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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「何もこんなに急に…」

「はい。本当に、申し訳ありません」


「いや…そうじゃなくて、謝るのは俺の方だ」


少し早い時間だったけど、ケンゾーはすぐに着信を繋いでくれた。


話があるから時間を作ってほしいと言うと、すぐに行くからと…銀座店の事務所で落ち合うことになった。


私はケンゾーに退職願を差し出した。


本当に申し訳ない事をした、と…ケンゾーは何度も頭を下げる。


昨日母を店に招き入れ、レストランに連れて行ったのは、完全なミスだったと言う。


「いいえ、母のことは話していませんでしたし、良かれと思っての行動だとわかっています。…だからもう、頭を上げてください」



母に居場所を知られた以上、この店で働き続ける選択肢はない。


また…来るかもしれない。

今度は介護士さんの目を盗んで1人で。


それが恐ろしくて…落ち着いて仕事ができるとは思えなかった。



「ここを辞めて、どうするつもり?」


「それは…」


「美亜ほどの腕があるなら、いいところを紹介できる。…それで少し状況が落ち着いたらまた…」


戻っておいで、と言われるのを、私は「ありがとうございます」という感謝の言葉で止めた。


「本当に急で申し訳ありません。状況が落ち着いたら、真っ先に会いたい人がいます」


「それはもしかしたら、嶽丸くん?」


「…はい。私は嶽丸を大切に思ってます」


これですべて察してくれるだろう。

しばらく私と目を合わせたケンゾーは、ふと口元に笑みを浮かべて「フラれたな」と言う。


「これからどこに行くかは…?」


「…すいません」


母が再びここに来る可能性がある以上、教えるわけにはいかなかった。


ケンゾーには、海外出店と同時に複数店舗の経営を任せるとも言われている。

求愛を断る以上、ここにいるわけにはいかないと、それは…前から考えていたことだ。


「慎吾が、辞めたばかりだというのになぁ…」


ヘアショーの直前に、和臣の代わりに戻ってきた慎吾先輩。

実はつい先週、退職したばかりだった。


2人続けて退職することに、ケンゾーは困る…というより、寂しそう。

この人は、そういうところのある人だ。


仕事には厳しいけど、どこか兄貴っぽくて、都会的なセンスをまといながら…温かい。

どこまで使い物になるかわからない私を過大評価して、これまでいろんな経験をさせてくれた。

ケンゾーが望むような関係にはなれなかったけど、私にとって、恩人であることに変わりはない。



「これまで、本当にありがとうございました…」


思わず目元が潤んだのを見られて…ケンゾーに抱き寄せられてしまう。



「…お前の幸せを願ってるけど…もし無理そうだったら、俺のところに来い。…いいな?」


言いながらため息をついたところを見ると、自分でも未練がましいと思っているのかもしれない。



「…わかりました」


私は名残惜しそうなケンゾーの腕を解き、慣れ親しんだ銀座店を後にした。






…もしも。

母に会ってしまったら。

母に会って、恐怖を感じたら。

こうしよう…って決めていたことがある。


それは…大切な人たちを、万が一にも傷つけないため、少し距離を置くということ。


私の大切な人なら消えて…と言った、母の言葉が忘れられない。

母は相変わらず、私に憎悪を向け続けているとわかった。


それは、過去に弟を交通事故に遭わせたこと以上に、父が自分の前から去ったことも私のせいだと思ってるから。


悪いのは私。

すべて私。


何もかもを私のせいにしないと、母は生きてすらいけないのかもしれない。




まさか、勤め先を知られ、嶽丸の顔を見られるとは…完全に想定外だった。


ギリギリと手の甲を引っかかれ、薄く傷跡になったのを見て思う。


こんな痛みや傷を、私の大切な人に負わせたくない。

例えそれがわずかなものでも、私は嫌だ。

母への恐怖は、私一人で背負っていけばいい。


だから私は、今朝そっと嶽丸の腕から離れた。

全部話して納得してもらおうと思わなかったわけじゃないけど…母への恐怖の方が勝った。


離れなきゃ。

嶽丸を大切に思うなら、母に傷つけられる前に、離れなきゃ。


目が覚めて…私がいないことに気づいて、嶽丸は驚いたかな。

幸いにもマンションは知られていないから、母が急に訪れる心配はない。

それでも私は、嶽丸の顔を母が見たことが不安で、一時的にマンションを離れることにした。


私の恐怖は…重い。


…私と一緒にいて、大切な人が傷つけられるんじゃないか、そんな光景を見てしまうんじゃないかという恐怖。


目の前で交通事故に遭った弟が目に浮かんで、私はメッセージ1つでマンションを出てしまったんだ。


その時の私には、嶽丸の気持ちを考える余裕もなかったんだと思う。


本当にごめん。

…嶽丸







「待ってたよ。美亜」



銀座店から持ってきた仕事道具を手に、電車を乗り継いで到着したのは、神奈川の海沿いの街。



「すいません…お世話になります」



穏やかな街で美容室をオープンさせたのは、慎吾先輩。


ここなら、母に見つかる可能性はゼロに近い。


私はここで、一時的に母から隠れるつもりだった。


私のポチくんと俺のタマ

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コメント

2

ユーザー

お母さんから逃げてもダメだと思う。 あれは事故だったんだから。 嶽丸に助けを求めたらいいんじゃないの?

ユーザー

逃げるばかりじゃどうにもならないよ(>_<。)💦 まるで犯罪者で逃走してるようなもの。 何も悪くないのに、そんな疲れる人生でどうするの! 嶽丸と一緒に解決して、新しい生活始めていかなきゃ駄目だよ。

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