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第10話:熱帯夜の楽屋、爆ぜる独占欲
「……ふぅ。……終わった。……拍手、大きすぎて。……耳が、まだ……キーンって、してる」
ユズルが耳を塞ぎながら呟くと、隣に座った多聞が、愛おしそうにその頭を撫でました。
「お疲れ様、ユズルくん。最高のステージだったよ。……君の隣、やっぱりすごく落ち着く……」
多聞の「王子様モード」と「ジメ原さんモード」が絶妙に混ざった、蕩けるような甘い声。
それを見ていた坂口桜利の額に、ピキリと青筋が浮かぶ。
「おい、多聞! いつまでベタベタしてんだテメェ! ユズルも! なんでされるがままなんだよ!」
「……坂口さん。……うるさい。……エコーかかってる。……今、多聞くんと……共鳴中、だから」
ユズルが気だるげに目を閉じると、多聞はさらにユズルの肩を抱き寄せ、勝ち誇ったような笑みを浮かべました。
「桜利くん、嫉妬? でも、今日のユニット曲、僕とユズルくんの『絆』がテーマだったからね」
「んだと……! 絆だぁ!? ユズル、次だ! 次のシングルは俺とユニット組め! ロックだ! 激しいやつだ!」
桜利がユズルの腕を強引に引っ張り、多聞から引き剥がそうとします。
ユズルは、左右から引っ張られるゴム人形のように、ゆらゆらと揺れながら溜息をつきました。
「……無理。……激しいの、疲れる。……カロリー、消費しちゃう。……僕は、静かに……寝たい」
「寝かせねぇよ! 俺の歌に合わせて、お前のあの声を響かせろっつってんだ!」
「……えー。……めんどくさい。……坂口さん、歌う時、顔……怖いし」
「怖くねぇよ! 情熱だよ!」
言い合う二人の横で、多聞の目がすっと細まり、ジメ原さん特有の「重いオーラ」が漏れ出します。
「……桜利くん、強引なのは嫌われるよ? ユズルくんは、僕の隣が一番『楽』なんだから。ね?」
「あぁ!? 楽なだけじゃ成長しねぇだろ! 俺がこいつの新しい扉をぶち開けてやんだよ!」
ユズルを挟んで火花を散らす、F/ACEの二大巨頭。
そこへ、カメラを構えたウタゲが、鼻血を拭いながらスライディングで乱入してきました。
「あああああ! 両手に花! 左右から推しに奪い合われる実の弟!! この構図、国宝!! ユズル! そのまま動かないで、アンタは今、全オタクの夢を背負ってるの!!」
「……姉さん。……これ、夢じゃなくて。……肩が、脱臼しそう。……助けて」
ユズルは力なく助けを求めますが、多聞も桜利も、一度火がついた独占欲は止まりません。
「……ねえ、ユズルくん。次は僕と、もっと『密着』するバラード、作ろう?」
「ふざけんな! 俺とシャウトだ! 腹筋ぶっ壊れるまで歌わせてやる!」
ユズルは、天井を仰いで遠い目をしました。
「……あー。……静かな、クローゼットに。……帰りたい……」
無気力な天才を巡る、F/ACE内の「センター争奪戦」ならぬ「ユズル争奪戦」。
共同生活の屋根の下、火種はさらに大きく燃え上がろうとしていました。