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神殿の中に入ってみると、そこには大きな部屋が広がっていた。
謁見の間の広さを体育館4つ分くらいで例えていたが、この部屋はさらにその8つ分……といったところだろうか。
そして外とは違い、何故だか明るい。
灯りが点いているわけでもなく、光が射しこんでいるわけでもない。……しかし何故だか明るい、そんな不思議な場所だった。
「うわぁ……広いですね……。
それにこの部屋、中には柱も立っていないですよ? 天井も高いですし……よく建てられましたね、こんなの」
「そうですね……。でも、この部屋には特に何も無いようです。
――あ、床に大きな紋様はありますけど」
改めて床を見てみると、確かに大きな紋様が刻まれていた。
巨大な円の中には頂点が5つの星印……いわゆる五芒星が描かれており、その周囲には文字が規則性を持って配置されている。
「……何だか、魔法陣みたいですね」
「確かに……。でもこんな魔法陣、わたしは見たことがありません……」
「うーん、一応鑑定しておきますか」
かんてーっ。
──────────────────
【汎用型魔法陣】
特定のアイテムと組み合わせて使用する魔法陣
──────────────────
鑑定ウィンドウが宙に現れると、エミリアさんは興味深そうに覗き込んできた。
「……おお、ちゃんとした魔法陣ではあるんですね!」
「そうですね。アイテムの方が無ければ、これ以上は分からない、と……。
この魔法陣以外といえば、向かいの壁に大きな入り口がある、くらいですか」
私たちが入って来た入り口は外に繋がっているだけだから置いておくと、あとは向かいの正面に別の入り口があるくらいだった。
「ねぇ、ルーク。何かがいるのって、あっちの部屋だよね?」
「はい、その通りです」
しかしその部屋は、遠目でもおかしなことがすぐに分かった。
今いる部屋は明るいのに、向こうの部屋は何故だか暗い。その部屋の入り口を境にして、まるで光を拒絶しているかのようだった。
「……めちゃくちゃ怪しいけど、部屋の中に入ってみれば何か見えるのかな……?
他には何も無いようだし、とりあえずあそこまで行ってみましょうか」
「はい」
「はーい!」
念のため周囲を確認しながら進んでみるも、特に何かがあるということも無かった。
……この部屋って、一体何のためにあるんだろう? やっぱりあの魔法陣のためなのかな……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の部屋への入り口に立つと、遠目で見た通り、入り口のところの『ある一線』を境にして暗闇が広がっていた。
――いやいや。これは物理的におかしいでしょう……。
そんなツッコミを入れつつ、そういえば物理の勉強は得意じゃなかったなぁ……などと懐かしいことを思い出す。
世界の法則が数字や計算で表現できるのは面白いとは思ったけど、肝心の計算があまり得意じゃなかったんだよね。
しかし、ある一線からすっぱりと暗闇が広がるなんていうのは……常識から考えても異常だとすぐに分かる。
「……何だか、闇の壁……みたい」
「まったくその通りですね。どれ……」
ルークは剣を手に取り、何回か暗闇の中に刺し入れた。
まるで感触を確かめるように丁寧に、そして引き抜いた剣を注意深く眺める。
そのあとは指で闇の表面を撫でてみて、しばらくすると熱湯に一瞬だけ指を入れるような感じで、目の前の闇を調べていく。
「――ふむ。特におかしなところは無いようですね。
それでは1回、中を見てきます」
そう言うとルークはひょいっと暗闇の中に入っていき、10秒ほどして戻ってきた。
「ちょちょちょ! 急に行かないでよ、心配しちゃうから!!」
「あ……申し訳ございません。
それで中の様子ですが、神殿の外と同じでした。足元だけが見える暗闇の中……そんな感じです」
「な、なるほど……無事で良かったけど……。
それで、何かいる気配はした?」
「はい、さらに強い気配を感じました。
殺気や敵意のようなものは引き続き感じませんでしたが、何が起こるか分かりませんので――」
ルークはそう言いながら、私を心配そうに見てくる。
可能であれば、次の部屋が安全であることを確認してから来て欲しい……そういうことだろう。
「うーん……。理解の及ばない場所で、離れ離れにはなりたくないんだよね……」
暗闇には嫌な記憶が結構ある。
とりあえずここで思い出したのは、神器の素材を調べるために迷い込んだ『不思議の国のアリス』のような世界だった。
あのときは何だかよく分からないまま、あっちこっち色々な場所に飛ばされ続けたんだよね。
さすがにこの神殿は、あの世界よりはまともだとは思うけど……それでもルークやエミリアさんと、離れ離れになってしまうのは怖かった。
「――分かりました、それでは慎重に進みましょう。
私が前を歩きますので、お二人はあとに付いてきてください」
「うん、それでお願い」
「支援魔法をたくさん掛けますから、ちょっと待ってくださいね!」
そう言うとエミリアさんは、魔法をいろいろと使ってくれた。
実際に攻撃を食らわないと効果は分からなさそうだけど、何だかとっても護られている感じがする。
エミリアさんが魔法を掛け終わったところで、改めて暗闇の部屋に進むことに。
大きな不安はあるけど、ここ以外に行くところも無いし――
いざ参らん! 暗闇の中へ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私たちは、暗闇の中に足を踏み入れた。
前の部屋の光は途端に見えなくなり、その代わりに私たちの足元だけがぼんやりと光っている。
ルークが言った通り、確かに神殿の外と同じ感じだ。
空を仰げば暗闇が広がっており、部屋の中なのか部屋の外なのかもいまいち分からない。
そして――
「寒……っ」
おそらくは気温的なものでは無い。
この部屋だからこそ寒い……そんな理由があるのだろう。
慎重に歩きながら、たまには立ち止まり、周囲の様子を窺う。
……とは言っても少し先は暗闇だから、実際のところは何も分からないんだけど。
しかし、それを数回繰り返したあと――
「――……ッ!? 二人とも、下がって!!」
ルークが突然大声を出して、私とエミリアさんを庇うように腕を伸ばした。
その瞬間、地面が大きく揺れ始める。
「うわっ!?」
これは、神殿に入る前の感じた揺れのような――
「――……よくぞここまで来た……。
ヴェルダクレスの王族以外が来るのは、一体いつ以来だろうか……」
大きく太く、そして厳かな声。
私が生きてきた中で、最も威厳を感じさせるような声で――
「何者だッ!!」
謎の声にすぐ反応したのはルークだった。
正体不明の相手に対してこの速さ。正直、これはかなり凄いと思う。
「――……若き剣士よ、そう声を荒げるでない……。
我は、お前たちの敵では無いのだからな……」
「敵じゃ……ない? あなたは一体……?」
声のみの存在に、私はついつい聞いてしまった。
聞いてしまったというか、小さく呟いてしまう程度にしか声は出せなかったのだが――
「……そうか、人の目ではこの闇は見通せないのだったな……。
良かろう、我が姿を見せるのも心は引けるが――」
謎の声が再び響いたあと、一際大きな衝撃がこの部屋を襲った。
次の瞬間、私たちの足元の光が広がって……ぼんやりと見える範囲が一気に広がった。
そして、私たちの目に映ったものは――
「うそ……」
「これは……」
「まさか――」
それは、巨大な竜。
高さは軽く5メートルはあるだろうか。……いや、もっとあるだろうか。
背中の翼を広げてしまえば、果たしてその大きさはどれだけになるのだろう。
そして身体は――白銀? 鉄色? 金色?
……そんな色を混ぜ合わせたような、厳かな輝きを放っていた。
しかしそれ以上に目を引いたのは、その身体に突き刺さった無数の柱。
柱というか――もしかしたら、巨大な槍のようなもので貫かれて、地面に縛り付けられているのかもしれない。
驚くべき姿、驚くべき存在に、私たちは言葉を失ってしまった――
「――……我が名はヴェセルグラード。
光竜王、ヴェセルグラード・ゼルゲイド……。
……よくぞ来た、アドラルーンの使徒よ。お前のことを、待ち侘びていたぞ――」