何件も来ていた。
雰囲気と流れから連絡先を交換してしまったホストさん達からだ。
<昨日は、ありがとう。無事に帰れた?>
<また話したいな>
これが営業というやつか。
まじまじと画面を見ていると
「誰から?」
流星さんが私のスマホ画面を覗く。
「流星さんのお店のホストさんたちから……」
言いかけた時、流星さんが私のスマホを奪った。
「ちょっと!」
慣れた手つきで何かをしている。
「はい」
すぐにスマホを返された。
何をしたんだろう。
「あいつら全部、ブロックしておいた。んで、俺の連絡先入れといたから」
「はやっ」
「あいつらの連絡は全部営業だから。他の奴から時間差で連絡来ても、返事するなよ?」
コメント
2件
え、え、急展開?!!🫶 この2人お似合いすぎる!