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アイドル、マネージャー
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人気アイドルグループ〈LUCENT〉のセンター、結城 晴翔は、ステージの上では完璧だった。
笑顔、歌声、ファンへの言葉。
すべて計算され尽くし、それでいて自然に見える。
「次の現場、五分押してる。水飲んで」
楽屋でそう声をかけるのは、マネージャーの相沢 恒一。
三十二歳。冷静で、感情を表に出さない男だ。
「ありがと、相沢さん」
晴翔はペットボトルを受け取り、少しだけ肩の力を抜いた。
——この人の前では、無理に“アイドル”でいなくていい。
それが、いつからか当たり前になっていた。
⸻
相沢は、晴翔がデビュー前から担当している。
売れない時代も、炎上しかけた夜も、
ファンに見せられない弱音も、すべて知っていた。
「……辞めたいって、言わなくなったな」
車内でふと漏らすと、晴翔は窓の外を見たまま笑う。
「相沢さんがいるから」
軽い冗談のようで、
でも相沢は、その言葉を否定できなかった。
⸻
ある日、晴翔は体調を崩した。
ステージ直前、楽屋でうずくまる彼に、
相沢は迷わず言う。
「今日は出ない」
「……え?」
「代役は立てる。君の代わりはいない」
晴翔は唇を噛んだ。
「アイドル失格だよ、それ」
「人としては合格だ」
その一言に、晴翔の目が揺れた。
⸻
その夜、控室に二人きり。
「ねえ、相沢さん」
「何だ」
「もし俺が、アイドルじゃなくなったらさ」
少し間を置いて、続ける。
「……そばにいてくれる?」
相沢は答えなかった。
答えられなかった。
マネージャーとして、それは越えてはいけない線だったから。
「君は、ステージに立つ人間だ」
それが精一杯だった。
晴翔は苦笑する。
「知ってる。
でも……それ以外の俺を見てるの、相沢さんだけだよ」
⸻
それから少しずつ、距離は変わっていった。
触れない。
言葉にも出さない。
それでも、
スポットライトの外側で、
二人は互いの存在を支え合っていた。
アイドルとマネージャー。
守る側と、守られる側。
その関係がいつか終わる日が来ても、
きっと忘れない。
ステージの光よりも、
静かで、確かな時間を。
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