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「不公平だと思う」 季節は梅雨をすぎ、荒れた天気で桜が散ったかと思うと、またすぐ開花していた。
7月某日、夏休みを控えて、テスト期間を終えて学生諸君が大好きな長期休み直前。
夏とは思えない穏やかな気候に包まれた、ここ鬼道島。
紫音と登校中に彼女がぷくーと車椅子越しからこちらを睨み、頬を膨らませていた。
「なんだよ、急に」
「なんだよ、じゃない!」
一体何が気に入らないのか、皆目見当もつかない。
「とりあえず、一旦深呼吸な。はい」
「すぅーはぁー」
紫音が体内の空気を入れ替える。
「で、何故にご立腹なんですか?」
「だって、最近めぐっちとばかりつるんでるから」
「あー、そういえば」
恵さんとは4月からの付き合いだが、学級委員長補佐、生徒会と一緒に過ごす期間が増えているのはたしか。
ただ、描写されていないが、紫音との時間も大切にしていないという訳ではない。
「そこに関しては申し訳ない」
「うむ、分かればよろしい」
一言謝ったら、許してくれた。のかな?
恋人がいるのに、他の異性の子にばかりかまけていたら機嫌は悪くなるのは確か。
まぁ、独占欲が強いというか、単に軽い嫉妬だろう。
ここのところ恵さんは目立ってた訳だし。
「はぁー、良かったー」
「恵さんになびくと思ったか?」
「違うよ。僕が心配してたのはね」
「おう、なんだ?」
「僕のルートなのにRe〇riteのち〇やルートみたいに、咲〇が目立ってて咲〇ルートって言われてるみたいに、紫音ルートじゃなくて恵ルートって言われないか心配だっただけ」
「そういう話はなるべく避けような?」
「え?なんで?」
「怒られるからな」
「誰から?」
「誰かから」
「守って変なこと気にするよね?」
「むしろ気にせず、メタい発言してる紫音が俺は怖えよ」
「なんの事?」
キョトン。
ほんとに分かってないのか、とぼけているのかわからん。
「まぁ、夏休みだし、俺の実家に行く心の準備は出来てるか?」
「いっ!?そそそそりゃあ、ままままぁね……!」
露骨に顔を逸らす。
「そんなに緊張することないだろ?恋人の実家に行くくらい」
「そりゃあ、まぁ。作者の恋人いない歴=年齢でそんな経験がないから疎いだけで、その辺の描写が上手くできてないだけで?でも僕としては、多少緊張する訳で」
「そこまで肩肘張らなくてもいいだろ。おばさんも来るんだし」
最初は俺と紫音だけで、行くつもりだったが、俺の家が山の中で、介護するのが不慣れな俺たちより、紫音のお母さんが来てくれた方が、助かると言う、母さんの提案だ。
介護支援の他の酒を一緒に呑みたいのも目的だろうがな。
「さて、それじゃあ、今日の音楽の授業にまたな」
「また後でー」
学校につき、紫音を1学年の面々に任せて自分の教室へ。
夏休みが楽しみで、授業中もずっと紫音をどこへ連れ回そうか考えていた。
そんなこんなで、夏休み前夜の夜。
ピンポーン。
家のチャイムが鳴った。
俺と紫音とおばさんの3人で、そうめんをズルズルとすすっていると誰か来たようだ。
「はーい」
「あ、おばさん。俺が出ますよ」
「そう?それじゃあよろしくね」
立ち上がる朝露家の家主を静止し、玄関へ向かう。
「はーい、どちら様で……って恵さんとルミちゃん?」
「おばんやで希導」
「こんばんは。どうしたんですか?」
恵さんとルミちゃんの間にクーラーボックスがひとつ。
「明日から夏休みやろ?景気よく魚釣りに行ったら、思いのほか大漁でな。親しい相手におすそ分けに来たんや」
「はぁ、そりゃあどうも」
恵さんがクーラーボックスを開ける。
その中にはキスに、メバル。クロダイとイカイカイカ、イカである。
「どれでも好きなの持って行きぃや」
「おばさーん」
「はーい」
俺の一存で決めるより、家主に選んでもらった方がいいと判断した。
とりあえず、キスとメバルを数匹。そして大漁のイカを幾つか受けとった。
「希導は夏休み帰省やろ?ゆっくりして来ぃな」
「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げた。
「ほな、休み明けな」
そう言い去り、薄暗い闇の中へ恵さんとルミちゃんは消えていった。
「次は生徒会長やな」
「回るところ多いねぇ」
「しゃあない。うちらもそこそこ顔が広いからな」
そう会話が遠ざかるのを俺とおばさんで見送った。
そして数日後。
俺たちは島の外へ出ていた。
「あっつーい……」
「そうねぇ……」
島の外の気候に慣れていない2人は、日陰で溶けないように避難していた。
俺はそんな2人へかき氷を買ってきた。
「どうぞ」
「おお、なんだこれ!?」
「もしかして、かき氷?」
いちごのシロップに細細かく刻まれた氷の山。
2人は感激してがっつく。
「うおおお!頭がー!」
「噂に聞いてたけど、なかなか痛いわねぇ」
キーンとする頭を抑えながら氷の山を崩して口へ運んでいた。
「バカ息子ー。紫音ちゃーん。そして久しぶりね敦子あつこ」
「そうねぇ、こうして顔を合わせるのも久しぶりねぇ」
「2人は知り合い?」
「そりゃあ、そうよ。小さな島だもの。自然と顔なじみになるわ」
「へぇー」
「とりあえず、車乗って。積もる話は移動しながらにしましょ」
「「「はーい」」」
沿岸から内陸まで、車で数時間。
そしてそこから俺の実家のある山道を車で登る。
「あ!見て見て守!牛がワイン飲んでる!」
「牛とワインの名産地だからな」
仁王立ちで、ワインを飲む牛の看板を見るのも久しぶりである。
「ソフトクリーム美味しー!」
道の駅で小休止して、アイスを堪能する紫音。
「この辺活気あるね」
「この辺だけな。ここを超えると、あとは何もない。山だけだ」
車でどんどん家へ近づいていく。
「着いたー!」
車内で母とおばさんが昔話に花咲かせて、俺と紫音はそれに耳を傾けること数時間。
長い長い山道の中に俺の実家はあった。
登る途中にも家屋はいくつかあるが、村というか集落だ。
紫音を車椅子に乗せて、いざうちへ。
「母さん、スロープなんていつ用意したんだよ?」
「最近よ。紫音ちゃんのために当たり前じゃない」
まぁ、うちの玄関は段差が高いから、紫音を入れるのには助かる。
玄関で紫音を抱き、居間へ。ソファへ腰を落ち着かせて俺は廊下へ。
「守どこ行くの?」
「すぐ戻る」
「僕も連れて行って」
「……面白くないぞ?」
「いいの。なんとなく付いて行きたい」
紫音をおぶり廊下の奥の部屋へ。
その部屋には、来客用の布団座布団。
そして仏壇が鎮座していた。
「ただいま、父さん」
仏壇には腕っ節の強そうな男性。俺の父の写真が飾られていた。
その横に、線香。
火をつけて香炉へ。
チーン。
今は亡き父へ、一時帰省の挨拶を済ませた。
気がつくと横にいた紫音も俺に真似て黙祷してくれていた。
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