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それから。
こさめは寿命を渡さなくなった。
端末も鞄の奥へ押し込んだ。
すちと約束したから。
“もう一人で決めない”
その言葉を、
ちゃんと守ろうと思った。
最初の数日は、
穏やかだった。
すちはよく笑った。
二人で水族館の話をしたり、
退院したら食べたいものを言い合ったり。
🍵「こさめちゃん絶対はしゃぐでしょ」
🦈「はしゃぐ!」
🍵「知ってた」
そんな時間が、
ずっと続けばいいのにと思った。
でも。
現実は優しくなかった。
徐々に。
本当に少しずつ。
すちの体調はまた崩れていった。
咳が増える。
眠る時間が長くなる。
歩けていた距離が短くなる。
そしてある日。
🍵「……っ、ごほ……!」
ひどく咳き込みながら、
すちはその場にしゃがみ込んだ。
病室の床へ、
赤い血が落ちる。
🦈「すち!?」
こさめの頭が真っ白になる。
看護師を呼ぶ声も、
自分のものじゃないみたいだった。
処置が終わる頃には、
もう夜になっていた。
すちは眠っている。
酸素マスク越しの呼吸は苦しそうで、
見ているだけで胸が痛い。
こさめはベッド横で、
ただ俯いていた。
約束した。
もう渡さないって。
でも。
このままじゃ。
🦈「……っ」
震える。
怖い。
失うのが。
🦈「……やだよ」
小さく零れる。
こさめはゆっくり顔を上げた。
眠るすちは、
ひどく弱って見えた。
前より痩せて、
呼吸も浅い。
今にも消えてしまいそうで。
その瞬間。
鞄の奥にしまったはずの端末を、
こさめは取り出していた。
🦈「……約束したのに」
涙が落ちる。
でも手は止まらない。
🦈「でも、こさめ」
掠れた声で呟く。
🦈「すちいなくなる方が、やだ……」
端末の画面が光る。
警告表示。
記憶障害リスク上昇。
こさめは涙で滲む画面を見つめた。
最近、
忘れることが増えた。
昔のこと。
細かい約束。
昨日食べたもの。
時々、
自分が何を話してたかも飛ぶ。
怖い。
本当はすごく怖い。
それでも。
🦈「……ごめんね」
眠るすちの手を握る。
🦈「こさめ、たぶん止まれない」
その声は、
壊れそうなくらい弱かった。