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しばらく休んだあと、私たちは暗闇の中を再び歩き始めた。
進んでも進んでも暗闇。
そして進む方向も、ルークの感覚頼みだ。
「……ちなみにエミリアさんは、何か感じたりしていますか?」
「そうですね……。魔力のような流れは感じますけど……。
いや、でも……魔力……なのかな……?」
エミリアさんの答えも少しあやふやだ。
何かしらの力が流れてはいるようだけど、魔力ではない。……しかし、似たようなところはある?
「……うーん? 未知の、不思議な力なんでしょうか。場所自体もそんな感じですし……」
――不思議な力。それは、結論の出ないときには便利な言葉だ。
そもそも魔力だって、魔法を使わない限りは分かり難いものだけど……。
しかしどちらにしても、感じられるのは単純な魔力ではないようだった。
「……神殿に、何かがいるんですかね?」
「そうですね。アイナさんは『光竜の魂』を求めたわけですから、それがあるとして――
何者かが、それを護っていたり?」
「むぅ……。条件がどうのこうの言っていましたし、もしかして戦うことになるんでしょうか。
『これが欲しければ我を倒してみよ』、的な感じで」
「うわー、ありそうですね。
そうしたらいつも通り、ルークさん頼りになってしまいますが……」
「――すいません、アイナ様。エミリアさん」
「うん? どうしたの?」
「その……。実は私の剣ですが、お城で没収されておりまして……」
「「え」」
……そういえば、ルークは剣を持っていない。
確かに手枷を付けられるくらいだから、剣なんて没収されていて当然なんだけど――
「その剣って、ずっと使っていた剣ですよね。……うーん、あとで返してもらいに行きましょう!」
「でも、それにはまず、ここから出ないといけませんからね。
もしこの先で戦闘になったら、その時点で武器が無いわけで……」
……しかし、一応それなりの武器は錬金術で作れるのだ。
れんきーんっ。
バチッ
いつもの音と共に、私の手にはシンプルで粗野な剣が作られた。
「――こんなのならあるけど、使える?」
「ありがとうございます。
……長さもちょうど良いですし、使わせて頂きます」
「おぉー。アイナさん、鍛冶屋にもなれるんじゃないですか?」
「いやいや、それは流石に……」
実際のところ私の作る剣は、金属の塊を剣の形にしただけのようなものだ。
日本刀の『折り返し』みたいな繊細な技術は入れ込むことは出来ないし、他にも鍛冶としての技巧は取り入れることは出来ない。
簡単な鋳造で……みたいなものなら作れるけど、それ以上のものは難しい……って感じかな?
でも、管轄外の鍛冶がそこまで出来るんだから、ひとまずは十分だよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再び暗闇の中を歩いていくと、徐々に寒気のようなものを感じてきた。
「……何だかちょっと、寒くない?」
「アイナ様、さすがです。気配の元に、ずいぶんと近付いてきましたからね」
「ああ、そっちが理由……? もう夜だろうし、てっきり気温が下がってきたのかと思ったんだけど……。
そういえば今って何時かな。――クロック!」
時計の魔法を唱えると、時間を示すウィンドウが宙に現れた。
「――18時過ぎ、かぁ。
でもここ、時間がよく分かりませんよね。遅い時間だから暗いってわけでもありませんし」
「最悪、一晩過ごすことになりそうですね。
……いえ、脱出方法が分からないから、何日もいることになるかもしれませんけど……」
「うえぇ、それはちょっと勘弁して欲しいです……。
でも、もう少しで多分神殿に着くんだよね?」
「神殿かどうかは分かりませんが、ここの主要な場所であることは間違いないでしょう」
「そっかー。ぱぱっと素材が手に入って、ぱぱっと出られれば良いんだけど――」
「――……む!? おお……!?」
引き続き話をしながら歩いていると、先を歩くルークが不意に驚きの声を発した。
「どうかしたの?」
「はい、アイナ様の位置からもう少し進むと……ちょっと進んで頂けますか?」
「え?」
不思議に思いながら、ルークの横あたりまで進んでみる。
すると――
「う、うわぁ!!?」
私の目の前に、突然巨大な神殿のような建物が姿を現した。
まさに、突然。……これは正直、心臓に良くないレベルだ。
「どうやらこの辺りまで進むと、突然見えるようですね」
「……なるほど……。それにしても、大きい建物……」
「え? え? 二人ばっかりズルいですよ!
わたしも進んで良いですか!?」
「はい、エミリアさんもどうぞ」
ルークの言葉に、エミリアさんも私の横まで歩みを進める。
「――わっ!? わわっ!!
おぉー!!」
恐らく神殿を目の当たりにしたエミリアさんは、ひたすら感嘆の声を出していた。
何だか面白いというか、可愛らしい。
「これでようやくゴールが見えてきましたね!
神殿の中も広そうですけど、このどこかには、何かがあるでしょうし」
「そうですね。神殿というからには、内装とかにもヒントがあるかもしれません。
ルーンセラフィス教に関わるものでしたら、わたしなら見れば分かりますから!」
自慢気にそう言うエミリアさん。
確かに『光』やら『竜』やらの単語が出てくるのであれば、その辺りを信仰として扱っているルーンセラフィス教は強いかもしれない。
「それじゃ、早速進んでみましょうか。
時間も時間だから、ある程度のところで一晩休むとして――」
「――いえ」
私の言葉を、ルークが遮ってきた。
「うん? ルーク、どうしたの?」
「……この神殿……少し進んだ先に、何かいるようです。
おそらく、2つ先の部屋にはもう――」
――ルークがそう言った瞬間、突然地面が細かく揺れ始めた。
「わっ!? じ、地震!?」
「えぇっ!? 珍しいですね!?」
「いや、これは……気付かれたようです」
「え……? その、中にいる……何かに……?」
「はい。……どうしますか?
さすがに入口や隣の部屋で一晩過ごすのは避けたいので……進むか、戻るかになると思います」
「うぅ……さすがにここから、何も無いところに戻るのはちょっと……。
ちなみにその何かって、友好的なのかな……?」
そこにいるのが番人のようなものであれば、おそらくは敵対的なのだろう。
すぐ戦闘になるのも目に見えてしまう。
「そうですね……。今のところ、敵意や悪意のようなものは感じませんが……」
「……それじゃ、進んでみる……?
ちゃんと帰れるのか、まずは調べておきたいし……」
どこにいるかも分からない状態で、帰れるかどうかも分からない場所。
これでは正直、いくら休んでも疲れは取れなさそうだ。
「分かりました、私は大丈夫です」
「アイナさん、わたしも大丈夫です!」
――少し進んだ先にいる『何か』。
それの正体はまだ分からないけど、ここは覚悟を決めて進んでみよう……!!