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水白
水に彼女ができて恋心を自覚する白の話
最終的にはくっつきます
今回はくっつかない
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ずっと知らないふりをしていた
相方から送られる愛おしいものを見るような視線も、友愛じゃ収まりきらない愛も、自分の気持ちにも
蓋をして、怖くて逃げていたんだ
だから、バチが当たったんだと思う
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「「「「「彼女ができたぁ!?」」」」」
都内事務所
珍しくメンバー6人全員が仕事やら収録やらで来ていたため、本来夜に通話で行う予定だったミーティング(という名の雑談会)を社長室で開催していたときのこと。
最初は配信内容やら歌ってみたやら真面目に活動の話をしていたものの、いつの間にか世間話に花を咲かせているのなんて何時ものことである。
美味しかったお店、上司の愚痴、買った服、リスナーさんから届いたDM
そんなあり溢れた話をするように彼は言った。
「そういえば、彼女できたんだよね」
そう、一言。
勿体ぶることも、照れることも、言いづらそうな様子もなく平然と、まるで、毎日繰り広げられる会話のような流れで。
騒がしかった部屋に時が止まったかのような静寂が訪れた。
最初に息を漏らしたのは誰だっただろう。
そして冒頭に戻る。
その後はもう蜂の巣をつついたような騒ぎだ。たった6人しかいない部屋がである。
「えっ!?あのほとけに!?どんな人!?なんで今まで言ってくれなかったの!?どこで会ったの!?」
1人は興味津々なようで質問責めにして
「え、彼女?まさかリスナーじゃないよね、流石にね。表には出さないの?バレたら炎上だろ、喜ばしくて幸せなことだけどさ」
1人はこれから起こりうる厄介事に頭を抱え
「ないないないない、あほとけに彼女?ないだろ、なんで俺にできないのにアイツにできるん」
1人はライバルとの差と現実から目を背け
「ほとけ、、、ついにイマジナリー彼女が、、、そんなになるまで悩んでたってなんで気付いてやれんかったんや、、!!」
1人は彼の気が狂ったと思い後悔に苛まれていた
このカオス空間を引き起こした張本人は膨れっ面をして失礼だ!事実だ!と喚いている
何故か僕は喉が張り付いたように声が出せなかった
脳が鈍器で殴られたみたいにズキズキする
何も言わず呆然としている僕に気付いたのかいむくんは心配するように僕の顔を覗き込んだ。
「しょーちゃん?びっくりさせちゃった?」
ハッとして言うべき言葉を考える。
僕はここでなんで、どうして、そんなこと言うべきじゃない。
妬む役割はライバルのまろちゃんの役目。
親友の僕は笑ってお祝いしてあげないと。
「あはは、ちょっとびっくりしてもうた、、」
「ほんと?ドッキリ大成功だねw」
いたずらっ子のように細められる瞳の奥にある感情を僕は読めなかった。
いつもなら手に取るように分かるいむくんの気持ちが遠くにあるように感じて、何も分からない。
「うん、、ほんま、、、ほんまに、びっくりしたわぁ、、、」
いむくんの隣に僕以外が立つなんて考えたこともなかったから。
気ままな彼はよく色んな人のところをフラフラしていたけど、必ず僕の横に帰ってきた。
少なからず特別な感情も持たれていたと自負していた。
だって彼から送られる視線は明らかに他と違ったし熱を含んでいた。
それを、見て見ぬふりしていたのも、僕だけど。
逃げるは恥だが役に立つなんてドラマがあったな、なんて思い出す。
だけど逃げて逃げて逃げ続けた結果、彼はどこかに行ってしまったのだろう。
…何の役にも立っていないな
「好きな人がいたなら、言ってくれればよかったんに」
戸惑う気持ちを悟られないよう、頬を膨らませ拗ねてみせる。
そうすれば彼は困ったように笑って謝るんだろう。
「えへへ、、ごめんね」
いむくんがこういう反応をする時は踏み込んで欲しくない時だ。
これ以上聞くなと言う彼なりの拒絶。
だから僕も踏み込まない
そんなときはいつも笑って、
「仕方ないなぁ、許したるわ」
そう言うんだ。
結局いむくんの彼女についてそこまで素性は分からなかった。
どこで出会って、何度話をして、どんな見た目で、何をしていて、どこが好きなのか。
分かったのは、リスナーじゃないという事実のみ。
仕事人間のリーダーはその情報だけでだいぶ安心して満足していたが。
雑談会はそのままお開きになり、ないちゃんは残って仕事、まろちゃんは収録、アニキはジムに向かったので子供組3人で帰路に着く。
「それにしてもほとけ、しょーちゃんにもなんも相談してなかったんだね」
無邪気な最年少の疑問が心を刺す
「ほんまになぁ、僕はいむくんに何も隠さず話してきたのに、、、しくしく、、、」
大袈裟に涙を流す演技をしてみせると、いむくんは焦って弁解する
と、言っても彼は何も悪くないし、特に理由もないから「うぅ、、ごめん、、」なんて項垂れるだけだが。
もう僕の話はいいでしょ!なんて必死に話題を逸らすいむくんと、しばらくは話題だよーなんてケラケラ笑い飛ばすりうちゃんを横目に考える。
どうして僕は純粋に喜べなかったんだろう。
誰よりも大切な相方に愛する人ができたなんて喜ばしいことじゃないか。
いむくんが幸せなら僕も幸せだ。
なのに、彼女ができたと告げられたとき、息が出来なくなるような気さえした。
頭が真っ白なのに目の前は真っ暗。
貧血を起こしたように頭がクラクラした。
喉が張り付いて声が出なかった。
何故か苦しいほどに胸が痛かった。
あの時は生きた心地がしなかった。
生きる意味を奪われたような、そんな気持ちだったと今になると思う。
確かに僕の人生においていむくんは一等大切で無くてはならない存在だ。
いむくんの親友という立場を奪われたのなら、生きる意味を奪われたと言うこともできなくはない。
でも今回は違う。
いむくんにできたのは新しい親友でも、僕の立場を奪う人でもない。
今まで誰も立ったことのなかった彼女という立場。
じゃあ彼女ってどんな立場だ?
誰よりも大切で、ハグもキスもその先もできてしまうような恋愛的に好意を寄せる存在。
そこではたと思い出す。
いむくんは随分熱っぽい視線を僕に向けていたはずだ。
明らかに親友じゃ収まらない感情を向けていたはず。
そうか、それを奪われてしまったのか。
そしてもう1つ気付いたことがある。
僕はいむくんのことが恋愛的に好きらしい。
自分の恋心を自覚した瞬間に失恋とはとんだ災難である。
可哀想な僕、なんて思いつつもいむくんには申し訳ないことをしていたなぁなんて他人事のように考える。
彼は今までどんな気持ちで僕の隣に立っていたのだろう。
今思えば思わせぶりな態度を取っていたかもしれない、なんせ僕ら2人は格段に仲が良かった。
僕がこの気持ちに向き合ったら、今まで通りいられるだろうか。
彼はもう僕を熱っぽい視線で見ることも無く、他の人と幸せになるんだ。
最後の悪あがきのように、意地悪してやろうと思った。
服の袖をくいと引っ張り、悲しそうな顔をしてみせる。
「しょーちゃん、?」
「いむくん、僕はまだ、いむくんの中の1番でいられる?」
あざとく揶揄うつもりが、自分の口から出たのは弱々しい本音。
驚いたように目を見開いたいむくんは、弾けるような笑顔で言った。
「もちろん!何があっても、僕はしょーちゃんが1番だよ!」
「1番って、彼女ができたのにしょうちゃんばっか優先してたら捨てられるよ」
「えー、でも彼女よりしょーちゃんのほうが大事だよ」
「それ、絶対彼女の前で言わないようにね」
「はぁ〜、いむくんも罪な男やなぁ。彼女さんも可哀想に」
その瞳は嘘をついているようには思えなかった。
きっと心からの言葉なのだろう。
それが余計に僕を諦めさせてくれなかった。
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飽きた
気が向いたら進みます