第4話 新たな人生
気が付くと、僕はベッドに横たわっていた。
身体は包帯で何重にも巻かれ、
痛みで身体がうまく動かない。
特に左手が焼けるように熱い。
それに左手だけ頑丈に手当てしてある。
僕は逃げたかった。
恐ろしい経験のせいで何もかも怖い。
バレないようにこの場から出ていきたかった。
だが二階のベッドからみるBarはとても賑わっていた。
皆お酒を酌み交わしている。
ある者はカードゲームをするもの。
その横で泥酔するもの。
広場では、心地良い音色を奏でる吟遊詩人。
とにかく活気に溢れていた。
一番気になったのは、皆笑顔だったこと。
プラウラーとシフと呼ばれる猫型の大型生物は、食事のこぼれものがないか、
テーブル席をぐるぐる巡っている。
とても大人しいそうで、
皆、感染動物に警戒することもなく、
騒いでいる。
左目がキーンと痛む。
思わず力んでしまった。
その瞬間、プラウラーとシフが僕に気付き、走って階段を上ってくる。
逃げようとしたとき、ベッドから転げ落ち大きな音を立てた。
二頭は駆け寄ってくる
(喰われる)
怖くて目を閉じる。
しばらくしても襲われない。
そっと目を開けると僕の目の前で座っている。
なにもしてこない。
啞然とした。
そこに1人の装備をまとった女性が近づいてくる。
(警備兵!?)
僕はとっさに床に落ちていたフォークを握りしめる
「あら、起きたのね?身体は大丈夫?
今ベッドに戻してあげるからね。そのフォークは食事用よ?」
ニッコリと女性は笑う。
僕はまだ地面を這いずりながらもフォークだけは右手で握る。
「近づくな!!!」僕は震え声で追い返す。
「混乱するのも無理ないわ。感染動物に、知らない場所に、大変な思いもしたそうね。
レミー隊長から聞いたわ」
・・・・隊長???
「あなたには何もしないわ、お話ししたいだけよ?」
「ここはどこだ??」
僕はまだ警戒をとかない。
「ここは地下の駅集落。みんなメトロと呼ぶわ。詳しいことは、ちゃんとベッドに戻ったら話すわ」
こんな身体とフォークじゃ勝てない僕は渋々彼女に身を預けた。
彼女はほっそりとしているにもかかわらず、僕のことを軽く持ち上げる。
「さてと、何から説明しようかしら」
女性はベッドの横の椅子に腰掛け、
横ではプラウラーとシフが僕を見ている。
「私の名前は、ローズ。
もうこの子達に懐かれているのね。
安心して。襲ったりしないから。」
「ほらお水でものんで」
「僕、、スクラップ持ってないので買えません」
「大丈夫よ。そんなもの求めていないわ」
そっと僕の肩を撫でて手渡してくれた。
「・・・あなたは私たちの・・ううん。やっぱり詳しい話は明日にしましょ。
今日はゆっくり休んで。大丈夫だから」
彼女は嬉しそうに言う。
プラウラーとシフは僕から離れない。
レミーがずかずかと音を立て階段を上ってきた。
「起きたか、ネロ!!さぁのめのめ!
付き合え!今日はめでたい日だ。あはは」
ラム酒片手に陽気だ。
ひどく酔っているようだ。
「ちょっ隊長なにしてるんですか。やっと起きたばっかりですよ?」
レミーが二階から叫ぶ
「今日新しくブライトが誕生した!
名前はネロ!俺たちの未来に乾杯――!!」
「うおぉぉぉ乾杯―!!」
一階の全員が僕の方を見て、酒を飲み干す。
「もー隊長、この子は何も知らないですし、彼が受け入れるかどうか・・」
ローズが呆れた感じでレミーに話す。
彼らが何の話をしているか、
僕になにを求めているか、さっぱりだ。
だが、ここの雰囲気はとても落ち着く。
暖かい。
僕の警戒心はいつの間にかなくなり、その光景を眺めていた。
ローズはレミーを無理やり一階に戻していった。
(明日聞こう)
疲労のせいで、
僕はゆっくりとまた眠りにつく。
次の日、静まり返ったBarで1人起きた。
昨日の痛みはほとんどなくなっていた。
洗面台に向かい、身体の包帯をとっていく。
!?!?
「うあああぁぁぁぁ!!!!!」
僕は叫んだ
僕の左手は、悪魔の手に変わっていた。
手の部分だけ、黄色い鱗をまとっており、
指先は鋭い爪。
神話にでてきそうな形態をしている。
僕は必死にすべての包帯を取り去る。
他は変化していなかった。
(僕はこれから感染に蝕まれていくんだ)
左手を右手で抱えながら、考える。
(でも、なぜまだ僕は生きているの?)
左目もズキズキして上手くピントが合わない。
僕は左手をまじまじと見つめ、悲しくなってきた。
(これじゃただの悪魔だ)
「ダメよ!!ネロ!!!」
急にローズが走ってきて、
僕の左手に自身の服を巻きつけ、急いで隠した。
「いい?これは絶対見せてはいけないの」
もの凄く慌てている。
「僕はどうなっちゃたんですか!?何ですかこの左手は!化け物じゃないですか!」
「目もおかしいし、僕は最終的にはモンスターになってしまうのですか!?」
混乱の中、泣きながら聞く。
「ネロ、それはね」
ローズが口を開こうとした時
「さがれローズ。俺から説明する」
レミーが真剣な顔で後ろに立っていた。
ローズは黙って去る。
「人のいない所で話そう」
レミーは僕の手を握り、食料倉庫に連れていく。
道中、僕は涙が止まらなかった。
こんな姿になってまで生きたくない。
レミーは食料倉庫に鍵をし、口を開く
「ここでお前にすべて話そう。お前の左手や目の違和感、そして今後のお前を」
僕はレミーの言葉を一言一句漏らさないようにと唾を飲む。
涙を拭きレミーの話に耳を傾ける。
食料倉庫を出るときには
まさか自分がこの身体を受け入れることになるとは夢にも思っていなかった。。。
(続)
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