「ちょっと、スッキリついでに肉食おうか! 牛いこうよ牛! あっ、ジビエも良くない? 蝦夷鹿だって」
「美味しそう! お肉に貴賤なし! なんでも美味しくいただく!」
両手でドンドンとテーブルを叩く真似をすると、恵が爆笑した。
「肉の申し子だよ~!」
笑い合った時、テーブルの上に置いてあったスマホが通知を知らせる。
「あっ、ちょいごめん」
恵に断って手帳型ケースを開くと、尊さんから連絡が入ったところだった。
「誰?」
恵に何気なく尋ねられ、私は曖昧に微笑む。
「尊さん」
「ふーん……。……呼べば?」
「えっ?」
あっけらかんと言われ、私はうわずった声を上げる。
「肝心の朱里とは話がついたし、今さら篠宮さんとどう話そうが、別に気まずくも何ともないわ。むしろもうコソコソしなくていいんだと思うと、一気に楽になった」
「あはは! さすが恵だな。引きずらないところ、好きだわ」
思わず笑うと、恵は「でしょ」と言ってニヤッと笑った。
尊さんからのメッセージはこうだった。
【大丈夫か?】
たったそれだけだけど、彼が心配してくれているのが分かる。
彼も私の知らないところで恵と繋がっていた事に、後ろめたさを抱いているんだろう。
(やっぱり当事者の三人で顔を合わせて、ちゃんと話したほうがいいんだろうな)
そう思った私は、彼にメッセージを打った。
【大丈夫です。でも、一回三人で話しませんか?】
送信したあと、すぐに返事がきた。
【そうする。どこの店にいる?】
【ここです。会社から歩いてすぐですよ。席空けておきますね】
私はお店の公式サイトをブラウザで開くと、URLを送る。
【まだ会社にいるから、すぐ行く】
私は彼の返事を見たあと、微笑んで『待ってます!』のスタンプを送った。
「すぐ来るって」
「そっか」
恵はジェノベーゼを私の取り皿に盛ってくれていた。
「ありがと」
「まあ、篠宮さんに奢らせるけどね」
恵がケロッとして言うので、思わず笑ってしまう。
「おぬしも悪よのぉ~」
「今まで篠宮さんには色々奢ってもらったわ~。向こうにも罪悪感があるって分かってるから、こっちも遠慮なく食べたし」
悪びれもなく言う恵は、もうさっきの事を引きずっていないみたいで安心した。
「篠宮さんとは、どういうデートしてるの?」
「んー、そういえば、まだデートらしいデートはしてないかな。十二月頭からの今で、バタバタしてて……。食事に行ったりホテルにお泊まりはしてたけど、遊園地とか水族館とかは行ってないし、東京から出てないかも」
「駄目でしょそれ~。何やってんだあいつ」
恵は渋面になり、「篠宮~、アウト~」とテレビ番組の物真似をする。
「あはは!」
恵は笑った私を見て微笑んだあと、テーブルに両肘をつけて少し前屈みになる。
「あの激重感情の篠宮さんが、朱里を雑に扱うなんてないと思うけど、何かちょっとでも悲しい事があったら私に言いなよ? 『悪い』とか思わなくていいから、親友として相談に乗らせて。朱里が知らない時期の篠宮さんと会っていた分、彼について何か言えるかもしれないし」
「うん、ありがとう」
そのあと、私たちはデートに良さそうな場所について話した。
二人で魅力的だと思うスポットや、行ってみたい温泉、観光地、都道府県などについて話すと、楽しくなって尊さんが来たのにも気づかないほどだった。
「お疲れ」
二人でスマホを覗き込んでキャッキャしていた時、上から声が降ってくる。
「あっ、尊さん。こっちにどうぞ」
私は自分の席の隣を示す。
彼が来ると分かった時点で、荷物はすでに除けてあった。
「サンキュ」
「篠宮さん、ドリンクメニューどうぞ」
恵に「部長」ではなく「篠宮さん」と呼ばれ、彼はメニューを受け取りつつ軽く瞠目する。
「……そっか。そういう感じか」
そして、納得がいったように小さく笑った。
コメント
3件
確かに尊さんは「激重感情」だね~😂w お家騒動も少し落ち着いたし、きっとこれからは溺愛モードまっしぐらだね....💑💕
篠宮〜アウトーっ!恵ちゃん尊さんにそれ思いっきり言ってやって!そして奢ってもらおう😋
🤭激重感情の尊さんね。(笑)確かに❣️モンスター級かも?🤭