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月の信託

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月の信託

11 - 第11話あなたのそういうところ、好きよ。

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2022年10月08日

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には、よくわからない。

私が知らないだけで、本当はとても簡単なことなのかしら? それとも、やっぱり難しいのかしら? 私は今までずっとそうだったから、 きっとこれからもそうなんでしょうね。

私にとってそれは、「ただそれだけのこと」だから。

だけどあなたにとっては、違うみたい。

だってあなたはとても真剣で、 いつも一生懸命に考えているんですもの。

あなたは本当に凄いわ。

あなたのそういうところ、好きよ。

だけど少しだけ心配になるわ。

あなたは頑張り屋さん過ぎるから。

もっと自分を大事にしなくちゃ駄目よ? あなたは自分のことを蔑ろにするくせがあるけど、 もう少し自分のことを考えてあげなさい。

それに、あまり考え過ぎない方がいいこともあると思うわ。

あなたは真面目で、優しくて、責任感が強い子だけど、 ちょっとお節介で世話焼きでもあるわよね。

あなたは自分が損してもいいと思ってるところがあるけれど、 その優しさに救われた人はたくさんいるはずよ。

私もその一人だし、もちろんあの人もね。

あなたが頑張っている姿を見るたびに思うの。

この子は誰に似たんだろうかって。

私はこんな風に育てたつもりはないんだけどなぁ……。

私は親失格かもしれないわね。

ごめんなさい。

でも、もし叶うなら、 いつかあなたにもわかる時が来るといいなって思っています。

私の好きな人にそっくりな、あなたのことが大好きです。

どうかいつまでも元気でいて下さい。

母より。

「あ、これお母さんからだ」

手紙を読んでいた少女は顔を上げた。その表情には驚きと困惑が浮かんでいる。

「それじゃあ……」

「えぇ。今朝からずっと考えていたんですけど、やっぱり私では無理みたいです」

「そうですか……残念ですわね」

「仕方ないですよ。元々私なんかには難しい仕事だったんです」

少女が微笑むと、相手もつられて笑った。しかしそれはどこかぎこちなく、諦めきれない様子でもある。

「ところで、お嬢様はまだこのお仕事を?」

「はい。私には他にできることなんてないので。それに、こんなことでしか恩返しができないですもの」

「……ごめんなさい」

申し訳なさそうな相手の顔を見ているうちに、少女の目からは涙が溢れ出した。ぽろぽろと落ちる雫を見て慌てた彼女はポケットに手を入れる。

「これを使ってくださいまし」

差し出されたハンカチを受け取ると、少女は笑顔を作って答えた。

「ありがとうございます。大丈夫です。いつものことなので」

「いつもって……どうして泣いてらっしゃいますの!?」

「本当に大丈夫なんですよ。だってほら──」

頬を流れるものを指先で拭うと、そこには濡れた後ひとつなかった。

****

「さっきの子、泣いてましたよねぇ。一体どうしたんでしょうね?」

「うーん……よく分からないけど、何か悲しいことでもあったんじゃないのかしら? ほら、失恋とか!」

「あぁ! それはありそうですね~。あの子すごく可愛かったから、きっと素敵な男の子だったに違いないわ。お姉さん応援してあげたいくらいよ」

「ふふっ、確かに可愛い子よね。それじゃあお友達になってあげたらどうかしら? これからも会う機会はあるでしょうし」

「はい、是非お願いしたいです。あの子の恋を応援する会を作ってもいいかも知れませんね。今度みんなに相談してみましょう」

「あら、楽しそうね。私もその仲間に入れてもらえるかしら?」

「もちろんですよ! それではまた後ほど」

少女は友人らしき女性に手を振りその場を去った。

彼女は少し早足で歩きつつ考える。

(さて、次はどこに行きましょうかね)

その表情には笑みが浮かんでいた。

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