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91 ◇秘めていた言葉
食事を終えて店を出たふたりは少し歩こうということになり20分ほどの
道のりを歩いた。
公園に着いてしまえば自ずと話し出さなければならない話題を胸に、
心在らずな心持ちで周囲の風景を見ながらの散策になり……結局
公園に着くまでふたりの間に2週間前の話題は出なかった。
公園に着くとぱっと色鮮やかに目に入ってきたのは色とりどりの
アサガオ、ヒマワリ、サルスベリなどの花々だった。
思わず雅代は大きく息を吸い込み心を落ち着かせるため、今度は大きく
吐いた。
「雅代ちゃん、歩いてきたから疲れたろ? そのへんに座ろうか」
「うん」
ふたりが座ったのは、シンプルな木製の長椅子で足は鉄製になっており
控えめながらも装飾には曲線を取り入れるなど、多少の意匠が施された椅子
だった。
ふたりは、長椅子をいいことに互いの距離をかなりとって座った。
互いに意識していないものの、それが、この時のふたりの心の距離だったのかもしれない。
「雅代ちゃん、もしかして俺からの話……断られるのかな?」
そんなことはないだろうと、この時の哲司はまだ希望を持っていた。
ただ、話のきっかけとしてどんなふうに切り出していいのか分からず
『もしかして俺からの話……断られるのかな?』と切り出したに過ぎなかった。
一方雅代は、この時もまだどのように……どのような返事をすればいいのか
悩んでいた。
哲司と前回逢った翌日に絹から聞かされたこれまでの哲司の行状のことで
この2週間の間、雅代は苦しんできた。
それ故……
『雅代ちゃん、もしかして俺からの話……断られるのかな?』
などという哲司からの否定的な質問を聞いた瞬間、例えるならコップに今にも
零れ落ちそうにあふれんばかりに溜まっていた水が、哲司の質問という名の
揺さぶりでとうとう零れ落ちるがごとく、雅代は胸に秘めていた言葉を矢継ぎ早に言い募ることになるのだった。
――――― シナリオ風 ―――――
〇公園への道・午後
ふたりの足音が石畳を響かせる。
蝉の声。
ふたり、定食屋から歩いて20分ほどの公園までの道のりを歩く。
会話は途切れがちで、互いに景色を眺めて気を紛らわす。
(N)「公園に着くまでの道すがら、ふたりは2週間前のあの話題を一切口にで
きなかった」
〇公園・木陰の長椅子
色とりどりのアサガオやヒマワリが咲く。
風に揺れる音。
長椅子に腰掛けるふたり。
知らず知らずに距離を空けて座るふたり。
哲司「雅代ちゃん、歩いてきたから疲れただろ?
そのへんに座ろうか」
雅代「うん」
しばし沈黙。
蝉の声だけが響く。
哲司(意を決して)
「……雅代ちゃん、もしかして……俺からの話、断られるのかな?」
雅代、一瞬大きく息を呑む。
その問いが胸の奥の堰を切る切っ掛けとなる。
(N)「溢れそうに張りつめていた思いが、いま――零れ落ちる」
雅代、苦悩に満ちた表情で口を開く――。