私
には、よくわからない。
私が知らないだけで、本当はとても簡単なことなのかしら? それとも、やっぱり難しいのかしら? 私は今までずっとそうだったから、 きっとこれからもそうなんでしょうね。
私にとってそれは、「ただそれだけのこと」だから。
だけどあなたにとっては、違うみたい。
だってあなたはとても真剣で、 いつも一生懸命に考えているんですもの。
あなたは本当に凄いわ。
あなたのそういうところ、好きよ。
だけど少しだけ心配になるわ。
あなたは頑張り屋さん過ぎるから。
もっと自分を大事にしなくちゃ駄目よ? あなたは自分のことを蔑ろにするくせがあるけど、 もう少し自分のことを考えてあげなさい。
それに、あまり考え過ぎない方がいいこともあると思うわ。
あなたは真面目で、優しくて、責任感が強い子だけど、 ちょっとお節介で世話焼きでもあるわよね。
あなたは自分が損してもいいと思ってるところがあるけれど、 その優しさに救われた人はたくさんいるはずよ。
私もその一人だし、もちろんあの人もね。
あなたが頑張っている姿を見るたびに思うの。
この子は誰に似たんだろうかって。
私はこんな風に育てたつもりはないんだけどなぁ……。
私は親失格かもしれないわね。
ごめんなさい。
でも、もし叶うなら、 いつかあなたにもわかる時が来るといいなって思っています。
私の好きな人にそっくりな、あなたのことが大好きです。
どうかいつまでも元気でいて下さい。
母より。
「あ、これお母さんからだ」
手紙を読んでいた少女は顔を上げた。その表情には驚きと困惑が浮かんでいる。
「それじゃあ……」
「えぇ。今朝からずっと考えていたんですけど、やっぱり私では無理みたいです」
「そうですか……残念ですわね」
「仕方ないですよ。元々私なんかには難しい仕事だったんです」
少女が微笑むと、相手もつられて笑った。しかしそれはどこかぎこちなく、諦めきれない様子でもある。
「ところで、お嬢様はまだこのお仕事を?」
「はい。私には他にできることなんてないので。それに、こんなことでしか恩返しができないですもの」
「……ごめんなさい」
申し訳なさそうな相手の顔を見ているうちに、少女の目からは涙が溢れ出した。ぽろぽろと落ちる雫を見て慌てた彼女はポケットに手を入れる。
「これを使ってくださいまし」
差し出されたハンカチを受け取ると、少女は笑顔を作って答えた。
「ありがとうございます。大丈夫です。いつものことなので」
「いつもって……どうして泣いてらっしゃいますの!?」
「本当に大丈夫なんですよ。だってほら──」
頬を流れるものを指先で拭うと、そこには濡れた後ひとつなかった。
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「さっきの子、泣いてましたよねぇ。一体どうしたんでしょうね?」
「うーん……よく分からないけど、何か悲しいことでもあったんじゃないのかしら? ほら、失恋とか!」
「あぁ! それはありそうですね~。あの子すごく可愛かったから、きっと素敵な男の子だったに違いないわ。お姉さん応援してあげたいくらいよ」
「ふふっ、確かに可愛い子よね。それじゃあお友達になってあげたらどうかしら? これからも会う機会はあるでしょうし」
「はい、是非お願いしたいです。あの子の恋を応援する会を作ってもいいかも知れませんね。今度みんなに相談してみましょう」
「あら、楽しそうね。私もその仲間に入れてもらえるかしら?」
「もちろんですよ! それではまた後ほど」
少女は友人らしき女性に手を振りその場を去った。
彼女は少し早足で歩きつつ考える。
(さて、次はどこに行きましょうかね)
その表情には笑みが浮かんでいた。