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🖤「はっ?宇宙人?」
❤️「言葉、ワカリマスカ」
相手は聞いたところ、日本語を話している。流暢に話せるのに逆にわざとカタコトのように喋っているのかと思うほどだ。俺は冷静に答えた。
🖤「普通に話してください」
❤️「あっ。通じてます?オーケーオーケー」
🖤「ていうか、ずっと日本語ですよね」
相手の男の口調は、急にフランクなものへと変わった。
❤️「そちらへ伺います。ちょっと待っていてください」
がちゃん。
電話は一方的に切れた。俺は仕方なく受話器を置き、康二に事情を話した。
🧡「意味わからんな」
🖤「本当に。あ、ここ事務所じゃね?」
俺たちは、受話器のすぐ脇にドアを見つけた。中に人影はなく、佇まいはひっそりとしている。そして、ドアノブにはピンク色のスライムがべっとりと付着し、トンネルの中の空気に小刻みに震えていた。
上がって来た階段の先は、見たところこの事務所と、車両が並ぶ通路へしか繋がっていないようだ。車両方面の階段へはまたおびただしいほどのピンクスライムがふるふる震えていて、踏んで進まないと行かれないようになっている。
仕方なしにハンカチを取り出し、うへぇ、気持ち悪いと言いながら、ドアノブを回そうとしたら、内側から勢いよく開いたそのドアにしこたま額をぶつけた。
ぐちゃ。
ドアの上部に付いていたスライムが、おでこに容赦なくくっついて気持ち悪い。痛みと不快感で思わず顔を顰めた。
❤️「今行くと言ったのに」
中から出て来たのは、先ほどの声の主らしかった。身長は俺より低いが、雰囲気がやたらエレガントで高級そうなスーツを身につけている。手には絹の手袋を嵌め、黒光りするステッキを持っていて、まるで童話か何かから登場する英国紳士のような男だ。顔は紛れもなく日本人だったけれど。
🧡「どちらさん?」
❤️「ワレワレハ」
🖤「それはもういいから」
額についた、不快なピンクのドロドロを何とか取り切り、地面に投げ捨てる。捨てた途端、それは床の上で「プギャ!!」と悲鳴を上げた。はっきり言って気持ち悪いしかない。
❤️「宇宙人なんですよ、私。あ、今はあなたたちの方が宇宙人ですがね」
含みを持たせて不敵に笑うその男は、自分をリョウタ・ミヤダテだと名乗った。見た感じ地球人と何にも変わらないし、外国人でもない。おそらく日本人によく似た人種だろう。火星には様々な国籍の人間が住んでいるが、黒髪に肌の色からしても、俺たち日本人と同胞にしか見えなかった。
🧡「どういうことやねん」
❤️「お茶でも淹れましょう。あなたたちに、たってのお願いがあるんです」
ミヤダテは、そう言って、恭しく頭を下げると、事務所の中へと俺たちを招き入れた。不思議なことに、ミヤダテがステッキを振るうと、件のピンクスライムはサササッと場所を空けた。おかげで俺たちは不快なスライムを踏むことなく、中へと入ることができた。
🖤「なんなんですか、あの、気持ち悪いの」
❤️「ああ。ピクドンですか。俺のペットです。だから乱暴に扱わないでいただきたい」
🧡「ペット?めちゃくちゃたくさんあったで」
❤️「彼らはアメーバ状の集合体。一つにもなれるし、分かれることもできますが、意識は一つです。人によく懐く、可愛いやつですよ」
🖤「あれが列車を停めたんですか」
❤️「そうです。よく分かりましたね。あなたたちと話がしたくて。少々、細工をさせていただきました」
ソファを勧められ、二人並んで腰掛ける。車庫のある大きなトンネルの中にいるせいか、俺たちは時間の感覚を失っていた。
🖤「あの、今何時ですか?」
❤️「ええと……夜の8時ですね」
🖤「やべ」
8時には間違いなく帰ると言ったのにこれじゃ約束を破ったことになってしまう。俺は家に連絡を取りたいと申し出た。ミヤダテは、俺にスマホを渡すようにいうと、少し触って撫でるような仕草を見せ、そのまま返して来た。
🖤「あ。電波立ってる…」
🧡「マジ!?俺のは全然やで」
🖤「ちょっと失礼します」
妻はワンコールで出た。
🖤『もしもし?亮平?』
💚『あ。めめ!大丈夫?』
🖤『えっ。何が?』
💚『テレビのニュースでやってるよ。今、うちの会社が地球外生物に占拠されたって』
🖤『はっ!?』
慌てて振り返ると、ミヤダテは重々しく頷いた。何か事情を知っているらしい。俺は大丈夫と答えて、また後で連絡すると愛しい妻との電話を切った。
🖤「どういうこと…」
❤️「ですから。我々は、宇宙人なんです」