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俺は電話を切ると、今度は慌ててテレビをつけた。そこには俺たちの勤める深澤不動産(株)の本社ビルが映っていた。しかし、ビルは緑色の見覚えのあるもので覆われていて、アナウンサーが何かスライム状のものが、本社ビルを覆っています!と青い顔でリポートしていた。
🖤「これは…」
❤️「ミドリンです。あちらも私の大切なペットです」
🧡「ピクドンとミドリン……なんやの」
康二の顔は引き攣っている。おそらく俺も同じような顔をしているだろう。
❤️「あなたたちにお願いしたいというのは」
ミヤダテは香り高い紅茶を差し出しながら、長い身の上話を始めた。
💜「これじゃ建物から出られねぇじゃんかよっ!!」
💙「怒ってもしょうがないでしょ、社長」
フライデーナイトは火星ザギンでシースーだとか機嫌良く息巻いていた社長ともども建物内で足止めを食らってはや二時間。俺は、この、直感だけで会社をでかくしたスーパーワンマン社長の秘書として絶対に残業代は申請しようと決めていた。
今日はノー残業デーで、ほとんどの社員が帰宅した後だったから、本社ビルが未確認生物に乗っ取られるという珍事に巻き込まれたのは俺を含め、他に数名しかいない。窓から見えるドロドロの緑の生物はうねうねと動いていてまことに気持ち悪かった。おまけに、その生物のせいで大気中の電波がことごとく遮断されているらしく、スマホなどの電子機器は全く繋がらない。それならばと試したところ、有線電話は何とか繋がったが、消防に救出を求めても救出方法を協議しますという頼りない返答が来て、俺たちはずっとこの社長室で待たされていた。
💛「渡辺さん、大丈夫ですか?」
💙「俺は大丈夫だよ」
免許のない社長のために雇用された運転手、岩本照が心配して俺に声を掛けた。
大丈夫だけど、早く帰りたい。最近自宅に設置した自慢のサウナで汗を流してゆっくりしたい。
何しろ今日はやっと訪れた金曜日なのだ。ゆっくり休める週末の前にこんな残業が待ってるなんて最低最悪もいいところだ。
出入り出来る表玄関も、裏の非常口も、緑色の気持ち悪い生物が出口を塞いでいて外に出られない。俺たち以外にも数名の社員や警備員が建物内に取り残されていた。さっきからテレビはこのニュースで持ちきりだ。通行人の誰かが通報して騒ぎになったらしい。どのテレビ局も、緑色のドロドロした生き物に乗っ取られたうちの社屋を映していた。
💙「早く帰りてぇ」
ため息を吐くと、テレビのアナウンサーが、やたらと地球外生物と連呼していることに気づいた。あの緑のドロドロは、地球外生物らしい。ここは火星だけど。てか、ドロドロ、やっぱ生きてんのか。気持ちわりぃ。
俺は窓からなるべく離れて、そして、社長からも離れて座った。
💜「大丈夫。君は俺が守る」
いや、お前の方が危ねぇよと思ったが一応部下なので黙っておく。照は俺たちを守るように窓を背にしてこちらを向いている。確かにヒョロヒョロの社長よりも、筋トレが趣味だとか言ってた照の方がボディーガードとしては優秀そうだ。
それにしても息が詰まる。
阿部ちゃんが産休に入ってからというもの、社内は俺目当ての社員で溢れていた。これは決して自惚れじゃなく、毎日のように複数人に食事だの飲みだのに誘われるし、デスクには時代遅れのラブレターが連日届くし、俺が少し誰かと話しただけで相手は恋人かと噂になった。
特に社長の深澤との噂は強烈で、社長室で抱き合っていただの、誰もいない廊下でチューしていただのとまったく根も葉もない噂が飛び交っていた。そしてその噂の根源の一部が、他の社員を牽制すべく行われた社長の息のかかった社員たちによるものと知った時は開いた口が塞がらなかった。
正直、社内恋愛する気なんか、俺にはないのだ。俺にはずっと心に想っている大事な人がいるんだから。
🖤「ショウタ・ワタナベ?」
❤️「そうです。知りませんか?」
🧡「えっ……」
康二が驚いた途端、慌てて口を押さえたので、ミヤダテは康二をじっと見つめた。
❤️「…知ってるんですね」
ミヤダテの目は真剣で、怯える康二の目を捉えて離さない。康二はしぶしぶと答えた。
🧡「たぶん、秘書の渡辺さんやと思う…」