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第5話 選択
レミーは、僕の目を真っ直ぐ見て話す。
「ネロ、まずお前は死なないし、化け物にもならない。
左手もこれ以上浸食することはない。
それにいきなり、こんな所に連れてきてしまって申し訳ない」
僕のことを落ち着かせようとしてくれている。
「聞きたいことは、山ほどあるのはわかっている。
だがまず俺たちのことを話させてくれ」
僕の手を優しく握ったまま続ける。
僕は静かにうなずく。
「俺はアルシャという組織の隊長をしている。
俺たちはお前の居たような
強制労働施設や最終戦争後に虐げられた人々を解放することを第一の目的としている。
そしてラビエンスに俺がいたのも偵察のためだった。
俺たちは他種族との共存を願っている。」
「僕をこんな姿にしてまで解放って呼べますか?」
僕は皮肉を込めて言う。
「ネロ、お前はブライトと呼ばれる感染生物との調和種だ。
プラウラーの体液を浴び、お前の目は浸食されるどころか順応していた」
「・・・・でも僕は生きる目的を失った。
ラビエンスには戻れない。
こんな手になってまで・・・
確かに生きたいとは言ったけど」
僕は人ではなくなってしまった感じがして、失望した。
うつむく僕を見て、レミーは目線を僕に合わすため、
地べたに座る。
「俺もブロスタでは、お前のようにスクラップ集めに駆り出され、ジャガイモを噛み締める日々だった。ただの労働者として」
「逃げてこれたの?」
僕の質問にレミーは首を横に振る
「俺は救われたからここにいる」
「俺がまだお前の年の頃に、大型の生物を引き連れる集団が現れた。
一人は黄色い左手を持つ男もいた」
「彼らはいとも簡単に、シェルター内に突入し、警備兵を打ちのめし、俺を含めた労働者を解放した。
しかし、施設の人間は内情の漏洩を危惧し、労働者を殺害していった。
そこはまるで血の海だった。
俺は怖気づき、腰が抜けてしまった」
そう話すレミーの手は震えていた。
「施設の人間は、逃げ遅れた俺を殺そうとした時、黄色い手を持つ彼が俺をかばってくれた」
「彼は俺に覆いかぶさり、何発もの銃弾の盾になってくれた。
彼は独り施設に残り、その後は知らない」
レミーはそっと眼帯を取る。
あのプラウラーの目だ。
「俺は、彼の血を浴びたことにより、調和種と混沌種の間と存在となりこの眼になった」
再び眼帯をかけなおす。
「隊員の全員はミドルと呼ばれる混沌種であり、ブロスタから解放された元労働者もいる。俺たちは彼の意志を継ぐため集まった。人々を救うために」
僕はまるで他人事のように聞き流していた。
レミーがすっと立ち上がり、僕に尋ねる。
「ラビエンスを一緒に解放しないか?
大切な人がいるんだろ?」
レミーの言葉が刺さる。
僕はハッと、カミラのことを思いだした。
母親がわりで育ててくれた恩人。
「・・・助けたいよ」
レミーが間髪を入れずに話す。
「お前の協力があれば、必ず救いだせる。
お前にはその力がある。そして俺たちも付いていく」
レミーは続けていう。
「ネロ、お前はこれからどうしたい?ここに残るのか?」
もの凄く簡単な質問だった。
僕は立ち上がり、
「ラビエンスにいく」
そう言い切った。
僕はやっと自分が生きる目的を見つけたような気がした。
少し気が楽にもなった。
さっそく用意しようと思い、
僕は食料倉庫から出ようとした。
ドンっ!!
レミーが扉を閉める。
「まだ大事な話がまだ残っている」
「お前は、地上の環境に適応した。
だが、その眼と左手の力の制御ができていない。
その能力も。
修得するまではラビエンスにはまだいけない」
自分の身体は自分が一番わかっていた。
このまま行ってもただ死に行くだけだと。
もう一度カミラに会えるなら・・・
待っていて
「わかったよ、レミー」
レミーがうなずく。
「まだ話してないことは沢山あるが、いま言っても理解できないだろう。
この先の旅の中で伝えていく。
最後にその手はアルシャ隊員以外には
絶対にみせるな」
レミーは言い切る。
「なんで?Barのみんなはブライトって聞いて、喜んでいたよ?」
僕は素朴な疑問を返す。
「メトロはアルシャが解放した場所だから、ある程度の他種族への理解はある。
だが本当の俺たちの存在を知らない。
世間では俺たちはヘレティックと呼ばれ、
感染生物と交わっただの、食べただの、崇拝者など良い噂はない。
正体も隠し、スカベンジャーとして活動する」
「分かったよ」
僕はレミーに従うことにした。
食料倉庫の外では、
ローズが不安そうな顔で待っていた。
「ネロ、大丈夫?」
僕は何かモヤモヤが晴れた気持ちで
「うん、僕頑張るよ」
そう答えた。
隊員たちが座る席にみんなで戻った。
「ネロ、改めて歓迎する」
レミーたちは僕を向かい入れてくれた。
それが単に僕の能力のためだけなのか、
正直わからない。
けど・・
みんな笑ってお酒をのみ、
笑顔の中で食べる食事は、とても美味しく
心が温まった。
これから僕は力をコントロールするために、地下の線路を歩き、
ラビエンス方面にあるハイデル地下都市の近くの廃墟へと向かう。
コントロールできた後
ラビエンスの解放に向かう予定であったが、
計画とは上手くいかないものだった。
そこで悲惨な惨状と現実をみることになるとは思わなかった。
僕が人を殺めてしまうなんて。
(続)